【日本シリーズ】「甲斐さんがいなくなって弱くなったと思われたくなかった」 ソフトバンク、5年ぶりの日本一を支えた新正捕手・海野隆司の成長譚

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2025年10月31日 12:01  webスポルティーバ

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 ソフトバンクが最後の山頂にたどり着いた。レギュラーシーズン、クライマックスシリーズ(CS)、そして日本シリーズの三大名峰の登頂を成し遂げ、5年ぶり12度目の日本一を達成した。

「3つ目の山を登りきる」

 そのように話していた小久保裕紀監督。今年2月中旬、日本一への祈願を込めて、実際に自らの足で高千穂峰(標高1574m)を登頂した。霧島連山の主峰で、古事記や日本書紀に記されている天孫降臨の舞台と伝わる山。

 山頂は霧島東神社の飛地境内で、社宝の「天逆鉾(あまのさかほこ)」が突き刺さっていることで有名だ。1年前も霧島東神社を訪れたが、その時は山頂を目指さず参拝だけでその場をあとにした。結果、リーグ制覇は成し遂げたものの、日本シリーズではDeNA相手に連勝スタートもまさかの4連敗で涙をのんだ。

「昨年敗れた喪失感。それがずっと頭にあった」

 山道は険しく、片道4、5時間かかったという。キャンプ中の貴重な休日にヘトヘトになったが、日本一を奪い取る強い決心が足を前に動かした。

【延長11回の激闘を制し日本一】

 いざ迎えたペナントレース。2025年のソフトバンクに立ちはだかったのは、険しい山道ばかりだった。開幕早々に故障者が続出して4月末時点では最下位に低迷。そんな困難のなか、これまで出番に飢えていた、おもに中堅どころの選手たちが次々と台頭して、本当の意味で層の厚いチームができあがった。

 リーグ連覇で1つ目の山を制し、CSはレギュラーシーズンで一騎打ちを繰り広げた日本ハムとの最終第6戦までもつれ込んだ激闘も勝ちきって、2つ目の山も登りきった。

 3つ目の山だった日本シリーズ。4勝1敗の結果だけを見れば圧倒したように思われるが、5試合中4試合が1点差ゲームだったという事実が、紙一重を物語っている。

 延長11回決着となった第5戦は、まさしくその象徴だった。

 0対2で迎えた8回表に柳田悠岐が、シーズンではプロ野球新記録の50試合連続無失点を達成し、防御率0.17と驚異的な成績を残した石井大智から同点2ランを放った。そして延長11回表、野村勇が阪神の勝負手でリリーフ登板した村上頌樹を打ち砕く決勝ソロアーチを右翼席へ叩き込んだ。

 日本シリーズMVPには第2戦から日本シリーズタイ記録の3試合連続ホームランを放った山川穂高が輝いた。

 投手陣もよく踏ん張った。なかでも自慢の必勝リレーを支える藤井皓哉、松本裕樹、杉山一樹の"樹木トリオ"と呼ばれるリリーバーたちは5試合中4試合でマウンドに立った。

 称賛すべきヒーローの名前が次々と浮かんでくる。

 ただ、今シーズンを振り返った時に誰が一番成長したかと問われれば、迷うことなく海野隆司の名前を挙げたいと思う。

 チームの新たな扇の要となり、堂々と、1年間マスクを被り続けた。

【シーズン当初は気持ちが空回り】

 昨オフ、甲斐拓也が国内FA権を行使して巨人へ移籍。正捕手交代のシーズンだった。

「甲斐さんがいなくなったからホークスが弱くなったと思われるのが一番悔しい。それだけは絶対にないようにと思っていました」

 だが、シーズン当初は気持ちが空回りした。小久保監督からは「スローイングとブロッキング」を課題として与えられたが、なかなか盗塁を刺せず、投球がプロテクターと体の間に挟まる珍しい暴投で走者生還を許したりと苦戦した。さらに配球でも悩んだ。

「去年までほとんどマスクを被っていないので、"つながり"が僕にはわからないんです」

 投手の気持ちを汲み取るのが難しく、自分の考えもうまく伝わらない。同学年の杉山は「何度もぶつかりました」と明らかにした。

 チームが低迷していた春先は、取材をしていてもどこか頼りなく映った。ようやく声が出てもボソボソと短い答えが返ってくるだけ。海野には明るいムードメーカーというイメージもあるが、実際の根っこは物静かなタイプ。日々、本当に苦しかったのだろう。

 だけど、逃げるわけにはいかない。

「正直、今年結果を出さないと、野球人生が終わると自分では思っていました」

 それだけの覚悟はあった。有原航平やリバン・モイネロといったエース格とバッテリーを重ねることで、経験値は確実に積み上げられていった。徐々にチーム状態も上向きに。いま思えば6、7月あたりから海野の取材対応が大きく変わった。相手の目を見て、自分の意図を明確に言葉にできるようになった。

【城島健司も最大級の賛辞】

 その時期と重なるようにソフトバンクは首位に立ち、それからも厳しい戦いではあったが3つの山を制覇したのである。

 そんな新たな正捕手の成長を喜び、最大級の賛辞を送ったのは城島健司チーフ・ベースボール・オフィサー(CBO)だ。

「初めは周りの皆さんも甲斐が抜けたあとがどうこう言っていましたけど、そんな声は聞かなくなりましたよね。結局1年間、海野が頑張ったけど、誰も褒めてくれないじゃない。褒めてやってくださいよ。こんな時しかないんだから」

 明朗快活な城島CBOらしい言い回しをしつつ、言葉を継いだ。

「海野がビハインド・ザ・プレートでしっかりしなければ、レギュラーシーズンもクライマックスシリーズも日本シリーズも優勝はなかったと言えるくらい、守りの面では監督の期待に応えたと思いますよ。だって、マウンドに上がっていたピッチャーの顔を見てください。安心していたじゃないですか。それを見て、彼の成長を感じました。どんな名キャッチャーでも、最初から経験があるわけじゃない。場数を踏むことで、今度また来年の開幕からのどっしり感も変わってくる。来年の海野が楽しみですよ」

 海野は、日本一チームの正捕手となった。

「甲斐さんにはまだ全然、肩も並べていない」

 それでも名捕手の入り口には立ったのはたしかだ。捕手の評価は勝ちつづけること。海野の成長が、新たな黄金時代の幕開けへとつながっていく。

このニュースに関するつぶやき

  • 今年だけでもかなり成長した感じがあるし、このシリーズで阪神をあそこまで抑え込むのをリードしたのは自信になるんじゃあるまいか。
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