ローレン・メキース(レーシングブルズ)と角田裕毅(レッドブル)
F1での5年目に突入した角田裕毅は、2025年第3戦からレッドブル・レーシングのドライバーとして新たなチャレンジをスタートした。元ドライバーでその後コメンテーターとしても活躍したハービー・ジョンストン氏が、角田の戦いについて考察する。今回はオーストリアGPとイギリスGPの週末を振り返る。
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今年、オートスポーツwebから「角田裕毅のパフォーマンスについてのコラムを書いてほしい」という依頼を受けて承諾したことを、このところ後悔し始めていた。
ヨーロッパでの本格的なシーズンがレッドブルリンクとシルバーストンで始まれば、角田が勢いに乗ってくるかと思いきや、この2戦がどうだったかというと、ノーポイントレースが2回増えただけで、しかもどちらも予選でQ3に進むことができなかった。
さらに悪いことに、角田は両レースとも他のドライバーとの不必要な接触に巻き込まれた末に、最下位でレースを終えた。
オーストリアでは、アルピーヌのフランコ・コラピントを追い抜こうとする際に彼をコース外に押し出し、イギリスでは、ハースのオリバー・ベアマンに接触。つまり、角田が最近得た唯一のポイントは、ベアマンとの接触によって科されたペナルティポイントのみ、ということになる……。
角田はイモラで自らクラッシュし、レッドブルが用意した新しいパーツをすべて破損した後、アップグレードにおいてフェルスタッペンより一歩遅れている。しかしシルバーストンではその差は大きくはなかったという。
角田はFP1はルーキーにシートを譲ったため走らず、走り始めたFP2では流れに乗れず、フェルスタッペンに0.666秒遅れていた。しかしFP3では良い位置につけた。
FP3でフェルスタッペンは3番手タイムを記録し、角田は5番手。そして予選Q1ではフェルスタッペンがトップ、角田が13番手で、その差は0.389秒に縮まった。ところが、Q2でその差は0.51秒に拡大し、角田はゲームオーバー。一方のフェルスタッペンは、見事にポールポジションを獲得した。
角田が述べていた主な不満は、マシンのバランスが走行ごとに劇的に変化することであり、自分が次に何を感じるかを予測できないという点にあった。
レッドブルが、彼のタイヤの空気圧やパワーユニットの設定などに関して行っていることが、マシンをここまで不安定にさせているのだろうか。イギリスGPを終えた時点で、角田は完全に途方に暮れており、自分が何をすればこの状況を好転させられるのか、まったく見当がついていない様子だった。
彼のエンジニアリングチームもまた、手がかりを持っていないように見えたので、角田の見通しはまったく明るくなかった。
そんな状況だったため、私はこのコラムの執筆を先延ばしにしていた。コラムに書けるような、少しでも前向きな要素が何も見つからなかったからだ……。そんな時に、突然のニュースが飛び込んできた。ブレイキングニュース! クリスチャン・ホーナーが退任し、ローレン・メキースが新しくレッドブルのCEO兼チーム代表に就任したと発表されたのだ。
この動きは角田にとって、希望の光になりそうだ。昨年と今年最初の2戦で我々が目にした素晴らしいパフォーマンスを彼が発揮するためには、マシンに何が必要かを正確に理解している人物がF1界にいるとすれば、それはメキースだからである。
確かにメキースはレッドブルにCEOとして加わるのであって、レースエンジニアを務めるわけではない。だが、テクニカルデブリーフィングには彼も関与する。そして、角田の好みやそうでないものを完璧に把握している彼なら、そのコミュニケーション能力を駆使し、エンジニアリングチームを正しい方向へ導くことができるはずだ。
だからこそ、私が今言いたいことは、「メキースを信じよう」という、この一点だ。これまでのレッドブルでは、角田の苦戦の理由を誰一人理解していないように見え、状況が改善する可能性はほとんどなさそうだった。しかしそれをメキースは変えるかもしれない。
メキースは、角田がレッドブルに加入して以来、存在していなかったチーム内の味方になり得る存在だ。彼の加入による変化が角田のF1キャリアを救うのに間に合うこと、2026年もレッドブルに残留するための助けになることを、私は強く願う。
────────────────────────筆者ハービー・ジョンストンについて
イギリス出身、陽気なハービーは、皆の人気者だ。いつでも冗談を欠かさず、完璧に道化を演じている。彼は自分自身のことも、世の中のことも、あまり深刻に考えない人間なのだ。
悪名高いイタズラ好きとして恐れられるハービーは、一緒にいる人々を笑顔にする。しかし、モーターレースの世界に長く関わってきた人物であり、長時間をかけて分析することなしに、状況を正しく判断する力を持っている。
ハービーはかつて、速さに定評があったドライバーで、その後、F1解説者としても活躍した。彼は新たな才能を見抜く鋭い目を持っている。F1には多数の若手育成プログラムがあるが、その担当者が気付くよりもはるかに前に、逸材を見出すこともあるぐらいだ。
穏やかな口調でありつつも、きっぱりと意見を述べるハービーは、誰かが自分の見解に反論したとしても気にしない。優しい心の持ち主で、決して大げさな発言や厳しい言葉、辛辣な評価を口にせず、対立の気配があれば、冗談やハグで解決することを好む。だが、自分が目にしたことをありのままに語るべきだという信念を持っており、自分の考えをしっかり示す男だ。
[オートスポーツweb 2025年07月19日]