米国で社会現象「ピックルボール」世界大会を“わずか1年”で主催 Sansan社長室の挑戦

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2025年11月02日 21:50  ITmedia ビジネスオンライン

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「PPA TOUR ASIA Sansan FUKUOKA OPEN 2025」福岡・糸島運動公園の会場

 福岡・糸島運動公園の広場の一角に露店が並び、集まった子どもたちが賑わいを見せている。夏の風物である縁日によくある風景だ。ただ、これは単なる縁日ではない。隣接する体育館に足を運ぶと、ボールを打ち合う音と歓声が響き渡っていた。


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 糸島運動公園は、ピックルボールの世界大会「PPA TOUR ASIA Sansan FUKUOKA OPEN 2025」で沸いていた。ピックルボールとは、テニス・バドミントン・卓球の要素を組み合わせた米国発祥のラケットスポーツだ。米国ではここ5年間でプレーヤー人口が6倍に拡大した。ビル・ゲイツ氏やイーロン・マスク氏といった著名な起業家も愛好し、投資家やスタートアップ経営者がネットワーキングの場としても活用している。


 世界から集まったピックルボールのトッププレーヤーたちに子どもたちは目を輝かせていた。中には選手と触れ合えたうれしさのあまりに涙を流し、母親と抱き合う姿も。選手や関係者、この会場を訪れた人たちの熱気を感じた。


 このスポーツの国際大会を構想からわずか1年で開催に漕ぎつけた中心人物が、Sansanの社長室室長・小池亮介氏だ。PPA TOUR ASIA Sansan FUKUOKA OPEN 2025は、世界最高峰のプロピックルボールツアーであるPPA Tourのアジア展開「PPA Asia」の公式戦で、日本での開催は初となった。


 ビジネスデータベースを軸に成長してきた同社で、彼は今「ピックルボール推進責任者」という異色の肩書を背負っている。米国で急成長する新興スポーツを、日本で広める――。それは、Sansanのミッションである「出会いからイノベーションを生み出す」を体現する挑戦でもある。ピックルボールを通していかにして社内外を巻き込み、新しい出会いの場を生み出していったのかを追った。


●フットワークの軽さが生んだ偶然の出会い


 「思い返せば、始まりは2023年12月のはじめでした」


 小池氏はそう感慨深そうに話す。


 「当社代表の寺田から、突然Slackでメッセージが届いたんです。“ピックルボールってスポーツ、知っている?”と」


 その寺田氏の言葉から、全てが始まった。


 それ以降、小池氏はSansanの社長室室長という通常業務の傍ら、それまで社業とは全く関わりのなかった「ピックルボール推進責任者」という肩書を担うようになる。


 そして、小池氏のピックルボールの普及活動が始まった。すぐにSNSで「ピックルボール」と検索。出てきた選手や関係者に次々とメッセージを送った。翌日にはオンラインで面談を設定。競技の歴史や現状、課題を網羅的に聞き出したという。そして、関係者を当たっていくうちに偶然知った、東京・赤坂TBS前で開かれた「TBSピックルボールイベント」に家族とともに参加する。


 「びっくりしたのは、まだラケットに慣れていない子どもたちでもすぐにラリーが続いたことです。サッカーや野球なら、普通は技術習得までに時間がかかり、親子で同じ土俵に立つのは難しい。でもピックルボールは初めてすぐに一緒に楽しめる。その瞬間に『これは爆発的に広がる可能性がある』と確信しました」


 その後、小池氏は社内の役員らを対象に体験会を開催。そこでも全員が“これは誰でも楽しめるスポーツ。当社が関わることによって、これから波が起こせそうだ”という感じを受けたという。子どもでも簡単に楽しめる手軽さ、ビジネスパーソンが夢中になれる面白さ。この2つの手応えにより、ピックルボールを日本で流行(はや)らせる道筋をイメージできた。


 筆者も実際にピックルボールのラケットを手にプレーしてみたが、テニスやバドミントンよりも気軽にでき、卓球ほど技術がなくても十分楽しめるスポーツのように思われた。


 ただ、このスポーツを広めるプロジェクトを、小池氏ひとりでできるかというとできない……。そう思っていた矢先に、ある中途の社員が入ってくる。その社員こそが、今や小池氏とタッグを組み、ピックルボール普及に一役買ったピックルボール推進担当(実務担当)の西郷琢也氏だ。


 「小池さんから入社初日の仕事終わりに“この日は空いてる?”と言われました。歓迎会のお誘いかと思いきや、“運動できる服装を持参して”と言われて……。訳も分からずピックルボールの体験会に連れていかれました。そして、なぜかその日から『ピックルボールサークルの副部長』にも任命されました(笑)」(西郷氏)


