
「一緒に過ごせた2年間は、夢のような日々でした。一緒に寝てくれる子がいいなと思っていたら、本当にそういう子だったし、色々なご縁も紡いでくれた。愛情深く、人の言葉も理解してくれていました」
飼い主さんは(@felsen_cat555)は、亡き愛猫ゆうまくんをそう愛でる。ゆうまくんは22歳で保健所に収容された子。
飼い主さんと出会い、たくさんの愛情を注がれて24歳で虹の橋へ旅立った。
先代猫の四十九日に知った「保健所の老猫」に運命を感じて
2023年、飼い主さんは愛猫フェルゼンくんを、4歳で亡くした。抗がん剤治療を頑張り、寛解となった矢先の出来事だった。
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四十九日となる2025年8月25日、飼い主さんは法要をしに、長野県の善光寺へ。法要前の時間つぶしにとインスタグラムを開いた時、長野市の保健所に22歳の老猫が収容されていることを知った。
その老猫こそが、ゆうまくん。元飼い主はやむを得ない事情から、ゆうまくんを含めた愛猫3匹を、半月ほど前に保健所へ連れて来たようだ。
飼い主さんは、フェルゼンくんの四十九日に存在を知れたことに運命的なものを感じ、迎え入れたいと思った。
「もっとお世話したかったのに、フェルゼンが若くして亡くなってしまったから、手のかかる子を迎えたいという気持ちもありました」
初対面時に衝撃を受けた「爪の状態と体臭」
面会日は、フェルゼンくんの誕生日である9月4日にした。初対面した時、ゆうまくんは爪が切られすぎており、体からは糞尿のにおいが…。
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「肉球に爪が刺さった跡がありました。おそらく、元飼い主は動物病院に連れて行かず、伸びすぎて巻いた爪を自分で根本から切ったんだと思います」
対面前からお迎えしようとほぼ決めていたが、ゆうまくんの姿を見て、その想いはより強くなった。
お迎え前には、かかりつけ医やフェルゼンくんのセカンドオピニオン先であった自然療法を主とする動物病院へ行き、ハイシニアの子のケア法を聞いたそう。
「自然療法は、かかりつけ医まで車で40分かかる我が家の立地も考慮し、頼るようになりました。ケア法を学んで、何かあった時に備えたくて」
お迎え当初、ゆうまくんはキャリーケースを開けてもなかなか出てこず。しかし、しばらく様子をうかがい、安全なことを理解するとリラックスしてくれるように。笑っているような寝顔を見せてくれるようになった。
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一番のお気に入りスポットは、飼い主さんの香りが感じられるベッド。真夏でも、左側でくっついて眠ってくれたという。
野性的な顔つきなのに性格は「赤ちゃん」
お迎えからしばらく経った頃、ゆうまくんは腎臓の数値が悪くなり、治療が必要になった。飼い主さんは様子を見つつ、週2回ほど自宅で点滴を行うように。
「でも、ゆうまはポジティブなので“嫌なこと”ではなく、『ママが構ってくれるからいいや』と捉えている感じでした」
ゆうまくんは食欲旺盛でもあった。飼い主さんは色々なものを食べさせてあげたいと思い、シニアフードを10種類以上揃えたり、知識を得た上で手作り食をあげたりしたそう。また、快適に暮らせるように家具を少なくしたり、段差をなくしたりと生活環境も見直した。
「顔つきは野性的なのに、性格は赤ちゃんでした。羊かヤギみたいな鳴き声もかわいかったし、『ママ』と言えるところも愛しかったです」
大きな異変が現れたのは、2025年5月上旬。折れた右上の犬歯が歯茎の中で虫歯になり、顔が腫れてしまったのだ。
ゆうまくんは抗生剤やステロイドを使ったことがなかったため、体にかかる負担を考慮し、ひとまず自然療法を主とする病院へ。ゆうまくんは歯の痛みや膿の鼻水でフードのにおいを感じにくくなったことで、食欲が減退した。
「でも、生きる気力がある目だった。口からおいしく食べることに反したくはなかったけど、強制給餌を行うようになりました」
頼りにしていた病院での点眼でアナフィラキシーショックに
治療や献身的なケアにより、ゆうまくんの体調は快方へ。もっと元気になってほしい。そう思い、飼い主さんは5月30日、腎臓によいサプリメントを処方してもらっている遠方の動物病院へ。
