
まずは救急科による、命を救うための初期治療……全身状態と外傷範囲の把握も
クマに襲われてしまった患者さんが搬送されてきた場合、初期治療を担当するのは救急科です。外傷の程度や状況により治療は異なります。救急科のみで治療が終わることもありますが、クマの爪や牙で攻撃を受けている場合、複数の臓器損傷など、広範囲な治療が必要なことも珍しくありません。救急科が全身状態と外傷の範囲を迅速に把握した後、各専門の複数の診療科がチームで治療に当たります。
形成外科、整形外科、消化器外科など……損傷部位の専門医が各治療を担当

クマ外傷で一般に多く見られるのが、「広範囲の皮膚欠損」です。皮膚再建は形成外科が担当します。しかし命に関わる緊急性はありませんので、初期の処置によって、全身状態が落ち着いてから行います。慌ただしい状況でも、患者さんが後に困らないよう「できるだけ元の姿に近づける」ことを意識して再建が進められます。
血管に大きな損傷がある場合は、血管外科による再建治療が行われます。ほとんどのクマ外傷の場合、血管処置の大部分は、出血している血管を糸で縛る「止血結紮(しけつけっさつ)」で解決しますが、重要な血管が損傷しているときは再建が必要です。この場合は命に関わるため、多くは緊急手術になります。
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ごくまれに消化器や呼吸器などの内臓を損傷することもあります。その際は消化器外科・呼吸器外科の医師による緊急手術となります。欠損した臓器を修復したり、他の組織を使って欠損部分を再建したりすることもあります。
術後・退院後の精神科によるサポート……急性ストレス障害やPTSDの継続的ケア
ほぼ全てのケースで、クマに襲われた経験は強烈な心理的ショックを伴います。精神的な動揺は受傷直後から見られますが、急性ストレス障害やPTSD(心的外傷後ストレス障害)につながっていく可能性もあります。そのため、緊急治療が落ち着いた段階で精神科が介入し、必要に応じて退院後も外来フォローを継続します。
身体の傷が治ってきても、心の痛みが残るケースは少なくありません。治療チームは、その回復も大切に見守りながら支えていきます。
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井上 義治プロフィール
慶應義塾大学医学部を卒業後、20年以上にわたり形成外科医として総合診療に従事。患者の要望を丁寧に聞き、一人ひとりに合わせた医療を提供している。(文:井上 義治(形成外科医))
