※写真はイメージです「レディファースト」という言葉は、もともと“女性を優先する”という考え方として知られていますが、その扱い方については現代ではさまざまな意見があります。そんな言葉が小学生同士の遊びの中で使われたとき、思わぬトラブルを生むこともあるようです。
小学3年生の息子を持つ亜紀さん(仮名・37歳)は、ある日を境に子どもの友人関係に悩むようになったんだそう。発端は、ある1人の女子が親から教わっていた「レディファースト」という言葉からだったのです。
◆いつも「女子が先」。不満が溜まる男子たち
「息子は放課後、校庭で遊ぶのが日課になっていて、普段から10人ほどの男友達と鬼ごっこやドッジボールをして遊んでいました。普段は男子だけだったのですが、人数が多い方が楽しいとのことで近くで遊んでいたクラスメイトの女の子たちとも次第に一緒に遊ぶようになったようです。
息子からは『早紀ちゃん(仮名)、ちょっと気が強いんだよね』なんて話は聞いていましたが、『いろんな子がいるよね〜』と特に気に留めていなかったんです。早紀ちゃんはクラスの女子の中心的人物で、私も何度か学校に行った際『やたら仕切ってる子いるな〜』くらいに認識はしていました。その時は、まさかトラブルに発展するなんて考えもしませんでした」
何気なくしていた息子との会話が、この先後を引くことは知る由もなかった亜紀さん。子どもたちの遊びの中で何が起こったのでしょうか。
◆女子を優先して! お母さんが言ってたもん!
「女子たちも交えてみんなで遊ぶようになってから、自己主張の強めな早紀ちゃんが、遊びの順番決めをするときになると『女子が先なんだよ!』と毎回言っていたんだそうです。男子たちが『なんで?』と聞くと『男子は女子に優しくしなきゃいけないんだよ! レディファーストして! お母さんが言ってたもん』と言われたんだとか。
最初のうちは男子も笑いながら『しょうがないな〜』と譲っていたそうですが、早紀ちゃんはどんどんエスカレートしていき、ドッジボールで当たっても、鬼ごっこでタッチされても『レディファーストだから今のはなし!』と強気だったようです」
最初のうちは受け入れていた男子たちも、毎回このやり取りが続くうちに少しずつ不満が溜まっていったそう。
「息子はルールを守りながら本気で遊びたいタイプだからこそ、早紀ちゃんの度重なる“レディファースト”発言に我慢ができなくなり、『順番はじゃんけんで決めようよ。女子だからって今のはなしとかにしてたら遊べないじゃん』と言ったようです。
その瞬間、早紀ちゃんは顔をしかめてポロポロと泣き出し、『帰る!』と走って帰ってしまい、その日は気まずい空気のまま解散する流れになったようでした」
◆相手の親から「いじわるされた」と言われ……
「数日後に学校の参観日があり、突然早紀ちゃんのママに声を掛けられました。『この前は放課後みんなで校庭で遊んだみたいで、うちの子があの日泣きながら帰ってきて、亜紀さんの息子くんにいじわるされたって言うんですけど……』と言われました。
詳しいことは息子に聞いてなかったので、『何も聞いてなくて……すみません』とだけ返し、家で息子に話を聞いてみました」
亜紀さんの息子は普段あまり揉めごとを起こすことがなかったからこそ、「いじわるされた」と直接言われて驚いたという亜紀さん。家に帰って息子さんに話を聞いてみて、初めて今回の全貌を知りました。
「息子は、ずっとモヤモヤしていたこと、他の女子は早紀ちゃんには反論しないこと、彼女のわがままが必ず通る環境ではみんなが楽しく遊べないと思ってじゃんけんを提案したこと、そうしたら泣かれてしまったことを話してくれました」
亜紀さんは、みんなでもう一度ルールを決めて遊ぶか、早紀ちゃんが変わらないなら同じルールで遊べる子とだけ遊ぶかにしたらどうかと提案しました。この時点でも、よくある喧嘩かなとしか捉えてなかったのだそうです。
◆事態はエスカレート。いつの間にか“悪者”に
亜紀さんは普段からクラスのママたちとは挨拶する程度で、深く関わっていません。対して早紀ちゃんのママは、学校のママ友同士でグループを作っているようなタイプ。そのため「この一件で面倒なことにならないといいな」という思いもあったそうです。
「ある日、唯一仲の良い別のママから『早紀ちゃんママが、うちの子が亜紀さんの息子くんにいじわるされたって言ってたけど何があったの?』と聞かれました。そこで、話を盛って噂を広めているらしいことを知ったんです。
事情を説明する場もないまま次第に、息子はクラスの女子から『早紀ちゃんにいじわるしたんでしょ! 最低!』などと言われるようになったようで、あの日放課後一緒に遊んでいた男子の友達は『いじわるしてないじゃん、嘘つくな!』と言ってくれたようですが、『女子が嫌だ……』と家で話していたこともありました」
◆見かねた担任の先生がついに動いた
クラスのリーダー的な女の子の影響力の強さを感じたという亜紀さん。個人面談では、担任の先生に事情も話していたようです。
「そのうち、クラスの他の女子も“レディファースト”という言葉を男子に向けて頻繁に使うようになり、見かねた担任の先生が本来のレディファーストの意味をクラス全体に向けて説明する機会が設けられました。
その後も早紀ちゃんママ率いるママ友グループは、学校で私を見かけると『男子は紳士に育てなきゃね!』などと聞こえるように言ってくることがありました。私自身は深いかかわりもないので気にしていなかったんですが、息子がクラスで嫌な思いをすることに不安がありました。
やがてクラスの男子と女子は対立するようになり、息子は男子の友達とは仲良く遊べているようです」
◆“レディファースト”は強要されるものではない
亜紀さんは今回の件で、改めて痛感したと言っていました。
「“レディファースト”って相手を思いやる心から自然に出るものであって、強要されるものではないと思うんです。それを子どもの世界に持ち込んで“男の子なんだから譲って当然”と教えるのはどうかと思いますね」
誰かが特別扱いされることで、別の誰かが理不尽を感じる。今回のような“レディファーストの押し付け”は、優しさではなく、差別意識を植え付ける危険性すらあります。大人の価値観の伝え方を一歩誤ると、子ども同士の小さなトラブルから大きな対立に発展する可能性もあるということです。
「女の子だから」「男の子だから」という枠を押し付ける前に、子どもたちが自分たちで決める力を見守る姿勢を、大人として大切にしていきたいですね。
<文/鈴木風香>
【鈴木風香】
フリーライター・記者。ファッション・美容の専門学校を卒業後、アパレル企業にて勤務。息子2人の出産を経てライターとして活動を開始。ママ目線での情報をお届け。Instagram:@yuyz.mama