参院選で憲法改正を巡る論戦は新たな局面に入りつつある。衆院憲法審査会長ポストを立憲民主党に奪われた自民党は、参院での主導権は維持し、緊急事態条項創設を柱とする改憲の芽をつぶすまいと懸命。立民は自民がけん引する改憲に反対し、地方自治など新たな論点を打ち出す。参政党は教育勅語尊重など復古色の強い主張を掲げる。
◇改憲勢力に温度差
「戦後80年の今こそ、憲法を改正しましょう」。石破茂首相(自民党総裁)は16日、大阪市の街頭演説でこう語った。
ただ、自民主導の改憲の現実味は薄れつつある。衆院憲法審の主導権は、昨年の衆院選を経て、立民に移った。自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党で形成する「改憲勢力」が改憲の発議に必要な衆院の3分の2の議席を失い、憲法審会長に立民の枝野幸男元代表が就任した。
「改憲勢力」はここ数年、国会議員の任期延長を可能にする緊急事態条項について集中的に議論を進め、早ければ昨年中に改憲原案の取りまとめに入る青写真を描いていた。しかし、今年の通常国会ではCM規制や偽情報対策に論点が広がり、「改憲勢力」4党は衆院憲法審幹事会で改憲骨子案を非公式に提示することしかできなかった。
自民は改憲が遠のいた現状では保守層の離反を招きかねないと危機感を強め、公約に「緊急事態対応や自衛隊明記に関する条文案を起草し、改憲原案の作成、国会発議を行う」と明記。維新は「国民投票を早期に実施する」、国民民主は「緊急事態に国会機能を維持する」と歩調を合わせた。
ただ、「改憲勢力」にも温度差があり、公明は緊急事態条項について「論議を積み重ねる」と記すにとどめた。
◇立民は独自テーマ
立民が目指すのは憲法論議の主導権を参院でも奪取し、自らの土俵に持ち込むことだ。公約では「自民党の9条改正案に反対」「緊急事態条項を定める必要はない」と自民の主張に真っ向から反発。一方、臨時国会召集期限の明記、政府の情報公開義務、地方自治の充実など独自の改憲テーマを挙げ、「議論を深める」と記す。
共産党は「9条を守り抜き、改憲策動に断固反対」、れいわ新選組は「緊急事態条項新設のための改憲発議を阻止」、社民党は「憲法を生かした政治を実現」と護憲を訴えた。
◇「教育勅語尊重」も
一方、新興保守政党は「改憲勢力」とも一線を画した改憲論を展開する。参政党は「創憲」を訴え、「新日本憲法(構想案)」を提示。天皇は「国民の幸せを祈る神聖な存在」で、法律の公布などを一度限り拒否できるとした。「国は自衛軍を保持する」とも明記。「教育勅語など歴代の詔勅は教育において尊重しなければならない」と定めるなど、復古色の濃い憲法草案を掲げる。
日本保守党は戦力不保持をうたった憲法9条2項を削除し、自衛のための実力組織保持を明記するとした。参院選の結果は今後の憲法論議の行方を大きく左右する可能性がある。
◇議員任期延長、冷静に議論を
小島勇人・選挙制度実務研究会理事長(元川崎市選挙管理委員会事務局長)の話 衆院憲法審査会ではここ数年、国会議員の任期延長を可能にする緊急事態条項に関する議論が進んできた。選挙実務を担う地方自治体の選挙管理委員会の立場から言えば、大規模災害などで、その直後の任期満了等に伴う選挙が実施できない事態に備え、任期延長の是非の議論は避けて通れない。
災害が発生した場合、自治体は住民の安全確保や復旧・復興が優先される。限られたマンパワーの中、自治体の体制強化がない限り、選挙の実施には手が回らないのが実情だ。こういったことも踏まえ、与野党が冷静に議論を深めてほしい。