
急展開を見せた日米の関税交渉。合意内容が徐々に明らかになってきました。
日米双方が“合意成果”をアピール“任務が完了”し、24日、帰国した赤沢経済再生担当大臣。
赤沢亮正 経済再生担当大臣
「まさに守るべきは守った上で、日米両国の国益に合致する形で、今般の合意を得ることができたと」
改めて成果をアピールしました。
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赤沢大臣から報告を受けた石破総理は…
石破茂 内閣総理大臣
「日本の利益にもアメリカの利益にも叶うもの。そういう形で合意ができたと。私からは赤沢大臣ならびに力を尽くしてくれた、多くの方々に心からの感謝を申し上げた」
電撃決着となった日米の関税交渉。アメリカのトランプ大統領も、合意内容に満足の様子です。
トランプ大統領
「素晴らしい結果だ、日本側も大満足だ。日本の株は上がり、我々の株もぐんと上がった。これが理想のかたちだ」
日米双方が成果を強調した今回の合意。その詳細を公開したのは、アメリカのホワイトハウスでした。
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▼日本が「ボーイング」社の航空機を100機購入するほか、
▼大豆やトウモロコシなどを80億ドル、およそ1兆2000億円分購入すること
などが明記されています。
難航を重ね、ようやく合意した関税交渉を政治・経済の専門家、そして現場の人たちはどう評価したのでしょうか。
振り回された自動車業界まず、焦点となった「自動車関税」。交渉の末「15%」となりました。
ただ、ベッセント財務長官からはこんな発言が…
ベッセント財務長官
「我々は四半期ごとに、合意の実施状況を評価します。もしトランプ大統領が不満であれば、関税率は25%に戻ります。自動車も、それ以外もです」
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振り回された自動車業界。トヨタの佐藤社長は…
トヨタ自動車 佐藤恒治 社長
「15%という関税自体は、決して影響小さくはありませんが、大きく前進をしたということで、しっかり見通しを立てて、必要な対応を取り組んでいく」
自動車の部品メーカーからは…
テイン 渡邊宏尚 執行役員
「関税が下がったとしても15%、そこは非常に高い数値ですので、影響度としては大きいと思います。合意しましたけども、今後日本の出方次第では、又どうなるかっていうのは、トランプ大統領の政権というところで不安はあります」
次に、アメリカに対する5500億ドル、日本円でおよそ80兆円の投資。具体的な分野としては、LNG=液化天然ガスなどのエネルギーインフラや生産などに充てるとしています。
またLNGをめぐっては、80兆円の投資とは別に、アラスカでの共同開発をするとしています。
この巨額投資は、日本にどのような影響を及ぼすのでしょうか。経済の専門家は…
丸紅経済研究所 今村卓 社長
「現地で拠点を作って生産をして、ビジネスを拡大していくというのは、多くの日本企業にとってみれば十分成り立つ話であります。直接投資はほっといても膨らんでいく。そうしたところを(投資が)後押ししていくというのは、国益にかなう話」
一方、政治の専門家は慎重な姿勢です。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩
「強引に『政府保証』をつけるということで、後々になってみると『いやこのプロジェクトはうまくいきませんでした』ということになったら、これは大変な損失を生むわけですね。非常にリスクの大きな案件だと思う」
「自動車(関税引き下げ)のために、日本がアメリカに対してかなり過大な投資をせざるを得なくなった構図。自動車のために、色々なものを犠牲にしているという点は否めない」
小川彩佳キャスター:
アメリカ側から様々な合意内容が明らかになってきましたが、斎藤さんはこの内容についてどう評価していらっしゃいますか。
東京大学准教授 斎藤幸平さん:
「属国」ジャパンとしては頑張ったと思います。今回トランプ大統領がやってること自体がめちゃくちゃなので、これで「よくやった」というのは感覚が麻痺している気もするのですが、私が在住するドイツ、EUなどは日本ほど関税交渉に力を入れていないので、8月1日の期限に向けて、日本の交渉成立が少しプレッシャーになっている印象がありますね。
藤森祥平キャスター:
どの角度で評価を行えばいいのかの難しさがあります。
アメリカ側が示した関税交渉のファクトシートの中で、防衛装備品に関する合意内容が記されています。これまで日本政府としては、関税交渉と安全保障の協議は別であるという説明があったにも関わらず、アメリカ製の防衛装備品を毎年数十億ドル購入するという内容が記載されています。
当然、この記載内容について帰国した赤沢経済再生担当大臣へ、記者からの問いがありました。赤沢大臣曰く「既に決定している計画に基づいたもの」としていますが、ジャーナリスト・星浩さんの見立てでは「(日本がアメリカ側に)“追加購入の意思がある”と示したことは間違いない」ということです。
その意味で、日本政府としてはアメリカ側に今回の合意内容を明らかにして欲しくなかったのでは、と見られています。
小川キャスター:
これまで政府が言ってきたこととは矛盾していますし、しっかり説明を求めなければならないと思います。斎藤さんは合意内容全体をもって、気になった点はありますか。
斎藤さん:
日本からアメリカへの80兆円の巨額な投資ですよね。ラトニック商務長官はインタビューの中で、「その使い道はアメリカ側が判断し、投資先が日本企業でなくとも、また得られる利益の90%はアメリカ側に」というとんでもない発言をしています。これでは仮にプロジェクトが失敗した場合、投資のリターンは失われ、リスクは大きいということになりかねない、という心配を、関税交渉の全貌が判明していないなりに抱いています。
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〈プロフィール〉
斎藤幸平さん
東京大学准教授 専門は経済・社会思想
ドイツ在住 著書『人新世の「資本論」』