来年のワールドカップをスペインがボイコット? イスラエル問題で極度に緊張感高まる欧州予選

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2025年10月02日 07:10  webスポルティーバ

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 10月9日から11日にかけてヨーロッパの各地でワールドカップの予選が行なわれる。ノルウェー対イスラエルもそのひとつ。ノルウェーはこの試合に勝てば本大会の出場権を獲得する。だがいま、世界が注視しているのはその試合の結果ではない――。

 先日、ニューヨークで開かれていた国連総会。その会議場につながる廊下では、集まった各国の指導者たちがサッカーの話をしていた。そう書くと牧歌的に感じるかもしれないが、実はそうではない。どこのチームが好きか、どこが勝つか、そんな平和な話ならばよかったのだが、その内容は極めてきな臭い。

 アメリカのドナルド・トランプ大統領や欧州各国の首脳たちは、地球上で最も人気のあるサッカーの歴史のなかでも例を見ない事態について話し合っている。焦点はイスラエルの処遇だ。

「FIFA(国際サッカー連盟)を説得してイスラエルを処罰させろ」と求める国もあれば、逆に、アルゼンチン、パラグアイ、セルビア、ドイツ、イギリス、ハンガリーといった国々は「いかなる処罰にも反対する」とイスラエルを擁護する。

 今、国連の舞台で、サッカーは戦争や平和と並ぶ外交テーマになっているのだ。

 イスラエルを欧州のすべての大会から排除するか否か。それを審議するため、UEFA(欧州サッカー連盟)はここ数日中に執行委員会を開く予定だ。AP通信によれば、そこでイスラエルの処遇を決める投票が行なわれるという。委員会には各国政府、各国サッカー協会など、あらゆる方面から圧力がかかるだろう。彼らはイスラエルへの処罰を強く求めている。

 最初にイスラエルの排除を要求したのはノルウェーだったが、それに多くの欧州諸国も続いた。なかでもスペインとアイルランドは最も強硬で、サッカーの枠を超え、EUとイスラエルの各種の協定の停止まで提案している。つまり、あらゆるレベルでのイスラエルのボイコットだ。

 この動きは欧州以外でも起こっており、カタールは、数週間前からイスラエルを世界のサッカーの舞台から追放するよう水面下で活動している。ここにきて国連人権委員会の専門家グループがイスラエルをガザでの戦争犯罪で非難する報告を出したことで、さらにイスラエル排除の動きは加速している。

【イスラエルがなぜUEFAなのか】

 一方で、イスラエルを擁護する国々もある。ドイツは100%親イスラエルというわけではないが、歴史的にイスラエルと緊密な関係を持つ。南米の国々もそうで、そして何よりアメリカだ。

 アメリカは国務省を通じて「イスラエルをワールドカップから排除することは絶対に許さない」と表明した。トランプも「2026年大会を政治決定で汚すことは許さない」と公言している。アメリカは来年のワールドカップの主要開催国だ。だからこそ、ここ数日行なわれているピッチの外の「試合」は一層デリケートなものになっている。

 ここで少し、イスラエルのサッカーの歴史をおさらいしておこう。イスラエルはさまざまな大陸でワールドカップ予選を戦ってきた。

 イスラエルは地理的にはアジアに入る。しかしアラブ諸国などが「イスラエルとは対戦しない」「対戦するくらいならFIFAを脱退する」と主張し、実際、試合をボイコットすることもあった。このためイスラエルは大会ごとにヨーロッパ予選やアジア・アフリカ予選、オセアニア予選などに組み入れられ、最終的にはヨーロッパに回されることで落ち着いた。1991年以降は、クラブも代表チームもUEFAの枠で戦ってきた。

 UEFAに入れたのにはFIFAのこんな政治的思惑もあった。ヨーロッパは強豪ぞろいで、ここに入れておけばイスラエルはまず世界の舞台まで勝ち進めない。敵対する国と対戦する危険が減るというわけだ(ただし、最近ではイスラエルサッカーが強くなり問題が起きている。2022年のU‐19欧州選手権で準優勝し、翌年のU‐20ワールドカップに勝ち進んだが、開催国だったインドネシアが拒否。アルゼンチンで代替開催された)。ヨーロッパで戦うことは、イスラエルが生き残るための唯一の手段だった。だが現在、そのUEFAからも追い出されようとしている。

 すでに現在のイスラエルは自国で公式戦を行なう権利を失っている。この2年間、代表はハンガリーでホームの試合を行ない、クラブはセルビアやギリシャのスタジアムを借りて欧州のカップ戦を戦ってきた。ヨーロッパリーグに出場している唯一のイスラエルのクラブ、マッカビ・テルアビブも代表と同様、テルアビブから遠く離れた場所でホームゲームをしている。これは明文化された処罰ではないが、現実としてすでに行なわれているペナルティだろう。

