サントリーウイスキーの味はどこで決まる? 極秘「ブレンダー室」に潜入した

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2026年01月04日 08:50  ITmedia ビジネスオンライン

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ブレンダーたちの現場をのぞく

 世界的な評価を得ているサントリーのウイスキー。その味は、いつ、どこで決まるのか。答えのひとつが、「ブレンダー室」だ。


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 山崎蒸溜所(大阪府島本町)の一角にあるブレンダー室内には、数百の原酒サンプルが並び、ウイスキーの味を左右するテイスティングと議論が行われる。普段は限られた社員しか立ち入れないその部屋は、一体どんな場所なのか。特別公開された現場を取材した。


 山崎蒸溜所は1923年に着工、1924年に竣工した日本初の本格モルトウイスキー蒸溜所だ。周辺は、全国名水百選に選ばれる名水の里としても知られる。


 同社は100年にわたるウイスキーづくりの中で、「つくり分け」と「つくり込み」にこだわってきた。1つの蒸溜所でさまざまな原酒づくりに取り組み、現在は100種類以上の原酒を「つくり分け」ている。


 「つくり込み」では、各製造工程で品質を追求している。発酵工程ではビール酵母を併用し、蒸溜工程では世界的にも珍しい「直火蒸溜」を採用。貯蔵工程では樽材を選別し、熟成によって風味が高まる原酒づくりを目指している。


 こうした取り組みの結果、毎年ロンドンで行われる「ISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)」で、2023年に「山崎25年」、2024年に「山崎12年」、2025年も「山崎18年」が、それぞれ全部門最高賞を受賞。3年連続で同一ブランドが受賞するのは、ISC史上初の快挙だ。


●25年の低迷期と原酒不足


 ウイスキー市場は、1960〜70年代にかけて成長したが、その後はダウントレンドが続いた。2000年代からハイボール人気で回復傾向にある上、ジャパニーズウイスキーブームも相まって「原酒不足」が課題となっている。


 蒸溜した原酒が製品になるまでに、5〜20年を要するのがウイスキーづくりの大きな特徴だ。過去に仕込んだ原酒が現在の製品となり、今仕込む原酒が未来の製品となる。市場が低迷していた時期は原酒の製造量が少なく、現在のウイスキーブームに対応できる原酒が不足している。


 サントリーは「10年前から蒸溜所の増強を行い、製造したウイスキーを熟成する環境も考えて、少しでも届けられるよう努力している」としながらも、原酒不足は解消していない。


 20年後を見据えた製造計画が不可欠であることから、蒸溜所では10年、20年規模のカレンダーを用意し、将来つくりたいウイスキーから逆算して必要な原酒を設計しているのだ。


●ウイスキーの味を決める「ブレンダー室」


 通常は限られた社員しか入れない「ブレンダー室」が特別に公開され、筆者は主席ブレンダーの輿石太氏から説明を受けた。ブレンダーとは、数百種類の原酒をテイスティングし、最適な配合を見極め、製品の味を決定する専門職だ。


 場所も秘匿されているこの部屋で、ウイスキーの味が決まる。実験室のような空間は、温度計で管理された適温に保たれており、明るい照明は原酒の色を見分けるためである。五感を研ぎ澄まして、作業するための環境が整えられている印象だ。


 部屋は大きく3つのエリアに分かれている。原酒評価エリアでは、ひとつのテーブルに約100樽分の原酒サンプルが置かれ、それぞれに蒸溜年や樽番号などが記されたラベルが貼られている。貯蔵庫から取り寄せた原酒を一つひとつテイスティングし、使用用途を決めていく。


 ブレンド作業エリアでは、試作を繰り返しながら配合レシピを決める。バーコーナーでは、世界中のウイスキーが大量に陳列し、有名画家の絵画が飾られ、BGMが流れる落ち着いた空間だ。


 実際の飲用シーンを想定し、ジョッキでハイボールをつくって試作品の品質を確認することもあるという。グラスを変えて何度もテイスティングを重ね、最終的な品質を見極めていく。


●1万樽が17年で200樽に


 樽の中で熟成するウイスキーは、時間の経過とともに量が減り、色が濃くなっていく。年間で約2%が蒸発し、20年たつと約40%が蒸発してしまう。「最初に1万樽あるとすると、17年目には200樽程度にまで減ってしまう」(輿石氏)


 ブレンダーが最も重要な判断を迫られるのが、製品として使うかどうかを判断する6年目だ。すぐに使用する原酒と、将来に向けて残す原酒を決める必要がある。判断基準は数量だけではない。品質がさらに良くなるかどうかを見極めなければならず、6年目の段階で、20年後、25年後の品質を予測する。


 同社ではブレンダーが約10人在籍しており、輿石氏は「ブレンダーはチームで活動することが大事。チームでテイスティングして議論することが、品質の見極めや向上につながる」と説明する。


 ブレンダーの仕事は、長期熟成する原酒の管理・評価だけではない。定番製品の安定供給と品質維持も重要な役割だ。熟成する原酒には必ずばらつきが生じ、貯蔵庫の場所によっても品質は異なる。このばらつきを放置すれば品質が落ち、ブランド価値の毀損につながる。


 そのため、年間で数十回の配合見直しを行い、原酒のばらつきに合わせて配合を調整することで、品質を維持している。


 チェックの方法も使い分けており、高酒齢やスパニッシュオークなど、特別な素材の樽は数年おきに確認し、一方で6〜8年程度のスタンダードな原酒は、ロットごとに代表樽を確認している。


●AIでは代替できない技術をチームで継承


 香りや味など、人間の五感に頼る仕事であるため、技術継承も容易ではない。その理由は、テイスティングが数値化できないことにある。AIによるブレンド支援の可能性について問われた輿石氏は、人間の感覚でしか判断できない領域があると説明した。


 その後、山崎、白州、知多の原酒と、響ジャパニーズハーモニー、響21年、響30年を試飲した。輿石氏の説明を聞きながら、同時に飲み比べると香り、色、口当たり、味わいがまったく異なることが分かる。


 香りや味など、比喩を使って説明を受けたが、五感で捉えた感覚を言葉にする難しさを感じた。抽象的な感覚を具体的な言葉に落とし込み、チームで共有する。この作業の積み重ねが、ブレンダーの技術を支えているのだろう。


 20年後の品質を今予測し、数値化できない技術をチームで共有する体制がある。6年目の判断や、年間数十回の配合見直し、チームでの技術継承。こうした地道な取り組みの積み重ねが、ウイスキーという長期的なビジネスの基盤を支えている。


(カワブチカズキ)



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