メルカリが「Switch 2は出品禁止にすべきだった」と反省した理由 「安心・安全を損なう場合は出品禁止」へ方針変更

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2025年10月10日 21:21  ITmedia Mobile

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現在もメルカリではNintendo Switch 2の本体が大量に出品されている

 Nintendo Switch 2は発売時に出品禁止にすべきだった――。メルカリが10月9日に開催した記者会見で、同社はこのように振り返った。Switch 2を巡っては、さまざまなフリマサービスが対応に追われたが、メルカリは、発売時から一貫してSwitch 2の出品は禁止していない。そんな中で、冒頭に挙げた反省の弁が出たのは少々意外だった。


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 一体、メルカリで何が起きていたのか。メルカリ 執行役 SVP of Japan Businessの山本真人氏と、メルカリ 執行役員 CEO Marketplaceの迫俊亮氏が説明した。


●出品禁止の判断軸になる「マーケットプレースの基本原則」


 2025年、メルカリを巡っては、さまざまな問題が起きた。その代表的な事象が、任天堂の新型ゲーム機「Nintendo Switch 2」の転売だった。Switch 2の新品が入手困難な中、高額な値段での出品が後を絶えないことに加え、箱のみ、絵や写真の出品、Switch 2に見せかけた商品など、ユーザーの誤認を狙った悪質な出品も散見された。また、出品者のコメント欄に誹謗(ひぼう)中傷の投稿が増えたことも問題を助長した。


 メルカリは、誤認を狙った出品に対しては出品物を削除し、利用者への誹謗中傷に対してはアカウント利用制限を実施した。こうした措置は、メルカリの利用規約やガイドラインにのっとったもの。誤認を狙った詐欺出品は減ったが、現在も定価を超える金額でSwitch 2がメルカリに出品されている。


 他社のサービスを見ると、「Yahoo!オークション」「Yahoo!フリマ」ではガイドラインを改正してSwitch 2の出品を禁止した。では、なぜメルカリはSwitch 2の出品そのものを禁止しなかったのか。こうしたメルカリの判断は、「マーケットプレースの基本原則」に基づいている。これは利用規約やガイドラインの背景にある基本的な考えだ。この基本原則が、出品を制限したり不正行為に対処したりする際の判断材料になる。


 メルカリでは、自由な取引を通じた需給のマッチングが最大限発揮されるマーケットプレースを目指している。その中で、Switch 2のような、需給のバランスが著しく崩れる商品が登場した場合、基本原則に照らし合わせながら対応を検討してきた。


 まず考えたのが「外部性」だ。この場合の外部性とは、「ある取引が、売り手と買い手だけでなく、第三者や社会に影響を及ぼすこと」(山本氏)を示す。その際、プラスの影響を及ぼす「正の外部性」と、マイナスの影響を及ぼす「負の外部性」に分けられる。


 正の外部性の一例として、パンデミックにおけるマスクや消毒液が挙げられる。コロナ禍において、メルカリはマスクや消毒液の出品を禁止していたが、2022年5月〜8月に制限を解除。マスクの場合、着用することで疾患にかかるリスクを軽減し、周囲の感染リスクも減らせるというプラスの影響があると判断したためだ。


 一方、負の外部性はどうか。メルカリでは、他人に具体的な危害を生じさせる「危害原理」と、他人に不快感を及ぼす「不快原理」に分けて考える。その中で、不快原理は「主観的になるので、それを基準にすると、恣意(しい)的な介入を招きかねない」との理由で、より客観的で公平な危害原理を判断基準にすることを決めた。


 こうした議論の末、マーケットプレースの基本原則として、「安全であること」「信頼できること」「人道的であること」の3つを定めた。この原則に基づいて出品を規制した例として、コロナ禍のマスクや消毒液、2025年の備蓄米がある。これらは、本当に必要な人へ早期に届かないことは安全性を損なうと判断し、出品を禁止した(マスクや消毒液は2022年に出品禁止を解除)。また、空薬きょうについては、警察庁から危険性についての情報提供があり、違法・犯罪行為につながる可能性が高いと判断して出品禁止にした。


●外部有識者とSwitch 2の対応について議論 「安心・安全を損なった」と反省


 マーケットプレースの基本原則は2020年〜2021年にかけて策定されたが、社会情勢に応じてアップデートする必要もある。そこで、メルカリは外部有識者を交えて「マーケットプレースの在り方に関するアドバイザリーボード」を定期的に実施しており、必要に応じて基本原則を見直している。


 このアドバイザリーボードの第5回で議題に挙がったのが、Switch 2への対応方針だった。メルカリではSwitch 2の発売当初から、出品禁止の対象にしてこなかったが、迫氏によると、「会社の評判を守るという観点では、別の対応もあったのではないか」という意見も出たという。例えば、出品価格に上限を設けるといった対応だ。


 しかし、Switch 2そのものは、安全を脅かすものや犯罪行為を助長するものではない。信頼という観点では、不正出品の排除に努めてきた。そのため、マーケットプレースの基本原則にのっとってSwitch 2の出品を禁止するという判断に至らなかった。


