“デフレ脱却”か“円安加速”か――高市政権の18兆円補正予算が示す「責任ある積極財政」の分岐点

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2025年12月03日 09:00  日刊SPA!

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写真/産経新聞社
 11月21日の臨時閣議で、「責任ある積極財政」を打ち出した高市首相。政府は11月28日に2025年度の補正予算案を閣議決定し、一般会計の総額は18兆3034億円に上る。財政規律を重んじる財務省は現政権に対して面従腹背であるという見方もあり、周辺との調整も含め課題が山積みとなっている。
 信州大学特任教授の山口真由氏は「需要の弱さと物価上昇が同時に進むいまこそ日本経済の瀬戸際であり、“責任ある積極財政”がデフレ脱却に寄与するのか、円安加速を招くのかという分岐点で高市政権は慎重な判断を求められている」と述べる(以下、山口氏の寄稿)。

◆デフレマインド脱却か、円安加速が先になるか

 11月21日、コロナ禍後最大規模となる経済対策を閣議決定した高市政権は「責任ある積極財政」に一歩を踏み出した。財政規律派は、早速「トラスショック」を引き合いに批判する。ただ、財政的な裏付けのない大規模減税によって国債が暴落した英国のような事態は、日本ではほぼ起こらない。理由は中銀との関係性の違いにある。

 伝統的に、中銀の独立性を重んじる欧州は、第一次世界大戦後のドイツの経験からハイパーインフレを最大の懸念としてきた。一方で、政府と一定程度協調しながら、デフレを回避することこそが中銀の役割と考えてきたのが米国だ。政府と極めて近い関係にあるからこそ、憧れを込めて“独立性”を信奉した日銀を筆頭に、財務省も含めて日本では欧州型の考えが主流だった。

 自然科学と違って“正解”のないマクロ経済ではあるが、このところのトレンドを見る限り、世界は米国流に傾斜しつつある。「トラスショック」にしても、プライドの高い英中銀が国債を買い支えるという政府との連携策を拒絶した帰結なのである。逆にいえば、日銀は政権をああいう窮地には陥らせないだろう。

◆現在の日本はデフレなのか?

 さて、ハイパーインフレよりもデフレを恐れる米国流には一定の合理性がある。実際、インフレには金利を上げるという処方箋が効く。一方、マイナス金利という最終手段によっても、デフレ退治は難しかった。そして、物よりもお金に価値がある社会で、個人も企業も溜め込んで経済が回らないジリ貧危機は、まさに日本が体現している。

 問題は、現在日本がデフレなのかという点にこそある。なぜなら、ここに来て物価が上がっているからだ。デフレ局面での積極財政は正当化されるが、インフレの下では状況をより悪化させかねない。実は、デフレを判断する重要指標の一つ「需給ギャップ」はいま0付近であえいでいる。力強い需要に牽引されて物価が上昇しているとはいえないので、高市総理は現状を「デフレ脱却」とは判断していない。そこで財政出動が正当化されるという理屈なのだ。

 そう、日本経済はいままさに瀬戸際にある。お金を手放して物を欲する熱量が、長いデフレで凍ったマインドを解かしてくれるのが先か。財政出動を続けた結果、円安が加速し、軌道修正を強いられるのが先か。アベノミクスの見果てぬ夢のその先に「責任ある積極財政」は、私たちに新たな地平を見せてくれるのか。

 外交問題で自ら渦中に突っ込んでいったかに見える高市総理だが、やりたいことの第一と明言していたのが経済政策。そこに集中できる足場を、まずは整えてほしいと望む。

<文/山口真由>

【山口真由】
1983年、北海道生まれ。’06年、大学卒業後に財務省入省。法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。帰国後、東京大学大学院博士課程を修了し、’21年、信州大学特任教授に就任

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