写真【今日のにゃんこタイム〜○○さん家の猫がかわいすぎる Vol.194】
「猫を迎えるなら保護猫」という風潮が広まっている今、ブリーダーには厳しい視線が向けられることも多い。動物の命をモノ扱いする一部の悪徳ブリーダーにより、ブリーダー全体のイメージが悪くなっているように感じられる。
だが、中には専門とする猫種を心から愛し、命を尊重しながらブリーディングを行っているブリーダーもいる。
杉麻衣さん(@from Olivia)は海外でも希少なアメリカンバーミーズという猫種のブリーダー。ブリーダー業で利益を得たいとは思っておらず、自分が惚れこんだバーミーズを絶やしたくないという想いから、ブリーディングを続けている。
◆「バーミーズと暮らしたい」と願ったことが“ブリーダー業”のきっかけに
もともとバーミーズに惹かれ、一緒に暮らしたいと思っていた杉さん。日本でブリーダーを探すも、出会うことはできなかった。
「ときどき、ペットショップで見かけるバーミーズは、本来なら黒い被毛の“ボンベイ”という猫種から茶色い猫が生まれると“バーミーズ”として販売されていることがあると知りました」
諦めきれなかった杉さんは、2019年にロシアのブリーダーに連絡。「ブリーダー用としてではなく、一般家庭で暮らす猫としてバーミーズを販売してほしい」と頼んだ。すると、ブリーダーから思わぬ返答が。
「バーミーズのブリーダーは世界でも少ないので、種を絶やさないために、日本でブリードをしてほしいとお願いされたんです」
こうして、杉さんはそのブリーダーから指導を受けつつ、バーミーズのブリーディングを始めることになった。
◆バーミーズらしい健康で愛くるしい姿で“種”を後世に残していきたい
ブリーディングする上で気を付けているのは、親猫の遺伝子検査を必ず行うこと。杉さんいわく、猫種によって必要な遺伝子検査は違い、バーミーズの場合は必ず調べておきたい重大な奇形をもたらす遺伝子の検査が日本ではできない。
そこで、杉さんはアメリカの研究所にサンプルを郵送して遺伝子検査をしている。
「研究所から送られてきた細い歯ブラシのような棒で頬の内側あたりの口腔内を擦って、細胞を採取します。ブリーダーは、その猫種に必要な検査や、それができる機関を知っておく必要がある。全く心配のないところを調べる遺伝子検査は、無意味です」
さらに、親猫になる子にはレントゲン撮影やエコー検査、血液検査などを行い、獣医師に判断してもらっている。
近親交配を避けるため、近交係数(※近親交配の度合いを表す数値)の確認も行っているそうだ。
「イスラエルから来てくれたお父さん候補だった子が、獣医師から繁殖には向かないと診断されたこともあります。でも、せっかく遠くから来てくれたので、その子とは一緒に暮らすことにしました」
出産時に必ず立ち合うのも、杉さんのモットー。日頃の信頼関係があるからか、母猫は杉さんを頼ってくれる。中には、杉さんの服に潜って出産した子もいたそうだ。
「バーミーズは、丸いお顔や丸い目が特徴的なかわいい猫です。筋肉質で体つきはしっかりしていますが、性格は甘えん坊。家では後追いしてくれ、知らない人もあまり警戒しません。被毛に光沢があって、ツヤツヤ。光にあたると、筋肉がとても美しくて見惚れます」
杉さんは、バーミーズをバーミーズらしい姿で後世に残していけるよう、子猫期の体づくりにも気を遣い、人懐っこい性格を引き継いでいけるように配慮しながら育てている。
「バーミーズは、シングルコート(被毛が1層構造)で短毛。抱っこしていると体温がよく伝わってきて心地いい。ずっと抱っこしていたくなる、人を虜にする猫です」
◆猫も人間も快適に暮らせる家を目指して試行錯誤!