【UEFA対FIFAに発展も?】

 そして現在は「完全排除」が議論されている。これが可決されればイスラエルは、ロシア同様、世界のスポーツから孤立することになる。

 ロシアは現在、FIFAとUEFAのどちらからも排除されている。2022年2月のウクライナ侵攻の直後、速やかに決定された。その理由は明確だ。ロシアが他国を侵略したからだ。

 今回、イスラエルを擁護する側は「ロシアとは状況が違う」と主張する。「イスラエルは自ら好んで戦争を始めたわけではない。テロリストに攻撃をされたからだ」と言うのだ。2023年10月7日、イスラエルはハマスによって残虐な攻撃を受け、251人が拉致され、今もなお48人のイスラエル人が監禁されている。だから「ロシアとイスラエルを単純に比較できない」と、彼らは言う。

 一方で、イスラエルに処罰を求める側は「ルールは同じでなければならない」と主張する。イスラエルは現にガザに攻撃を行なっている。ロシアが罰せられたなら、イスラエルも罰せられるべきだ。そうでなければサッカー界の信用は失墜すると、彼らは言う。

 もしUEFAがイスラエルを排除する決定を下せば、FIFAは大きな選択を迫られることになる。UEFAの決定に対し、FIFAが沈黙を守ることはできない。FIFA本部のあるチューリッヒでも緊急の臨時理事会が必要だという声がすでに上がっている。公式日程はまだ決まっていないが、近いうちに招集がかかるだろう。

 そこでもしFIFAがヨーロッパの決定に従わなければ、前例のないUEFA対FIFAの「世界的な衝突」に発展する可能性がある。サッカー界で最も強力なふたつの組織が、ひとつの加盟国をめぐって正反対の判断を下す事態となるかもしれない。

 ワールドカップ主要開催国アメリカはFIFA内で1票しか持たない。しかし、政治的な影響力は他のどの国よりも大きい。特に2026年ワールドカップ開幕まで200日余りの時点では。

 もちろんFIFAは何が何でもこの史上最大のワールドカップを決行したい。そのためにFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長はずっとアメリカとトランプにすり寄ってきたのだ。そしてトランプはすでに「イスラエルへの処罰はない。以上だ」と明言している。

【UEFAの決定を待つノルウェー】

 もしFIFAがUEFAに従ってイスラエルを排除すれば、アメリカは必ず猛反発するだろう。そうなると、場合によってはワールドカップの開催そのものが危うくなる。理論上、FIFAはアメリカの開催試合を共同開催国であるメキシコやカナダに移すこともできる。3カ共同開催と言いながらも、試合のほとんどをアメリカに持っていかれたことに両国は不満を抱いていたのは確かだ。だが、今から仕切り直すのは現実的にはほぼ不可能だろう。

 逆にFIFAがイスラエルを処罰せず、UEFAだけが排除すると決めた場合は、今度は欧州諸国が反発し、事態はいっそう複雑化する。スペインはすでに「ワールドカップをボイコットする可能性がある」としており、ノルウェー、ベルギー、ポルトガル、アイルランドも同様の立場を取っている。

 そしてここにもうひとつの思惑が見え隠れする。UEFAとFIFA。このふたつの組織は常に対立の構図にある。FIFAは世界のサッカーのすべてを支配したいが、UEFAは自分たちヨーロッパがサッカーの中心であるという自負がある。最近FIFAが推し進めてきた各大会の巨大化に、UEFAは選手の疲弊などを理由にことごとく反対していたが、いつもFIFAに押しきられてきた。

 だが、ワールドカップにヨーロッパのチームが参加しなければ、大会は成り立たない。今回の問題で、FIFAはUEFAの偉大さを否応なく感じることになった。これはUEFAにとって、一矢報いる大きなチャンスでもある。

 ワールドカップ自体が中止になる可能性は現時点ではほぼないと思われるが、ゼロではない。大会をめぐる緊張はここ数カ月で誰も想像できなかったほど高まっている。イスラエルを排除するにせよ、しないにせよ、嵐のような結果を招くことになるかもしれない。

 10月11日のイスラエル戦をノルウェーはどのように迎えるのか。まずはUEFAの執行委員会の決定待ちだろう。ノルウェーサッカー協会の会長はUEFAの理事でもある。UEFAの決定なしに試合をボイコットすれば、単にイスラエルの不戦勝ということになってしまう。

 そしてもし試合をする場合は、オスロでの収益はすべてガザで活動する「国境なき医師団」に寄付されるという。

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  • 安倍晋三にチョビ髭をつけて揶揄するアホな連中はいたが、ネタニヤフにチョビ髭つけた画像を掲げる奴いないね。なんでだろ?あいつこそが「ヒトラーの正統継承者」だと思うんだが。
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