
国会議員の所得は1人当たり平均2513万円
最近ネットを中心に、国会議員の報酬は多すぎるという意見が聞かれます。6月に公開された衆参両院の国会議員の昨年1年間の所得は1人当たり平均2513万円でした。この数字は議員が一律にもらう「歳費」のほか、自身が行った別の仕事からの収入を加えたものですが、歳費だけでも年間約2200万円(衆参で若干異なる)となります。
これに対する反応はさまざまです。多すぎるというものもあれば、国の舵取りという重要な仕事をしているのだからこれくらいもらって当然という意見もありますが、このままでは漠然としたままです。
そこで少し話の解像度を上げ、報酬の仕組みから見てみましょう。
国会議員の報酬の仕組み
国会議員の報酬(給料)は「歳費」と呼ばれ、月額129万4000円に期末手当(ボーナスのこと。年に約600万円)を加え、年間約2200万円が支給されます(衆・参で若干異なります)。
|
|
その代表格が「文通費」こと「文書通信交通滞在費」(旧名称)です。
毎月100万円、年に1200万円支給され、使途も非公開で領収書の公開も不要のため、何に使われているのか分かりません。まさに議員特権の代表格で、「第2の給料」「国会議員の小遣い」として問題視されてきましたが、法改正を受け、「調査研究広報滞在費」に名称変更され、2025年8月からようやく使途公開と残金返納が義務づけられることになりました。
この「調査研究広報滞在費」は実質的に議員報酬も同然ですが、報酬にはカウントされていません。もしカウントすれば歳費2200万円に1200万円が上乗せされ合計約3400万円。民間企業の役員クラスに跳ね上がります。
この他に「立法事務費」が年間780万円、「秘書給与」として年間1800万円以上が支給され、さらに視察の手当や旅費(チケット)などが支給されますから、1人の議員に対し、税金から少なくとも年間約6000万円以上が支出されていることになります。
|
|
議員報酬の国際比較
他国との比較ではどうでしょうか?議員報酬の内訳や定義は国によって異なり、同一尺度で比較することは難しいですが、2019年3月に行われた「国会議員報酬国際比較」調査によれば、上位10カ国は図1の通りです。

この調査で日本はトップ3に入っていますが、額面通りに受け取るのは適切ではありません。なぜならこの種の調査には限界があるからです。
例えば5位のアメリカは上院と下院で支給の仕組みが異なり、場合によっては億単位で異なります。
また日本の「旧文通費」が報酬にカウントされないのと同様、ある国では議員が負担している費目を、別の国では国が全額負担するなど、条件や定義の違いで実質的な支給額が変わるため、単純に比較するのは間違いのもとです。
それにこの調査はあまりポピュラーでなく、意図して調べない限り、知ることがないデータです。
|
|
それは国民生活とのギャップではないかと考えられます。
1年間働いても国会議員の2カ月分の給料がもらえない日本国民
2024年に発表された厚生労働省の「国民生活基礎調査」では、国民所得の中央値は1995年の550万円から2022年は405万円に低下し、実質賃金は1997年の指数を100とした場合、2023年は83まで落ちています。つまり“1年間働いても国会議員の2カ月分の給料がもらえないのと同じ”なのです。厚労省によれば国民の約6割が生活が苦しいと答えていますが、こんなに低下しているならばそんな声が上がるのも当然です。
一方の国会議員はどうでしょうか?
