米アップルCEOに「2026年退任説」が浮上中。AIでの劣勢挽回には“ジョブズ的リーダー”が必要なのか

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2026年01月07日 09:20  日刊SPA!

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ティム・クックは在任期間15年でAppleの株価を10倍以上に成長させたが…(写真/Nomi2626 - stock.adobe.com)
「ティム・クックは史上最高クラスのCEOだった。だからこそ次が怖い」
最近、アメリカの投資家フォーラムやX、Redditなどで、こんな声を頻繁に見かけるようになった。

話題になっているのは、Appleの次期CEO問題だ。現CEOのティム・クックは60代に入り、引退のタイミングを意識していると見られている。11月には英紙フィナンシャル・タイムズもAppleの取締役会が後任人事に着手したとの関係者の話を報じている。

公式な発表はないが、早ければ’26年にもトップ交代が行われる見込みで、「次は誰か?」という議論がすでにメディア上で盛り上がっている。

興味深いのは「これは単なる世代交代の話ではない」ということだ。AI時代に、Appleは誰に舵を任せるのか。この一点に、投資家もテック業界も神経を尖らせている。

◆■AI時代は「クックとは別の役割」が必要?

ティム・クックへの評価は極めて高い。

「オペレーション面では歴代最高のCEO」
「サプライチェーンをここまで完成させた経営者はいない」
「株主にとっては理想的すぎる存在だった」

カリスマ的経営者だったスティーブ・ジョブズの後継者としてAppleを世界最高の企業のひとつとして成長し続けた手腕は称賛を浴びている。

ただ、こうした称賛とセットで、必ず出てくるのが次の一言だ。

「でも、AI時代でも同じタイプが最適とは限らない」
「Appleはまだ“AIで世界をどう変えるか”という物語を描けていない」

誰もクックを全面的に否定しているわけではない。ただAI全盛期の時代を迎えるにあたって「次は違う役割が必要なのではないか」という不安が語られている。

◆■「ジョブズでも替えが効いた」は本当か?

2011年、スティーブ・ジョブズが亡くなったとき、世界中が本気でこう思った。

——Appleは、もう終わるんじゃないか?

だが結果は真逆だった。ティム・クック体制の約15年で、Appleの売上は約4倍、株価は10倍以上に成長した。

数年前、ふと見たテレビ番組で、お笑い芸人のカズレーザーさんがこんな発言をしていた。

「ジョブズでも替えがいるんだったら大丈夫ですよ」

これは、「ジョブズだって替えが効いた。だからあなたの代わりもきっとどこかにはいる。だから『自分がなんとかしなきゃ!』と気負いすぎてメンタルを病んでしまうなんてもったいない。もっと気楽に生きよう」という、カズレーザーさんからの優しいメッセージだった。まじめに頑張りすぎてしまう多くの日本人に救いになったはずだ。

ただし、ここで一つ注意したい。

ジョブズは“替えが利いた”わけではないと思う。

◆■ジョブズとクックは同じCEOでも別の仕事をしていた

この議論を理解するには、ジョブズとティム・クックを「どちらが上か」で比べないことが重要だと思う。

ジョブズは、明確にファウンダー(創業者)だった。iPhoneやMacのように、世界にまだ存在しない体験を形にし、「それが欲しい」と思わせることが仕事だった。

一方、ティム・クックはオペレーター(運営者)だ。サプライチェーンを徹底的に最適化し、品質と利益率を安定させ、巨大な組織を壊さずに回し続けた。

ジョブズは「何を作るか」を決めた人。クックは「それをどう拡大していくか」を極めた人。

どちらも不可欠だった。ただ役割が違った。

この話はマイクロソフトの歴史を引き合いに出すとさらに理解を深められると思う。

ビル・ゲイツはマイクロソフトを創業して一世を風靡した。その時点では「WindowsとOfficeを押さえれば世界を制する」という明確な勝ち筋を持っていた。

だが2010年前後、状況が変わる。スマートフォンでは後れを取り、クラウドでも他社に先行された。

社内では「Windowsを中心にすべきか」で部署同士が対立し、「自分の部署が勝てばいい」という空気が強まり、会社全体としてどこへ向かうのかが見えなくなった。これが、マイクロソフトの“低迷”の正体だったと言われている。