深い“バーミーズ愛”を持っている杉さんは、猫も人も暮らしやすい注文住宅を建築。猫たちの様子を見ながら、必要なものをDIYで取り入れてきた。
家づくりの際には、「いろいろな部屋を行き来し、高い場所も楽しんでほしい」という想いから大きな吹き抜けを作り、家の隅々まで空調が行き届くよう、全館空調にした。
壁は、どこでもキャットステップが後付け設置できるよう、すべての箇所に下地を入れたそう。猫トイレを置く場所の真横には換気扇をつけ、におい対策も万全だ。
自宅に施した工夫の中で、特に猫たちから人気なのが、一階から二階へ登れる柱。猫たちは、吹き抜けの梁から一階の部屋を見下ろすのも大好きだ。
「危険がないように、キッチンは独立型にしました。火を使う時だけでなく、漬け置きも安心してできます。親猫も子猫もみんな、一般家庭と同じように快適で幸せな暮らしをしてほしい」
なお、杉さんは親猫たちをケージに閉じ込めてはいない。走ったり登ったりできるスペースがある部屋を用意し、性別ごとに部屋分けしている。
「バーミーズは運動神経がよく、筋肉質で遊ぶのが大好き。もともと、ケージ飼育には向いていません。今まで子猫を生んでくれたママ猫さんは5頭。うち2頭は親猫を引退しましたが、今も一緒に暮らしています」
◆猫ファーストなブリーダーが語る「悪徳ブリーダーへの憤り」
杉さんは、ホームページやインスタグラムから購入希望の問合せをもらうことが多い。だが、杉さんの目的はあくまでも「販売」ではなく、「バーミーズという種を後世に残していくこと」。そのため、まずは利益目的ではない海外のブリーダーへ優先的に譲渡している。
「ケージ飼育をせず、本当に家族として愛してくれる海外のブリーダーさんへ直接お渡ししに行くか、日本まで来て頂いています。飛行機に乗る時は貨物室には預けず、必ず座席に乗せています」
ブリーディングした子に飼い主が見つからない場合は、ほぼない。過去に1匹だけ譲渡キャンセルとなった子は、成長に心配がある1匹と共に飼い主を募集せず、愛猫にしたという。
「ブリーダーは、その種のプロであるべき。その種を誰よりも幸せにする方法を知っている必要があるし、実際にそのように暮らさせてあげるべきです」
そう思うからこそ、杉さんは悪徳ブリーダーの存在や壁一面にケージを並べてブリーディングしている現状があることに胸が痛む。
「猫は、感情豊か。食べて寝るだけが幸せではなく、喜びやワクワクも必要です。ケージの中で食べて寝るだけで一生を終える子がいなくなってほしい」
◆言い逃れができてしまうことも……現役ブリーダーが感じた“動物愛護法”の問題点
杉さんは、ブリーダーを本業にして生計を立てていくのは、本来であれば無理があることだと話す。命を尊重するには体づくりに必要な栄養価の高いフードや設備を整える必要があるからだ。利益を優先すると、猫たちは必然的に無理を強いられることになるという。
動物愛護法にはいろいろな規定が記されているが、それらは猫が生きるために必要な最低限なことでしかない。
「ただ生きているだけでは、幸せではないはず。でも、動物愛護法で定められているよりも狭いケージで飼育しているブリーダーが保健所の指導で廃業になった話を、私は聞いたことがありません」
たとえ、保健所の指導が入ったとしても、「順番にフリースペースに出している」と言い逃れることができ、出産の年齢制限や回数なども、ブリーダーの言葉を信じるしかないのが今の動物愛護法の問題点だと杉さんは語る。
「でも、逆を言えば、ブリーダーの良心や猫への愛情を図る術もない。私はバーミーズという素晴らしい猫種を絶やしたくない一心でブリーディンをしていますが、保護活動をしている方から見ると、猫を増やしている私も悪に見えると思う。人間と動物が関わるって、本当に難しいことなのだと感じます」
保護猫を迎えることが主流となっている近年は、純血種を迎え入れることが「悪いこと」のように捉えられることもあるが、どの猫にどんな思い入れがあり、どう暮らしたいかは人によってさまざまだ。
保護猫の命を守ることはもちろん大切で尊いことだが、純血種として生まれてきた猫にだって幸せを掴む権利はある。どんな生い立ちの子も幸せが掴みやすくなるには、まず本当に種を尊重するブリーダーだけが繁殖を許されるよう、動物愛護法が改正されることが大切だ。
保護猫文化が盛んな今だからこそ、杉さんのブリーダー論や熱いバーミーズ愛が幅広い人に届いてほしい。
<取材・文/愛玩動物飼養管理士・古川諭香>
【古川諭香】
愛玩動物飼養管理士・キャットケアスペシャリスト。3匹の愛猫と生活中の猫バカライター。共著『バズにゃん』、Twitter:@yunc24291