話を分かりやすくするため、「歳費」に「調査研究広報滞在費」を加えた約3400万円を議員の“実質的所得”とみなした場合、国民の所得中央値(405万円)に対し、議員の実質的所得は「国民の8倍以上」になります。
批判の根底にあるのは「不公平感」
国民の生活は悪化の一途をたどっています。所得の中央値が27年間で145万円も落ち、実質賃金も17%下落しています。東京都内のマンションは平均価格が1億円を超えるなど、私たち一般人には手の届かないものになっています。その一方で国会議員は高級マンションに引けを取らない議員宿舎を格安で提供されています。
また極端な円安により、海外旅行は庶民にとって高嶺の花となっていますが、国会議員は税金を使って「外遊」に出掛けます。しかも外遊先で撮ったいかにも楽しそうな観光写真を“視察”と称してSNSにアップしたりします。
議員にも夏休みを取る権利はありますし、外国に旅行する権利もありますが、その旅費は国民の税金です。自分たちは行けないのに、自分たちから吸い上げた税金で議員が観光している姿を見て「不公平感」を感じないわけがありません。
議員が本来の仕事をしていないように見える
百歩譲って、議員が本来やるべき仕事をしっかり行い、十分な成果を出してくれていれば、多少の議員優遇について国民も目をつぶるかもしれません。ところが最近、国会議員は仕事の成果よりもスキャンダルで話題を振りまくことのほうが多くなっています。自民党旧安倍派を中心とした裏金事件もその1つです。
消費税が10%に値上げされ、そこに円安と物価高騰が加わり、ただでさえ生活が苦しい国民に対し、インボイス制度を導入し、1円たりとも税逃れは許さない態度の裏で、自分たちはせっせと裏金作りをしていたことに国民はだまされた気分になり、批判の声を上げました。
それが下火になるのと入れ替わるように批判の対象となったのが議員報酬ですが、ここで1つ気になることがあります。数ある政治課題の中で、なぜ議員報酬がやり玉に挙げられたかです。
権力に対して意見が自由に言えなくなったから?
議員報酬が高いのは今に始まったわけではありません。何十年も前から国会議員の報酬は国民とくらべてはるかに高く、むしろ議員年金が廃止された現在のほうが、議員が手にするお金は少ないくらいです。ならばなぜ、今さら議員報酬に批判が向けられるのでしょうか。他の政治課題と議員報酬の間にはどんな違いがあるというのでしょうか?
このところの政治を取り巻く状況から、それは“言論の自由”に関係している可能性があります。
権力にもの申すことの怖さを植え付けられた?
近年、権力に対して意見を言うことの怖さを感じさせられる出来事が起きています。例えば第2次安倍政権以降、与党の街頭演説でヤジを飛ばした人が拘束されたり、SNSで政権批判をした人が攻撃の対象にされるなど、権力に対して意見を言うことの怖さを感じる出来事が起きています。
中には救済を求める声を上げた弱者にまで批判が集中するなど、権力批判とも取られる発言はリスキーな行為となりました。
一方で、そうしたリスクをほとんど伴わないのが議員報酬に対する批判です。
なぜなら議員報酬は国会議員全員が対象ですし、全員一律でもらうため与党も野党もなく、何か言っても特定の党や議員を指すことにはならないからです。
つまり議員報酬を批判しても、言った人の身は安全というわけです。
同じ理由で議員宿舎の問題も各党に共通しますから、議員報酬への批判が止めば、次は議員宿舎が批判の対象として取って代わるかもしれません。
安全かつ確実に政治参加できる方法とは?
では、今後私たちはどのように政治参加すればよいのでしょうか。権力批判は避け、議員報酬や議員宿舎といった各党に共通する問題以外、私たちは意見を言うのを控えたほうがいいのでしょうか?そんなことはありません。意思表示のやり方を変えればいいのです。ネットで意見を言うよりも安全かつ確実に政治参加ができる方法があります。
それは選挙で投票することです。
投票すれば私たちの1票が反映されます。入れたい人がいなければ、最も当選させたくない候補者以外に入れればよいのです。誰に入れたか言う必要もありませんから批判されることもありません。これが最も安全で確実な政治参加の方法です。
たった1票と思わないでください。その積み重ねが1000人になれば1000票、1万人になれば1万票になります。1万票あれば選挙の結果を左右する力を持ちます。あなたと同じ意見が1つのまとまりとなって政治を動かすことができるのです。
ネット上で発言するのも政治参加の1つですが、自分の意見を投票に託すことこそ、有権者に保障された最良の政治参加の方法と言えそうです。
松井 政就プロフィール
作家。国会議員のスピーチライター。政治、文化芸術、スポーツ、エンタテインメント分野の記者、事業プランナーとしても活躍。(文:松井 政就(社会ニュースガイド))