そこでCEOになったのが、サティヤ・ナデラだ。彼が最初にやったのは、派手な新製品を出すことではない。社内の空気を変えることだった。

他部署を蹴落とす評価制度を見直し、新しい分野への学び・挑戦を奨励してWindows以外のプラットフォームも積極的に支援する。

その結果、Azure(クラウド)やAIに自然とリソースが集まり、マイクロソフトは再び成長軌道に乗る。直近で話したナデラがChatGPTを手がかけるOpen AIに積極投資をして密なパートナーシップを築いている点は全世界から注目を集めている。

ナデラは天才発明家ではない。だが、次の時代に向けて会社の「役割」を切り替えた人だった。ここにもファウンダーであるビル・ゲイツとの役割の違いがクリアに分かる。

◆■「ジョブズ=織田信長?」「クック=豊臣秀吉?」

この「リーダーとしての役割の違い」は日本史で考えるとさらにわかりやすいかもしれない。みんなが知っている、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という「戦国3英傑」の違いだ。

織田信長は古い慣習を嫌い、楽市楽座や鉄砲を導入し、「今までのやり方」を次々に壊した革命家だった。

対して豊臣秀吉は信長の遺産を使い、人たらしの能力で武将をまとめ、全国統一を一気に押し進めた調整役・実行役だった。

続く徳川家康は派手なことはしないが、法と制度を整え、260年続く江戸幕府という「続く仕組み」を作った。

3人とも偉大だが、やった仕事はまったく違う。そして順番も重要だったことは言うまでもないだろう。

まるで革命家の織田信長はスティーブ・ジョブズ、鮮やかな調整役の豊臣秀吉はティム・クック、仕組み作りの徳川家康はサティヤ・ナデラのようだ。

歴史に名を残すような仕事をしている偉人はその卓越した能力だけでなく「時代に求められていること」に徹しているように見える。この点は強調してもしきれない。

◆■仕事で問われるのは「才能」より「役割」

時代が変わればすんなりと人が替わっているように見える。でもそれぞれの役割を簡単に替えることはできない。たとえば信長がずっと安定して天下を治めるのは難しかったかもしれないし、家康が2人に先んじて頭角を現しても天下統一はできなかったかもしれない。

Appleも同じだ。

ジョブズでも替えがいた。ティム・クックも、いずれ替わる。だが彼らが果たした「役割」は、簡単には替えがきかない。

仕事で本当に問われるのは、「自分は特別か?」ではなく、「いま、この局面で何を引き受けているか?」ではないだろうか。壊す人が必要なときもあるし、まとめる人が必要なときもある。また地道にコツコツ続ける人が必要なときもある。

では、AI時代にAppleに求められるリーダーシップはどんな役割なのだろうか。

またジョブズのようなイノベーターが必要なのかもしれないし、ナデラのような基盤を大事にしつつも社内の文化を変えられる人なのかもしれない。簡単に出せる答えではないが、「役割」に注目してこのニュースを追いかけていくと有意義だと思う。

Appleの次のCEOを巡る議論は、実はぼくら一人ひとりの仕事にも、同じ問いを突きつけている。

「いま、自分に求められている役割は何なのか?」

それを自覚できる人は、実は一番、替えが効きにくいのかもしれない。

【福原たまねぎ】
シアトル在住。外資系IT米国本社のシニアPM。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後にベンチャー企業を経て2016年に外資系IT企業の日本支社に入社。2022年にアメリカ本社に転籍し現職。noteでは仕事術やキャリア論など記事を多数発表。X:@fukutamanegi

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  • ぼんやりAIシフトで利権やらメモリーやらが必要になっている時代でやるしかないんでしょ。やらない企業があっても良い。最先端だけが全てではない。
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