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一般社団法人MANGA総合研究所が11月12日と13日に東京・池袋の会場とオンライン配信で開催した「国際MANGA会議 Reiwa Toshima」(IMART2025)で、何かと話題のAI(人工知能)に関するトークセッション「マンガとAIの関係はシンギュラリティに向かっているか」が開催された。『はじめの一歩』で知られる漫画家の森川ジョージ、株式会社THE GUILD代表取締役の深津貴之、アル株式会社代表取締役のけんすう(古川健介)が登壇し、MANGA総研所長で代表理事の菊池健の司会で、AIの急速な進化が漫画制作などのクリエイティブな分野にどのような影響をもたらすのかといったことが話された。
【写真】AIの利便性と問題点について議論を交わす森川ジョージら
「異世界転生ものを描きたいと思っている」。漫画家の森川ジョージのこの発言に会場が沸いた。ボクシングの世界を舞台にした漫画『はじめの一歩』の連載を長く続けてきた森川が描くとしたら、異世界転生は大きな飛躍がある分野だ。それをどうして手がけてみたいと言ったのかは、「IMART2025」のトークセッション「マンガとAIの関係はシンギュラリティに向かっているか」で話された内容と大いに関わってくる。
漫画でAIといえば、世界中の漫画の絵柄やストーリー展開を学習したAIが、誰かが作った作品が元になっているとおぼしき絵を生成して出力することで、クリエイターの権利が脅かされ、創作意欲にも影響を与えていることが、昨今の話題の中心になっている。トークセッションでは、そうした問題がどのような経緯をたどって起こってきたかについて話された。
その一方で、漫画制作AIサポートサービス「コミコパ」を展開しているアルのけんすうが、「今までコストがかかってて大変だったマンガ家の先生の方々の作業が軽減されて、より面白い作品作りに力を入れられるというのも同時に起こる」と話したような、AIを便利なツールとして使いこなすことで、作品の出力を増やせるといった利点があることも指摘された。
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そうした利点について考えていく流れで、クリエイティブファームのTHE GUILDを率いる深津貴之が、AIの急速な進化によって「作家が頭の中から引き出せる仕事の量が増える。物理的に連載がひとつしかできないが、やりたい話が3つあって出ないままで終わる時、AIのアシストで出てこなかった話が出てくる」と指摘。これを受けて森川が、やってみたい話として異世界転生を挙げた。
AIを、生産性を高めるツールとして活用しつつ、作品としての漫画なり小説といったものを生み出す部分は人間が負う”住み分け”が可能になれば、『はじめの一歩』とは違ったオリジナルの異世界転生ものを提供できる余裕ができるこということ。『はじめの一歩』を終えて「10年後にさあ描くぞとなった時に、そのジャンル流行ってます? という話になる可能性もある」と森川。AIのアシストがあれば自分のアイデアをタイミング良く形にして世に出せる。
ここで重要なのが、トークセッションで森川が示したAIに対するスタンスは、「漫画が上手くなるなら使う」ものだということ。「僕はAIをただの道具だと思っている」という森川にとって、AIが漫画を描く上で作業をサポートしてくれるものなら使うということだろう。日本漫画家協会が先だって、出版社や日本動画協会と「生成AI時代の創作と権利のあり方に関する共同声明」を出した際にも、協会の中で「著作権を守ることは著作者を守るということなので、これに賛同しない手はないと言った」ことを明かした。
「AIは、どこまで行っても今のクリエイターに勝てない。なぜならAIは死なないから」とも話した森川。命と引き換えにしてでも何かを生み出そうと悩み悶えるところから、エッジの立った表現が生まれてくるといった認識を土台に、今後AIが進歩して普及したとしても、クリエイターの想像力がAIを上回っていくような未来を示してみせた。
この点については深津も同じ考えで、「AIを創作に使うとするなら、エッジを出す部分は人間が行い、「てにをは」をしっかり書くようにするなり、書いている物語の現在地が分かるようにするなりといった周辺業務」だと話した。けんすうも、AIが執筆中の作品を読み込んで分析した上で、「書いているうちに登場人物たちの親密度が出たり性格が出たりするようになれば、何を書いたのかを覚えていられる」と話して、創作をサポートするAIの可能性を感じさせた。
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深津やけんすうは、AIの進歩によってクリエイティブに関わる分野で何が変わっていくのかといったビジョンも示した。続々と登場してくるAIが作品作りに使われることについて、けんすうは「技術の問題と倫理の問題と感情の問題がある」と指摘。こうした問題を考慮しない勢力がAIを使って作品を作り、そのことを気にしない読み手が増えていく可能性を示唆した。
深津も、「歴史上、需要のあるテクノロジーとして出たものは止まらない。その中でどう生きるかが基本的な考えになる」と、生成AIそのものを完全に排除できない難しさを指摘した。そうした圧力の中で、著作権が絡むような問題が生じてきた時に、『ブルーロック』のROBLOX上でのゲームを一例に挙げ、けんすうが「著作権で見ると絶対アウトだと分かっているが、3億円売り上げているものを潰すのが良いのか、作家のメリットを考えると上手い方法がありそうだということが模索されている」と発言。講談社が7月にROBLOXのライセンスシステムにローンチパートナーとなり、公認のような形を通して収益を分配してもらうような解決策が取られていく道を示した。
AIの進化はまた、生み出される作品そのものの姿にも変化をもたらす可能性があることも話された。深津は、「もう少しすると、小説家や漫画家やイラストレーターがやれることの範囲が強大化して統合されて違うゲームが始まる。今のクリエイターは作品を作ることがメインだが、自分の作品に属する世界設定や歴史やルール、経済も含めてメタバースのようなものを作れるようになる」と話した、「動画AIをベースに未来をシミュレートしたものを作ることができるようになる」。そうして作り出された世界そのものを訪れて楽しむような状況が、AIの進歩の先に来るのではといったビジョンが打ち出された。
最後に、改めて現状でのAIに対する認識として、けんすうは「作業を楽にしてくれるという点でAIは相性が良いが、作家性については相性が悪いということが整理された」と話し、深津は、「AIで漫画を描けると言っても、最後まで描ききる人はなかなかいない。AIが好きでも嫌いでも良いから、踏み出すこととやりきることをしっかりやれば、次の10年は楽しく過ごせるのでは」と言って、これからAIとどのように付き合っていけば良いかを示した。
最後に森川が、「絵巻物から出てきた漫画を手塚治虫が破壊した。今の漫画家の10割は手塚先生のフォーマットを使っている。縦読みの漫画が出て来たが、それは絵巻物にもどったものだと言える。そして縦読み漫画が伸び悩んでいるのは手塚先生のような破壊者が出てこないから」だと、漫画の神様が拓いた現在の漫画が持つ完成度の高さを改めてアピール。その上で、「手塚先生を超えるAI、人類最高の天才を超えるAIが出てくるなら凄い」と話してトークセッションを締めくくった。
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(文・取材・写真=タニグチリウイチ)
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