「タカイチは“キュート”じゃないか」高市首相に対する米国の評価。大半が「日本の首相の名前を“知らない”」アメリカ人に起きた変化

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2025年12月02日 09:20  日刊SPA!

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会見する自民党の高市早苗新総裁 写真/産経新聞社
特派員として赴任したニューヨークに住み着いて世界情勢を追っている。国際報道に携わって25年近くになる。テロ、災害、事件、経済危機、政治の混乱など多くの現場を目の当たりにした。大手メディアに所属していた時代は、事実を淡々と伝えることに徹した。それに間違いはなかった。しかし「伝えきれていない」というもどかしさが常に胸の奥にあり、フリーランスになった。
インターネットが発達し世界のどこにいても情報が入手できる時代になった。これによって人々の国際理解は深まったのだろうか。ひいき目に見ても、そうではないと確信できる。要因は様々だが、情報の受け手よりも、発信する側の問題が大きいのではないかと感じている。

日本の国際報道はとかく「エリート目線」になりがちだ。「国家」が主体のニュースが多く、「国家」の顔色をうかがいながら取材しているからだ。これを打破しなければならない。

本当のことは現場でなければわからない。ニューヨークでゴミとほこりにまみれながら、ニュースを分析し、核心に近づく情報をお伝えする。

◆アメリカ人から見た高市首相

「女性初」という肩書は、どこの社会でも威力を発揮する。この肩書が威力を持ってしまうこと自体、社会が遅れているということでもある。それでも日本では、高市早苗氏が「初」の女性首相となったということで、国民の期待度が高まっている。一方、世界の先端を行くはずのアメリカでは、いまだに女性のトップは誕生していない。アメリカ人は日本の女性宰相をどう受け止めているのか。

先に、アメリカの現実をお伝えしておこう。日本人のほとんどはアメリカの現職大統領の名前を知っているが、アメリカ人のほとんどは、日本の首相の名前を知らない。この話を聞いて大方の日本人は「そうかもしれない」とすんなり納得するだろう。しかし、日米間の具体的な話題になると、大方の日本人はこのことを忘れ、アメリカ人は真面目に2国間を考えていると思い込んでしまう。

けれど、どんな時でも現実を見据えて物事を見極めなければいけない。アメリカ人は首相の名前さえ知らない程度の認識で日本に接している。アメリカ政府たりとて、一般市民と大差はない。アメリカはアメリカのことしか考えていない。言葉は強いかもしれないが、このぐらいの考えでいないと、アメリカという国を見誤ってしまう。

この大前提のもと、それでも最近、以前と違ったアメリカ人の「日本観」に出会う。そんなアメリカ人の視線の先にあるのは「高市早苗首相」だ。

◆「タカイチはキュートじゃないか」

私事であるが、高市氏が憲政史上初の女性首相になった10月21日、ニューヨークのブルックリンからクイーンズへ引っ越すことを決めた。これを機にシーツや枕カバーを新調しようと、2日後、ブルックリンのIKEAへ行った。カリブ海系移民の友人が車に乗せてくれたが、買い物帰りに「今度のプライム・ミニスターはどうだ」と質問してきた。

マーケット関係者以外に、アメリカ人との世間話の中で日本の首相が話題にあがったのは、ほとんど記憶がない。この友人は「タカイチはキュートじゃないか」と容姿のことばかり話していた。そういう見方もあるのかと、感心しながら聞いた。

翌日、取材で訪れたアメリカ企業の白人男性が高市首相の話題を持ち出してきた。「有名な政治家なのか」と質問してきた。

そして、その翌日もアジア系の知人に「お前はジャーナリストなんだからあの新首相と知り合いなんだろ」などと言われた。3日連続で日本の首相の話をするとは思わなかった。「女性初」というところが、アメリカ人にもニュースのツボとして刺さったのかもしれない。

もっとも、他にも要因はあるだろう。その一つが、このところの「旅先としての日本ブーム」だ。

◆高市首相の認知度の高さはインバウンドの恩恵?

この2、3年、日本を旅行したり、日本行きを計画しているアメリカ人の知人は各段に増えた。銀行やデパートの店員でも、こちらが日本人だと知ると「日本に行ってみたいんだ」と話しかけてくる。

最近では、アジア系スーパーでなくても出汁用の昆布を販売しているところがある。ニューヨークなどの都市部では日本食、日本文化への関心が以前に比べて高まっている。郊外の町でも日本食を名乗る店を探すのは難しくなくなった。

高市首相の認知度が他の歴代首相より高いとしたら、インバウンドの恩恵が少なからずあったのかもしれない。

米国メディアは、高市首相の政治姿勢など硬派なニュースだけでなく「サイドネタ」も報じている。衆院予算委員会に向け午前3時から勉強会をしたことなどは格好のネタだった。

ニューヨーク・タイムズは高市首相が持ち歩く黒いトートバッグに焦点をあてた記事を大きく載せた。台湾についての発言をめぐり日中関係がぎくしゃくしているが、就任1カ月を見る限り、米国メディアは硬軟取り混ぜて高市首相を取り上げていた。

◆安倍政権がアメリカにもたらした「日本ブーム」

しかし、日本の新首相誕生がアメリカにもたらした衝撃という意味では、実をいうと故・安倍晋三元首相の方がはるかに大きかった。

’12年12月16日に実施された総選挙で自民党が圧勝し、26日に安倍第2次内閣が誕生した。それまで日本株はグローバルな投資家に相手にもされていなかった。しかし、安倍政権は大胆な金融緩和によるデフレ脱却を掲げたことで、世界の投資家から注目され、、本格的な投資の対象となった。

アメリカ市場での「日本ブーム」は安倍内閣が発足する前、つまり総選挙前からすでに過熱していた。この年の11月に出稿した原稿や取材メモをひも解くと「市場では安倍自民党総裁は(民主党の)野田(佳彦)首相以上の存在になっている」「市場関係者の中にはマーケットははしゃぎ過ぎだとの声もあるぐらいだ」などの文言が並んでいる。

常に織り込み済みで動くのがマーケットだが、一国の選挙が行われるかなり前から結果を見越して株が買われるという異様な動きに、裏に何か仕込まれたものがあるのではないかと疑ったほどである。

この時、外国為替市場では日々、円安が進んだ。発足前から安倍内閣の目論見通りに円相場が動いていた。

高市首相は安倍内閣の政策を継承するという。首相就任後はさらなる円安基調になっており、安倍内閣の発足時と同じ流れをたどっている。

高市首相とすれば、安倍元首相のように「1強」と呼ばれるほどの頑丈な政権基盤を作りたいところだ。しかし、マーケットは高市首相にやや厳しめである。これ以上の円安は物価高を助長するだけで日本国民の人気を得る材料にはなりそうもない。

アメリカでは新しい大統領が就任して100日間、国民は様子を見るという慣例がある。100日過ぎても高市首相がアメリカのマーケットの注目度を維持するためには、単に安倍内閣の政策継承に留まらない独自色の強い政策を次々と送り出す必要がありそうだ。

【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。業界紙、地方紙、全国紙、テレビ、雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。

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