眼球がない左目の目ヤニケアにも良いとの気遣いから獣医師は点眼してくれたが、その後、異変が。目の粘膜が腫れ、左側の頬も腫れてしまった。
アナフィラキシーショックではないか。そう感じ、かかりつけ医を受診したが、その日は主治医の院長が不在。他の医師から左頬の腫れも虫歯の影響だと告げられ、抗生剤での治療を提案されたが、普段診てくれている主治医の見解も聞きたいと思い、その日は目の洗浄のみ行ってもらった。
「人間と同じで動物も、長期間口から摂っていたものを皮膚や粘膜から取るとアレルギーを起こすことがあるそうです。ゆうまの場合は腎臓によいサプリに使われていたものと同じ成分が目薬にも入っており、アレルギー症状が現れたとのことでした。点眼をした病院側も、アレルギー反応だと認めています。」
どうにかよくなってほしいと思い、飼い主さんはかかりつけ医やセカンドオピニオン先に相談し、治療を続けた。だが、目や顔の腫れは引かず。6月5日、ゆうまくんは飼い主さんに腕枕されて息を引き取った。
「亡くなる数日前から、ずっと私から視線を反らしませんでした。一緒にいるのが嬉しいという気持ちが、視線からすごく伝わってきた。本当に私のこと好きなんだなと、亡くなる数日前に気づいて、ありがとうと思いました」
最期の時、飼い主さんは「腕枕かお腹の上での抱っこ、どっちがいい?」と質問。両方と言われたように感じて希望に沿うと、ゆうまくんは顔をあげて飼い主さんの顔へ限りなく近づき、旅立った。
「腎臓によいサプリには助けられたので、病院側を責めるつもりはありません。ただ、寿命で逝かせてあげたかったから気持ちの整理ができませんでした」
ペットロス後に待っていた「驚きの出会い」
ゆうまくんを亡くした後、飼い主さんはフォロワーさんにお葬式の日時を知らせ、葬儀の1週間後には「偲ぶ会」を開いた。
「私は励まされるよりも、ゆうまを好きでいてくれたフォロワーさんたちと思い出話をしながら食事をして悲しみを共有することで、辛さが和ぎました」
また、ゆうまくんの存在を知る時間を授けてくれた善光寺の丁寧な法要も癒しとなったそうだ。
現在、飼い主さんはゆうまくんと同じ茶白猫のモーツァルトくんと暮らしている。きっかけは、ゆうまくん亡き後、なぜか「保健所のホームページを見なきゃ」という気持ちに駆られたことだった。
「そしたら、ゆうまと同じ茶白の子ばかりで…。モーツァルトは、ゆうまと鼻の穴がそっくりだった。夜中でも膿の鼻水をケアしていたので、彼の鼻はよく覚えていたので(笑)」
なお、モーツァルトくんは背中の模様がフェルゼンくんと同じであるそうだ。
お迎え初日から、リラックスしてくれたというモーツァルトくんは寝る時、片手を立てるという、ゆうまくんの癖を見せることも。
「生前、ゆうまに『若い頃どんな顔してたの?夢でいいから見せてよ』と話していたので、こういう形で見せてくれたのかもしれません」
自分が生きている限り、亡き愛猫の話をすることもひとつの供養
実は飼い主さん、ゆうまくんを迎える際、先代猫が亡くなって間もないのに新しい猫を迎えるなんて…と、少し罪悪感があったという。
「まだ、他の子を見て悩む時期じゃないんだろうな、ごめんねって。でも、モーツァルトは亡き愛猫たちから託されてると思えたから、すんなり迎えられました」
また、罪悪感を抱いたのが申し訳なかったと思えるほど、ゆうまくんとの日々が尊いものであったから、モーツァルトくんを前向きに迎え入れられたとも話す。
「人と同じで猫も、肉体が滅んだ時と忘れられた時の2回死ぬと思う。だから、私は生きている限り、ずっと話す。亡き愛猫の話を1日1人にはするみたいことも、ひとつの供養だと思うんです」
そう話す飼い主さんは、“自分は愛猫に選ばれた親”という気持ちで、猫を愛してほしいと考えている。
「成猫や老猫を迎える時には、その子が『初めからここで暮らしていた』と思えるほど愛してほしいです」
元飼い主には22年間、ゆうまのお世話をしてくれてありがとうと伝えたい。そんな飼い主さんの言葉には、心に刺さるものがある。
どんな人間と出会うかで猫のニャン生や最期は大きく変わるからこそ、命を迎える時には一生幸せにする覚悟があるか自問自答してほしい。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)