【脳科学者が解説】「仕事PCのパスワードが思い出せない!」 自然に思い出せる意外な方法

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2026年01月04日 20:51  All About

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【脳科学者が解説】長期休暇明けにパスワードが思い出せなくなるのは、記憶が「無意識な記憶」に移行しているためです。頑張って思い出そうとするのは逆効果。自然に思い出すための具体的なコツを、記憶のしくみから解説します。(※画像:Shutterstock.com)
年末年始やゴールデンウイークなどの長期休暇明け。久しぶりに仕事のPCを開いたものの、ログイン画面でパスワード入力を求められ、「あれ……何だっけ?」と思考停止してしまった経験はありませんか?

単に「正月ボケ」「休みボケ」といった言葉で片付けられがちですが、実は脳の記憶のしくみで説明できる現象です。具体的な思い出し方も含め、分かりやすく解説します。

「覚えているのに出てこない」のはなぜ? 記憶の3プロセスと、顕在記憶・潜在記憶

実は記憶は、意識的な記憶である「顕在記憶」と、無意識な記憶である「潜在記憶」の2種類に分けられます。

私たちは日々の暮らしの中で見聞きした出来事や体験、また必要な情報として覚えようとした内容を、脳の中の「海馬」という場所にいったん送り込みます。

そこで情報を、記憶として保存できる形に変換します。専門的には、「コーディング」と呼ばれるしくみです。

それぞれの情報は、言語・数字・色や形などの属性に応じて脳の広範囲に分散して保存され、それが「記憶」となります。

記憶には、「覚える(獲得)」「覚えておく(保持)」「思い出す(想起)」という3つのプロセスがあります。「パスワードを忘れた」と思う状態は、正しくは、脳のどこかに情報が保持されているにもかかわらず、想起できない状態を指します。

その証拠に、完全に忘れてしまったと思っても、ヒントとなるメモを見直したり、誰かに確認したりすれば、「ああ、そうだった!」と思い出せることがほとんどです。つまり、完全な記憶喪失ではありません。

記憶の貯蔵庫にしまい込んだ情報を引き出すとき、その情報がまだ新しいうちは、意識的な記憶として処理されます。新しい情報に対しては、私たちは「忘れないようにしなければ」と注意を払いながら、意識的な記憶として扱うからです。

このときに働くのが、脳の最前部にある「前頭前野」です。前頭前野は、意識にのぼった情報を手掛かりに、記憶の出し入れを担っています。

一方、同じことを繰り返すうちに、意識しなくても自然に記憶を扱えるようになります。例えば、引っ越したばかりの頃は一つひとつの道順や目印などを意識して帰宅していても、慣れてくると、ぼんやりしていても気付けば家に着いているものです。

扱い慣れた古い情報を、意識せず自然に扱えるようになっていれば、前頭前野が関与しない「無意識な記憶」に移行した状態ということです。

無理に思い出すのは逆効果! 「無意識な記憶」を呼び戻すコツ

では、「無意識な記憶」に移行すると、なぜ前頭前野が関与しなくなるのでしょうか? それは、前頭前野は、判断や実行を担う脳の最高位にあるためです。その分、扱える仕事量には限界があります。

例えるなら、会社の社長のような存在です。新しい会社の設立時や、新規プロジェクトの立ち上げ時には、当然深く関わります。しかし、一度軌道に乗れば現場に任せ、社長は別の場所に移ります。

現場だけでうまく回っているときに社長が口出しする必要はありません。余裕ができた社長は、別のプロジェクトにとりかかれます。「意識的な記憶」と「無意識な記憶」もそのような関係にあると考えてかまいません。

さて、問題のパスワード忘れは、まさにその情報が「無意識な記憶」へ移行したときに起こりやすいのです。毎日入力していると、「勝手に指がタイプしている」感覚になりますね。

私自身、いつもと違うPCでパスワードを入力した際、テンキー配列の違いに気付かず、いつも通りに指を動かして「間違っています」と表示された経験があります。このようなとき、前頭前野はもはや関与せずに情報が出し入れされているのです。

社長不在で、現場がルーチンワークをしているという状態です。しかし、無意識な記憶はしばらく使わないと、いわゆる「記憶の糸が途切れる」状態に陥ることがあります。

そうなったときに、頑張って意識的に思い出そうとしても、思い出せないのは当然です。現場から離れてしまった社長は、何が起きているのかも分かりませんから、解決のしようがありません。そのようなときはどうすればいいでしょうか。

答えはシンプルで、「現場に任せる」ことです。「こんなパスワードだったはず」と意識的に考えて思い出そうとするほど、逆に「思い込み」が邪魔をします。むしろ、いったん思い出そうと努力するのをやめましょう。

分からないと感じても、とりあえず指を動かしてみると、ふと指の動かし方で思い出せることがあります。あるいはパスワードを設定した当時の環境に身を置いてみることが有効です。

机の周りの様子を眺めたり、同僚の姿を見たり、いつものコーヒーを飲んでくつろいだりするうちに、ふっと記憶の糸が見つかり、「そうだ!」と思い出せることがあります。

パスワードは、あまり意味のない記号や数字の羅列であることが多いため、なかなか思い出しにくいものです。

同じように「無意識な記憶」に保存されるものでも、長い旅行に行っていたからと、自宅への帰り道を忘れたりはしません。これは記憶に含まれる景色や体感などの情報量が多い分、無意識の記憶になってからも忘れにくいためです。

この違いを踏まえると、パスワード設定時には、自然にイメージしやすい情報を組み込む工夫も有効です。

いわゆる「語呂合わせ」はその方法の1つですし、自分だけに分かるようなパスワードに関連するアイテムや写真をデスクのどこかに置いておくだけでも、目に入ることで思い出しやすくなると思います。

記憶のしくみを理解し、いろいろと上手に工夫してみましょう。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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