
どうしたらこの費用を捻出しながら生活を維持できるのか。フルタイムの共働きだったり、親の持ち家に住むことができたりするならいい。だが、本当にギリギリで生活している人たちもいる。
塾にも通わせられない
周りのみんなは子どもを塾に通わせているが、正直言って塾は無理。そういうのはトモミさん(37歳)だ。9歳の娘がいるが、習い事は1つだけ。私立中学に行かせる予定もない。「夫は年収300万くらい。私は娘が生まれてすぐ病気をしてしまい、フルタイムでは働けなくなりました。今はパートで月8万円くらい。二人合わせても400万には届きません」
賃貸のアパートに住んでおり、家賃もバカにならない。二人とも地方出身で、親たちも裕福ではない。
「ふっと周りを見渡したら、子どもたちは塾にピアノに水泳にといくつも習い事をしている子が多いし、いつもブランドのバッグを持っているママ友もいる。みんなどうしてそんなにお金があるのかと思ったら、もちろん夫の収入が高い人もいるけど、案外、実家からの援助が多いみたいですね。
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もう一人子どもがほしかった
娘は勉強が好きで、それなりにできるので、本来なら塾には通わせてやりたい。本人が望むなら中学から私立にも通わせたい。そんな気持ちはあるが、現実には無理だと考えている。「本当はもう一人子どもがほしかった。時々、今からでも遅くないと思うことがあるんです。私も今はすっかり健康になったし、体力もある。今ならまだ産める、産みたい。強くそう思う一方で、育てるお金がないことに愕然とする。
娘が大学まで行きたいと言ったら、奨学金を頼るしかないけど、返すのも大変ですからね。さらに第二子を産んだら、娘にかける費用は目減りする。そう考えたら、今だって我慢を強いているのに、これ以上は不憫だなと思ってしまいます」
お金がなくても幸せになれる。それは現実的ではないとトモミさんはつぶやいた。
夫の母を頼ろうとしたら
「うちは目論見が外れてがっかりしているところです」そういうのはナツコさん(43歳)だ。結婚して14年。5歳年上の夫との間に、中学生と小学生の男の子がいる。
「うちも世帯年収は決して多い方ではない。だから3年前に一人暮らしの義母が同居を望んだとき、申し訳ないけど経済的に援助してもらえるかなと思ったんです」
ところが義母は、親戚がもつ借家に住んでいた。ナツコさんは数年に1度くらいしか義母に会わなかったので、そのことも知らなかった。
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義母はやってくるなり、ナツコさん夫婦の前に封筒を出した。迷惑をかけるから、とりあえずこれでよろしくねと言った。
「10万円入っていました。家にあったいろいろなものを売り払って作ったお金らしいです。義母の持ち物は本当に少しでした。夫に、義母の収入を聞いてもらったら、月に6万円程度の年金だけだという。貯金も聞いてよと言うと、そこまで聞けないって。
しかも義母は通院もあるし、少し足が不自由なので家のバリアフリーも考えなくてはいけないかもしれない。この先、義母にかかる費用をこちらがもたなければいけないのかと、思わず夫を問い詰めてしまいました」
ケチにならざるを得ない
少し時間をかけて聞き出したのは、義母の預貯金が現金100万円程度だったこと。義父が長い間、闘病していたので収入の少ない時期が長く、貯金を取り崩して生活していたようだ。子育て費用を少しでも負担してくれるのはないかという目論見は外れた。
「でも今さら、義母を追い出すわけにもいかない。施設に入れるのだってお金がかかる。義母の年金では入れるところはないでしょう。義母は年金の半分は、自分の食費にと渡されていますし、遠慮しながら暮らしているのも分かるので、冷たくはできない。
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ケチなことは言いたくないけど、ケチにならざるを得ない事情があるとナツコさんは涙ぐんだ。貯金の少ない親を引き取ったのは「言葉は悪いけど、外れだった」と嘆く気持ちも分からないではない。
今後は、夫の副業とナツコさんのパート時間を増やすことが目標だが、それと目の前に迫っている介護が両立できるのかどうか。ため息ばかりついてしまう日々ですと、ナツコさんの顔が曇った。
<参考>
・「日本における0-18歳の子育てに要する費用の調査:ウェブアンケート調査2024」(国立成育医療研究センター)
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))