 そこで議題に挙がったのが、基本原則では禁止できない商品を例外的に禁止すべきかどうかという点だ。例えば、経営判断で出品を禁止するという判断もある。経営判断は「伝家の宝刀」ともいえる手段で、出品を禁止すれば「批判もされず、意思決定のコストを抑えられる」と、アドバイザリーボードのメンバーとして参画してきた慶應義塾大学 経済学部 教授の坂井豊貴氏は振り返る。


 「経営判断によって安易に出品禁止にする方が楽」(坂井氏)だが、その基準はあいまいだ。具体化するために、中期経営計画のKPI(目標)とひも付けるのはどうかという議論も出たという。つまり、Switch 2の出品が、メルカリの業績にマイナスの影響を及ぼすのかという点だ。「SNSでの一時的な盛り上がりだけで判断すべきではない」との意見も出た。


 こうした議論の末、Switch 2については、基本原則では出品を禁止できないものの、誤認を招く出品や誹謗中傷など、マーケットプレースの安心・安全が著しく損なわれたと振り返る。メルカリとしては出品の削除やアカウントの利用制限などの対応を行ったが、「このような事象が発生したこと自体が、安心・安全を損なった」(迫氏)と判断。「Nintendo Switch 2は発売時においては、マーケットプレースの安心・安全を守るために、出品禁止すべきだったと考える」と結論づけた。


 今後、不正出品やトラブルの急増、極端な価格の乱高下など、マーケットプレース内での安心・安全が損なわれるような可能性がある商品については、出品禁止を含む対応を行うことを明らかにした。


 メルカリは、基本原則の在り方や、アドバイザリーボードでの議論の経緯を「ホワイトペーパー」として策定し、10月9日に公開した。メルカリの考え方を外部の開示することで、透明性の高いマーケットプレースを目指す。


 「メルカリは、真面目にマーケットプレースを運営しているが、真面目さが世間に伝わっているとは限らない。そういうものをきちんと作るべきではとの意見が出た」(坂井氏


●Switch 2の出品が今後禁止される可能性は? ハッピーセット問題にも言及


 Switch 2で気になるのが、今後、出品を禁止するのかどうか。迫氏は「状況は変わり得るので、トラブルの急増、安心・安全を損なわないように考えている」と述べるにとどめた。現時点では禁止の予定はないようだ。


 また、Switch 2については高額出品も問題となっているが、出品価格の規制については現時点では予定していない。価格が急騰している恐れがある場合は、商品ページや検索結果にその旨のアラートを出すことで注意を促している。Switch 2のような人気商品が発売される前と発売された後に価格高騰のアラートを出しており、迫氏によると「一定の効果が出ている」という。


 なお、高額で出品されていたとしても、それでも購入したいという人はいるだろうし、そもそも転売行為自体は違法ではない。しかし、山本氏は「(高額出品という)単一の事象で安心・安全を図るのが難しい」と話す。「それ(価格)だけではなく、トラブル自体がどれだけ急増しているのか。それらの状況を踏まえて判断していく。単一の要素だけで判断できれば分かりやすいが、安心・安全の明確な線引きは難しい」と判断の難しさを話す。


 Switch 2以外では、マクドナルドのハッピーセットに付いているポケモンカードの転売も問題となった。今後も希少価値の高いハッピーセットで同様の問題が起きる可能性があるが、メルカリは、Switch 2だけでなく、他の商品についても安心・安全を損なう場合は禁止も含めて検討していく。ハッピーセットについても質問が出たが、迫氏は「販売状況や影響を注視して、何らかの対応をする必要がないか、今後も議論を継続していく」と述べた。


●基本原則が足かせにならないよう、柔軟な対応に期待


 会見でメルカリの山本氏と迫氏、外部有識者の坂井氏の話を聞いて、メルカリがユーザーの便益を真剣に考えた上で基本原則を策定してきたことが伝わった。この基本原則がメルカリの根底にあることも分かった。


 一方で、Switch 2やハッピーセットなどの問題が起きたとき、基本原則に抵触しないという理由で、規制の措置が取れなかった。基本原則が足かせとなり、柔軟な対応ができなかった面は否めない。


 しかし今回、メルカリが安心・安全の重要性を改めて認識したことで、より柔軟に対応することが期待される。従来なら規制しなかった商品の出品を禁止する場合、その決定に至るまでの過程や議論の内容もホワイトペーパーで開示するため、ユーザーからの納得感も得られやすい。


 山本氏は、今回の発表内容について「総合的に判断してマーケットプレースの安心を阻害しているものに対処する」と総括し、「会社としての変化は感じていただけると思う」と続ける。


 商品個別の対応をどこまで行うか、有識者会議を介さずにスピード感のある対応がどこまでできるかなど、まだ課題もあるが、一歩前進した印象を受けた。今後も、安心・安全を担保したマーケットプレースの運営を望みたい。



このニュースに関するつぶやき

  • >負の外部性  一部の、粗利を稼ぐ人々による 通常の商業活動に対する挑戦だよな。
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