限定公開( 1 )
9月25日、国際協力機構(JICA)は、日本の国内4都市とアフリカの4カ国の国際交流事業「JICAアフリカ・ホームタウン」構想を撤回すると発表した。JICAは8月に横浜で開催された「第9回アフリカ開発会議(TICAD9)」に合わせて事業を発表していたが、撤回されるまでの1カ月間、SNSでは事業をめぐる “誤情報”が拡散され続けていた。
JICAは8月21日、愛媛県今治市とモザンビーク、千葉県木更津市とナイジェリア、新潟県三条市とガーナ、山形県長井市とタンザニアを、それぞれ「JICAアフリカ・ホームタウン」に認定。アフリカの課題解決、日本の地域活性化のための人材交流や連携イベントを、JICAとしてバックアップすることが目的だった。
ところが、Xではホームタウン構想が“移民促進を目的としている”と訴える投稿が拡散。というのも、タンザニアの現地紙『The Tanzania Times』では「Japan Dedicates Nagai City To Tanzania」(直訳すると「日本がタンザニアに長井市を捧げた」)でとの見出しで事業が報じられたほか、ナイジェリア政府が公式リリースとして「日本政府が特別なビザを発給する」と発信していたのだ。
関係諸国との認識違いが生じるなか、JICAは8月25日に公式HP上で《現地の報道等の「JICAアフリカ・ホームタウン」のもとで山形県長井市がタンザニアの国の一部になると誤解を与えるような記載や、移民の受け入れ促進、日本と当該諸国との往来のための特別な査証の発給等の記載は、いずれも事実に反します》と声明を発表。
JICAが訂正を申し入れた結果、日本時間27日までにナイジェリアのリリースから「ビザ」の文言が削除された上で、《文化交流の促進を目指す取り組み》であることが明記され、タンザニア現地報道でも「dedicate(『捧げる』の意味)」の単語が削除された。
|
|
JICAを所管する外務省も9月4日、公式HP上で《8月25日付の報道発表のとおり、移民の受け入れ促進や相手国に対する特別な査証の発給を行うことは想定されておらず、こうした点を指摘する一連の報道・発信は事実ではありません》と発表。ただ、こうした公式見解が出された後も、Xでは一部で懐疑的な声がくすぶり続けた。
《火のない所に煙は立たぬ。JICAとナイジェリア政府、タンザニア政府との間に、特別ビザの話があってもおかしかない》
《はあ?まったく信用できない。なし崩しにアフリカから移民を受け入れるのが目的でしょ?誤魔化すなよ!》
《裏でコソコソ移民受け入れをやろうとしてるのはもう国民わかってんだよ!!日本人なめるのもいいかげんにしろよ!》
8月末には東京・千代田区にあるJICA本部の前で「JICA解体」を掲げたデモも起こっていた。毎日新聞の報道によると、ホームタウンに認定されていた木更津市では9月22日までに、市内外から約9000件の電話、4000通を超えるメールが殺到するなど、騒動の余波は広がるばかりだった。
そして、JICAの田中明彦理事長(71)は25日の会見で、ホームタウン構想の撤回を発表し、「ホームタウンという名称に加えて、JICAが自治体を認定するという構想の在り方そのものについて国内で誤解と混乱を招き、4つの自治体に過大な負担が生ずる結果となった。この場を借りて改めてお詫び申し上げたい」と謝罪。結果的に、JICA側が、移民を受け入れたという誤情報に“折れた”形となった。
ネット上の陰謀論やデマをウォッチしてきたライター・黒猫ドラネコ氏は今回の騒動をどう見たのか。黒猫氏は8月29日に行われた「JICA解体デモ」にも足を運んだといい、現場には100人以上が集まり、JICA批判に加えて、アフリカの人たちに対する差別的な言説も振りまかれていたという。
|
|
「『エボラ・ファーストか』と叫んだり、治安が悪化して暴力事件が起こるとあおったり、とにかく “アフリカ人はヤバい”という差別的な持論を展開する人が大勢を占めていましたね。ただ、これも完全にイメージだけで言っていて、被害を実際に目の当たりにしたことは多分なくて、ネットで情報を見かけて正義感を刺激され、『JICAは我々の敵だ』と掲げる集団が形成されたという状態です。政治団体の関係者と見られる人が参加者に国旗を配り、主催者のインフルエンサーの男性が切り上げた後も、女性がJICA本部に向かってスピーカーで延々と『君が代』を流すという光景も見られました」
JICAが否定してもなお、“移民を受け入れる気だった”といったデマが拡散し、デモが発生するなど大きなうねりが生まれ、結果的にホームタウン構想は撤回を余儀なくされた。石井理事長は会見で「誤情報に屈したつもりはない」と主張したものの、SNSでは「デマの発信に成功体験を与えた」という指摘も上がっている。
「結局、JICAや外務省がいくら否定しようが、インフルエンサーを含めデマを発信するような有象無象は『そんなの信じられるか』『誤情報で片づけるな』と公的な情報にも聞く耳を持たないんです。だから論破も出来ない。ネット情報で膨らませた空想を相手に投げ続ければ、数の力で圧倒できるようになってきました。
ちょっと前までは、クレーマーって敬遠される存在でしたが、勝てる時代になってしまった。自治体も対応に追われて疲弊してしまうんですよね。なので、“成功体験を与えてしまった”という批評は正しいかもしれません。JICA側は『ホームタウン』という名称が誤解を与えてしまったと釈明していた通り、反省すべき点はあったのかもしれませんが、ビザの発給といった誤情報は相手政府側に落ち度があるわけで、JICAもある意味では被害者という側面もあると思うんです。ただ、彼らにはそれも関係ない。公式見解も聞かずに、自分たちが“裏がある” “疑わしい”という空想を押し通すので」
最後に黒猫氏は、「根拠不明の情報を信じ込む前に、落ち着いて立ち止まって欲しい」と話し、最後に真偽不明の情報の取り扱い方にこう警鐘を鳴らす。
|
|
「陰謀論めいた情報に感化される人はいつの時代も一定数いますが、信じ込んでもいないのに、“ふんわり”とその投稿を拡散してしまうような人も結構いるんです。それも大きな問題で、一度立ち止まって欲しいです。まずは真逆の意見も見ることに尽きます。“こんな意見が盛り上がっているのか”と流されている人が非常に多い。例えばXで1万リポストされているからと言って、それが正しいとは全く限らない。SNSとはそういう空間で数は重要じゃないんです。公的機関の意見の方が間違いは少ないと思って接してもいいのではないでしょうか。“何か裏がある”という人がいた場合、その“裏”が確かなものとして明らかになったときに反応しないと、陰謀論の拡散に加担することになります」
動画・画像が表示されない場合はこちら
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 Kobunsha Co., Ltd. All Rights Reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。