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オランダのマーストリヒト大学などに所属する研究者らが2017年に発表した論文「Frankly, We Do Give a Damn: The Relationship Between Profanity and Honesty」は、冒涜的な言葉遣いと人格特性の関係を調査した研究報告だ。
一般的に、汚い言葉や罵り言葉、卑猥な言葉、タブーな言葉を使う人は道徳観が低く信頼できないという見方がある。一方で、そうした言葉は感情の率直な表現であり、むしろ誠実さの表れだという見解も存在する。
研究チームは3つの異なるアプローチを用いて、冒涜的な言葉遣いと誠実さの関係を検証した。最初の研究では、オンラインで募集した276人の参加者に対し、日常的に使用する罵り言葉をリストアップしてもらい、同時にアイゼンク性格検査を用いて誠実さ(うその尺度)を測定した。
その結果、より多くの罵り言葉を書き出した参加者ほど、誠実なスコアを示すという正の相関を確認できた。
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第2の研究では、より自然な環境での行動を観察するため、7万3789人のFacebookユーザーのステータス更新を分析対象とした。言語分析ソフトウェア「LIWC」を用いて、各ユーザーの冒涜語使用率と、うそをついている際に現れる特徴的な言語パターンを測定。うそをつく人は一人称代名詞の使用が少なく、動作動詞が多く、否定的な感情語が増えるという先行研究の知見に基づき分析を行った。
結果、冒涜語を多く使うユーザーほど、より誠実な言語パターンを示すことが明らかになった。
第3の研究では、個人レベルから社会レベルへと視点を広げ、米国の50州における冒涜語使用率と州レベルの誠実性指標との関係を調査した。州の誠実性は、政府の透明性、説明責任、倫理委員会の独立性など14の基準に基づく州誠実性調査2012のデータを用いた。
結果、冒涜語使用率が高い州ほど誠実性指標も高いという正の相関が認められた。例えば、冒涜語使用率が最も高い州の上位3州のうち、コネチカット州とニュージャージー州は誠実性指標でも上位3州に入っていた。
これらの結果は一見直感に反するように思えるかもしれないが、研究者らは冒涜的な言葉が感情の率直な表現として機能していることを指摘している。
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参加者への調査では、罵り言葉を使う主な理由として「否定的な感情の表現」「習慣」「真の自己表現」が挙げられ、他者を侮辱したり威嚇したりする目的での使用は相対的に低い評価となった。このことは、冒涜的な言葉が反社会的で有害なツールというよりも、むしろ本音の感情を表現する手段として認識されていることを示唆している。
Source and Image Credits: Feldman, G., Lian, H., Kosinski, M., & Stillwell, D.(2017). Frankly, We Do Give a Damn: The Relationship Between Profanity and Honesty. Social Psychological and Personality Science, 8(7), 816-826. https://doi.org/10.1177/1948550616681055(Original work published 2017)
※ちょっと昔のInnovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。X: @shiropen2
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