「値上げはしない!」3大キャリアはプランを見直す中…楽天モバイルが“料金逆張り”を貫く3つの事情

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2025年10月20日 21:50  All About

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あらゆる物価が高騰する中、携帯電話料金も値上げ局面を迎えています。3大キャリアはプランを見直しましたが、一方で業界4位の楽天モバイルは「値上げしない」と宣言。その背景には、“3つの事情”があると筆者は考えます。※画像:Shutterstock.com
諸物価高騰の折、携帯電話料金も急激な値上げ局面を迎えています。業界トップのNTTドコモ(以下、ドコモ)は定番プランを値上げし一部の低価格プランを廃止、第2位のKDDIは定番プランおよび格安ブランドUQモバイルでの値上げを実施、第3位ソフトバンクも格安ブランドのワイモバイルの値上げを発表しています。

そのような中にあって、業界4位の楽天モバイル(以下、楽天)は、三木谷浩史会長自らが会見して「値上げはしない」と宣言しました。その背景には、どのような事情があるのでしょうか。

もともと“価格”が特長の楽天モバイルだった

まず1つ目の事情として、「楽天本来の価格戦略」があります。携帯電話の利用料金が大きな変革期を迎えたのは2020年。菅義偉首相(当時)による「携帯電話料金は4割値下げできる」発言に端を発した、「官製値下げ」の波によるものでした。国を株主に持つNTTグループのドコモが、新料金プラン導入による実質30%以上の大幅値下げを断行し、他キャリアも渋々これに追随せざるを得ないという状況に陥ったのです。

楽天はといえば、ちょうど2020年4月に携帯電話事業に新規参入した直後であり、使い放題で2980円(税抜)という、当時としては価格破壊的料金での“ワンプラン戦略”を売りにしていました。この料金は、菅首相の値下げ要請に対して値下げ対応を迫られるレベルではなかったものの、上位3キャリアが値下げを敢行して軒並み楽天並みの料金プランを提示してきたために状況が一変しました。

すなわち、価格面での優位性を最大の強みとして新規参入した楽天としては、通信品質で勝る他キャリアが同じ料金水準になってしまっては分が悪く、顧客の離脱を回避するためにさらなる値下げをせざるを得なくなったのです。

データ利用量3GBまで980円、20GBまで1980円、使い放題でも2980円(いずれも税抜)という現在のプランは、そんな楽天が苦肉の策としてひねり出した、対3大キャリア上ギリギリ価格優位性を保つためのプランであったといえます。

そして迎えた今回の値上げ局面です。三木谷会長は、他キャリアとの比較の観点から技術面での強みを理由に挙げて、今回「値上げはしない」ということを強調したのです。確かに技術面での理由もあるのでしょうが、戦略的にはモバイル事業立ち上げ当初の価格優位性をメインに据えた基本戦略に戻す絶好の機会である、と考えたと思えます。

もちろん官製値下げ前の2020年時点に比べれば、今の楽天の料金体系には価格破壊というほどのインパクトはないかもしれません。それでもやはり値上げをしないことで、他キャリアに比べて安い、というイメージを強化することには役に立つでしょう。

何より、三木谷会長自らがわざわざ会見を開いて「値上げはしない」と宣言したことで、特に何もしていない楽天を多くのメディアが「値上げせず」と取り上げてくれることになり、「逆張り」イメージが強調され宣伝効果はあるように思えるのです。

楽天が携帯事業に参入したそもそもの狙い

楽天が3大キャリアに追随値上げしない2つ目の事情は、楽天がモバイル事業に参入した“そもそもの狙い”にあります。

楽天グループの祖業はご存じの通り、ECモールの運営です。現状では金融サービスもグループ収益の大きな柱となっており、楽天エコシステムの下で顧客を回遊させ、さまざまなサービス料で収益を得るというのが、楽天グループのビジネスモデルなのです。モバイル事業への参入は、後発の不利と設備投資が巨額になることは目に見えており、事業そのもので大きな収益を得ようとは思っていないのです。

すなわち、モバイル事業を活用して利用者を大量に引き込み、彼らを優遇してECモールや金融サービスを利用してもらうことでそこから収益を得る、楽天エコシステムの新たな入口の役割を担わせようとしているのです。

そのために、とりあえず新規で利用しやすい安価な料金体系を用意したり、あるいはグループのポイントサービスでもモバイル利用者を最優遇するルールで運営していたりするのです。とりあえず単体収支が赤字にならなければよいというのが基本であり、料金体系は他キャリアよりも安価に設定されているのです。

今値上げしないもう1つの理由

そして3つ目の事情として、このビジネスモデルを有効化させるために“モバイル事業単体での黒字化”を急いでいる、ということがあります。モバイル事業は、基地局設置をはじめ、とにかく継続的に大きな投資が必要です。黒字化に向けては、利用者1人当たりの平均利用額であるARPUを上げつつ回線契約数を増やすことに尽きるのです。

三木谷会長がモバイル事業黒字化の目安として掲げているのが、回線契約数1000万件です。同社によれば、ここ1年で通信品質の向上もあって急激に契約者数を増加させており、9月末現在で930万件を突破。1000万件まであと70万件に迫っています。ここで一気に1000万件を突破させ年間黒字化に向け弾みをつける意味でも、今値上げをして契約者増加の勢いに陰りを与えたくない、そんな事情があるのです。

あらゆるものが値上げトレンドに入って家計を圧迫し始めた今、携帯契約の見直しもまた密かなトレンドになりつつあるようです。3大キャリアの1人当たり月額支払い料金(端末料金除く)は5098円。楽天のデータ通信量無制限契約の月額3278円とは1820円の差が、データ通信上限20GB・2178円となら2920円もの差があるのです。

果たして楽天の思惑通り、他キャリアからの乗り換えによる回線契約数の大幅増加が図れるか否か、その点に注目の「楽天の料金逆張り戦略」です。

大関 暁夫プロフィール

経営コンサルタント。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントや企業アナリストとして、多くのメディアで執筆中。
(文:大関 暁夫(組織マネジメントガイド))

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  • 「“料金逆張り”」なくて「料金値上げの先送り」だと思うんだけど?!
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