
「あっ、まいばすけっとだ」と思ったら、その100m先にもまた「まいばすけっと」がある——。イオン傘下の小型スーパー「まいばすけっと」は、首都圏で急速に出店を続け、2025年7月末には1250店舗に達しました。2010年にわずか100店舗だったことを考えると、15年で12.5倍という驚異的な成長ぶりです。
最近、SNS上で「まいばすけっとは都民への罰だと思ってる」というポストが3880万ものインプレッションを獲得してバズりました。「品揃えがつまらない」というイメージがある一方で、多くの人が日常的に利用している不思議な存在。そんな「まいばすけっと」の急成長の裏には、独特の経営戦略があります。
店舗拡大の秘密はどこにあるのか「まいばすけっと」は2005年に横浜市で実験的な1号店を開店して以来、毎年およそ100店舗ずつ、4日に1店舗のペースで増え続けています。現在は東京、千葉、埼玉、神奈川の1都3県で約1200店を展開していますが、その特徴は「どの店舗も同じレイアウト、同じ品揃え」という点。まさに「細胞分裂を続けるアメーバ」のような印象を与えます。
そもそも「まいばすけっと」のコンセプトは「コンビニサイズのイオン」。大型スーパーが近くにない都市部に住む人たちの「日常生活の食のインフラ」として機能することを目指しています。「トップバリュ」というプライベートブランドを活かし、コンビニよりも1割から4割ほど商品が安いという価格設定や品ぞろえの豊富さも、日常使いに適した特徴です。
繁盛店をつくらないという逆転の発想「まいばすけっと」の無限増殖には、実は「繁盛店をつくらない」という意外な戦略があります。100m先に別の店舗があれば、客足は分散します。これにより常に一定の来店客数を保ち、オペレーションを効率化しているのです。
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セールや特売がないことも特徴です。「エブリデーロープライス(EDLP)」という、毎日比較的安い価格で販売する戦略を採用しており、日によって客数が大きく変動しません。これにより、2〜3人の最小限のスタッフで店舗運営が可能になっているのです。
さらに「まいばすけっと」は、コンビニのような店内調理や公共料金支払いなどのサービスを省略。社内スポットワークのような仕組みで、スタッフはアプリでシフトを確認し、近くの店で2時間から働けるようになっています。
セブン超え、イオンが絶好調の理由2025年8月には、イオンの時価総額が小売大手で長年トップだったセブン&アイ・ホールディングスを一時的に抜き、首位に立ちました。この逆転劇の背景には「まいばすけっと」の存在があります。コンビニキラーとして株式市場で評価され、急成長が期待されているのです。
イオンは他にも、首都圏でネットスーパー「グリーンビーンズ」の展開を本格化。AIを活用した配送システムやロボット技術を駆使し、次世代型の小売りに挑戦しています。
一方のセブンイレブンは、「まいばすけっと」にはできない店内調理のファストフードに注力。セブンカフェベーカリーやセブンカフェティーなど、出来立ての商品提供によって独自性を出しています。
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興味深いことに、一見まったく異なる「まいばすけっと」と「コストコ」には共通点があります。それは商品数(SKU)がどちらも4000種類未満(「まいばすけっと」が3000〜3800種類、「コストコ」が約3700種類)という点です。
店舗の大きさは「まいばすけっと」の最大80坪に対し「コストコ」は4000坪以上と50倍以上の差がありながら、品揃えがほぼ同じというのは驚きです。
違いは商品の選び方にあります。「まいばすけっと」はトップバリュやカゴメなど複数ブランドで300グラム、500グラムなど選択肢を用意する一方、「コストコ」はハインツのケチャップなら1.25kgの超大型ボトルを2本セットでまとめ売りするという具合です。
「まいばすけっと」は都会にある「平日の冷蔵庫」のような存在、「コストコ」は地方にある「週末の倉庫」のような存在と言えるでしょう。
このように見ると、目立たない地味な存在に思える「まいばすけっと」ですが、実はコンビニを脅かし、小売業界全体に大きな影響を与える存在へと成長していることがわかります。
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<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本を読むビジネス系VTuber兼リサーチャー・編集者のコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。本記事は9月11日配信『無限増殖する「まいばすけっと」の戦慄:なぜ100メートル先に同じ店舗をつくるのか』から抜粋してまとめたものです。