 そして、もう一人、社外にも“仲間”を見つけた。ピックルボール専門メディア「Pickleball one」やオンラインコマース、大会運営など、ピックルボールに関わるほぼ全ての事業を手掛けているピックルボールワン(東京都渋谷区)の熊倉周作氏だ。


 西郷氏と熊倉氏を加えたことで、プロジェクトは大きく動き出す。小池氏のフットワークの軽さと“巻き込み力”が運を呼び、人を集めるきっかけとなった。


 一見すると、IT企業と新興スポーツは無縁に思える。だが、このプロジェクトの背景には「出会いからイノベーションを生み出す」というSansanの使命があった。この時から既にSansanのビジョンと、ピックルボールがもたらす人と人とのつながりが、不思議なほど重なり合っていたのだ。


●ピックルボールの「ピ」の説明から始まった普及活動


 普及活動の一環として、東京・渋谷サクラステージで「Sansan Pickleball Challenge」を開催した。数日間で約500人が参加することに。スーツ姿の会社員から高齢者まで幅広い層を集め、想像を超える盛況となった。ただ、その場で手応えを感じたとしても、イベント後もピックルボールが参加者の生活に根付くとは限らない。


 一人でも多くの参加者にピックルボールに触れてもらう場、体験した後も続けてもらう機会を増やすことが急務だと考えた。そこでプレー場所を確保しようということで、関東圏の体育館やテニスコートに片っ端から連絡する毎日となる。


 「ピックルボール。『ピ』です」。小池氏の部署に配属されたインターン生たちが、電話口でさまざまな関係者に「ピックルボールとは何か」を説明するために格闘していた。やってみると、ビックルボールやビックリボールなどと呼ばれることがまだまだ多かったという。その姿を見ていた小池氏は、「まだまだ名前から説明をしなければならない。そのようなレベルの認知度でした」と振り返る。


 とにかく体験会や練習ができる場所の拡大と参加者の開拓、そして体験会の質の向上が必要だった。それを実現しなければ、ピックルボール普及だけではなく、折角イベントでつかみかけた人たちの関心まで失ってしまうことなる。


 その危機感から、小池氏と西郷氏、インターン生たちの努力は、次の扉をこじ開けた。強い意思と奮闘の結果、テニスコートを時間貸しという形で借り上げ、即席のピックルボールコートを東京都江東区の潮見に開設。「Sansan Pickleball Court」と銘打ち、毎週水曜夜に開放した。


 「予約開始と同時に満員。しかも半分以上が初心者でした。やりたい人がこんなにいるんだ、と衝撃を受けましたね」


 コートには多様な人々が集まった。子どもと一緒に汗を流す親、定年後に新しい趣味を探すシニア、スーツ姿の会社員。そこで自然に会話が生まれ、交流が広がっていく。


 「まさに“出会いのイノベーション”でした。サークルができ、仕事につながる出会いも生まれていきました。Sansanの理念を、そのままリアルの場で見ている感覚を覚えました」(小池氏)


 Sansanが重視してきたのは「流行への便乗ではなく、新しい価値を生むこと」。まだまだ日本ではマイナースポーツであるピックルボールはまさに、その精神を体現するものだった。


●海外から突きつけられた現実


 ピックルボールの普及活動に徐々に手応えを感じていた頃、東京・有明で開かれた日本初のピックルボール国際大会を見ることになる。視察した西郷氏は、世界と日本の実力差に愕然としたという。


 「1年間、普及活動に尽力して、体験会や大会をいくつも開きました。ですが、日本のレベルは全然上がっていないのかと、すごく悔しくなりました」(西郷氏)


 1年間頑張って普及させたはずが、競技レベルでは相当に出遅れていたのだ。


 「まだまだ裾野を広げきれていない。もっと新しい人を巻き込み、大きな波を作らなければならない」(西郷氏)


 小池氏と西郷氏は、次の目標を共有した。ブレストを重ねた末に生まれたアイデアが「トッププロ育成プロジェクト」だった。スター選手を育て、夢を託す存在をつくる。まるで野球界の大谷翔平のような象徴を、ピックルボール界にも生み出そうと考えたのだ。


 こうして走り始めた小池氏たちの挑戦は、やがて地域との連携、国際大会の開催、そしてSansanの経営戦略そのものへと結びついていく。関連記事【プロ選手も輩出 なぜSansanは「ピックルボールの国際大会」を1年で開催できたのか?】で、その詳細をお届けする。


(篠原成己、アイティメディア今野大一)



このニュースに関するつぶやき

  • 米国で社会現象「ピックルボール」この言葉づかいはやめてほしい。社会現象とは『ある物事が社会全体に急速に広がり影響を及ぼすこと』だと検索で。老人のゲームだ。麻雀の方がこの言葉に当てはまるかも
    • イイネ!1
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