画像はイメージです。※画像生成にAIを使用しています「あなたのために言うけど」「私だけは味方だよ」。そんな優しい言葉なのに、なぜかモヤっとした経験はありませんか?
◆あなたも知らず知らずに操られているかも?
気づけばその人の意見を聞かずにいられない。相談も決断も、その人を通さないと不安になる。もし心当たりがあるなら、相手は“マニピュレーター”かもしれません。心理学では、こうした「見えない操作」を行う人をマニピュレーターと呼びます。
表向きは善人で、裏では相手の感情・人間関係・自己肯定感を少しずつ侵食していくのです。たとえば、自分がいないと相手がダメになる構図を作る。不安や罪悪感で動かそうとする。“操られている”と気づきにくいのが特徴です。
見た目は親切でやさしいのに、裏ではあなたの感情や人間関係をじわじわ操る“見えない支配者”。そして、そんな厄介な人たちは意外と身近に存在します。今回は、そんなマニピュレーターに振り回された2人の声を紹介します。
◆上司からの「優しさ」が、実は支配のサイン?
「うちの部署には“めんどくさい上司”として有名な45歳の男性社員がいます。その優しさは“自分の役に立つ人”にしか向かなくて。使える部下には笑顔なのに、思い通りにならない部下には、態度が急変するんです」そう語ってくれたのは佐藤瑠衣さん(仮名・28歳/事務職)です。
「とにかく、注意の仕方が嫌味っぽい。私のミスじゃなくて、その上司の伝達不足でも『僕は何度あなたの尻拭いをすればいいのか』と言われました。ほかにも、説教のたびに『君のためを思って』と語りながら、『だらしなさが表情に出てる』とか、『服装も派手だ』とか人格や見た目も否定するんです。また、ため息を大げさについたり、こちらが声をかけてもあからさまに無視したり……。到底、大人の態度とは思えませんでした」
佐藤さんは次第に「自分は仕事ができない人間だ」と思い込んでいったそうです。
「でも、ネットの記事で“マニピュレーター”という言葉を知った瞬間、すべてが腑に落ちました。私は仕事ができない、人間としてダメなんじゃなくて、モンスター上司の支配欲に巻き込まれていただけなんだ、と。気づいたら、少し呼吸が楽になりました。上司だから気に入られなきゃとか、尊敬しなきゃと思わないで、こちらもちゃんと見定めていいんだって思えたのは大きいです。ヤバい上司とは正面から向き合わないこと。淡々と距離を取る。それだけで、自分の心を守れる気がします」
◆友達でも気をつけて!“味方”の顔をしたマニピュレーター
職場にひとりはいる“空気で支配する上司”。しかし、マニピュレーターは仕事だけに潜んでいるわけではありません。むしろもっと身近で、もっと気づきにくい形で、友人の顔をして心に入り込んでくるタイプもいます。続いて紹介するのは、まさにその“身近すぎて逃げられない”ケースです。
学生時代から十年以上付き合いのある友人・B子さん。吉田美穂さん(仮名・34歳/会社員)はずっと、彼女を“味方”だと思っていました。
「B子はいつも決まり文句のように、『あなたのために言うけど』と切り出して、周囲の悪口を私に伝えてくるんです。『みんな表ではあなたと仲良くしてるくせに、裏であんなこと言ってる』と。なんだかんだ私以上に怒ってくれるので、彼女のことを信じていました」
しかしその親切は、吉田さんの日常を少しずつ蝕んでいきます。「気づけば、周囲の人が全員敵に見えるようになっていたんです。今思えば、B子自身の不満を“誰かの言葉”として私にぶつけていたんだと思います」
距離を置き始めると、B子さんからの連絡は一気に増えました。
「『あの人たち、またあなたの悪口を言っていたから注意したよ』『ストーリーも削除させたから安心して』『陰でこそこそとか、やることが陰湿だよね』と、次々と送られてきました」
不安を煽り、助けるふりをしながら、相手を縛りつける。これはマニピュレーターがよくやる手口です。吉田さんは悪口を言っていたという相手に直接確認しました。「完全に嘘でした。むしろその子は『吉田さんがあなたの悪口を言っていた』とB子から言われていたんです」
その瞬間、すべてがつながりました。
「B子は結局、私の世界から“自分以外の人間”を全部消そうとしていたんだと思います。誰かの悪口を伝えるのも、私の不安を煽るのも、孤立させるためだった。そこまでして支配したかった理由は本人にしか分かりませんが……。B子とはこの取材を受ける2か月ほど前からゆっくり疎遠にしていたのですが、最近またメッセージが届いたんです。『あなた〇〇さんから、またしつこく悪口を言われているよ』と、相手の名前を変えて何通も送ってきたときは、怖さよりも気味の悪さのほうが勝ちました」
吉田さんは現在、B子さんとは距離を置いて生活しています。
◆「優しさ」が支配に変わる瞬間
彼らの根底には、“相手を道具にしてでも、自分の価値を確かめたい”という歪んだ安心欲求があります。優しさは仮面で、寄り添いは支配の布石。恋人・友人・上司など、あらゆる関係に紛れ込み、相手の心を握ろうとします。
そしてなにより厄介なのは、マニピュレーターはどこにでもいるし、見た目では判断できないということです。家族、職場、友人、ママ友など、優しい顔をしてあなたの隙間に入り込み、気づけば自己肯定感だけが削られていく。
だからこそ、「この人と離れた日のほうが呼吸がしやすい」という場合は要注意です。そんな小さなサインを見逃さないでください。
<取材・文/青山ゆずこ>
【青山ゆずこ】
漫画家・ライター。雑誌の記者として活動しつつ、認知症に向き合う祖父母と25歳から同居。著書に、約7年間の在宅介護を綴ったノンフィクション漫画『ばーちゃんがゴリラになっちゃった。』(徳間書店)、精神科診療のなぞに迫る『【心の病】はこうして治る まんがルポ 精神科医に行ってみた!』(扶桑社)。介護経験を踏まえ、ヤングケアラーと呼ばれる子どもたちをテーマに取材を進めている。Twitter:@yuzubird