なぜ、森永ラムネは「受験生」に賭けたのか 夏のお菓子が変わった瞬間

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2026年01月12日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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森永ラムネ、再成長の裏側

 森永製菓の「森永ラムネ」(販売想定価格99円)が好調だ。2025年の販売規模は、2018年比で約5倍に拡大し、過去最高水準となった。国民的お菓子ともいえるロングセラー商品が、なぜ今になって支持を広げているのか。


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 1973年3月に発売した同商品は、ラムネ飲料の清涼感を再現し、口に入れるとシュワッと溶け、後味に粉っぽさが残らない爽やかな味わいが特徴だ。主原料はぶどう糖で、ラムネ飲料の瓶を模した形状は「食べるラムネ」というコンセプトを象徴している。


 長年、子どもの定番おやつとして支持されてきたが、2010年代に入ると、ぶどう糖が「酒を飲むときに良い」と話題になり、男性の購入が増加した。


 加えて、「ぶどう糖は集中したいときに効果的」とメディアで紹介されるようになり、ぶどう糖を90%配合する森永ラムネは、大人向けのお菓子としても注目を集めるようになった。


 その流れを受け、同社は2017年3月にパッケージに「ぶどう糖90%」の表記を追加。これをチャンスと捉え、同社は大人の喫食シーンに合わせた新商品の開発に着手した。


●新商品は伸び悩み


 しかし、新商品の売り上げは伸び悩んだ。2015年にウコンを配合した「ラムネのチカラ」、2017年には大人の女性に向けた「スパークリングラムネ」を発売したが、いずれも発売から1年程度で販売を終了した。大人のお菓子としてのニーズを捉えていた中で、何が問題だったのか。


 同社菓子マーケティング部の小山内裕亮さんは「森永ラムネといえば、水色のボトル形状と赤いブランドロゴの印象が強い。そのイメージとかけ離れた商品を出してしまった」と振り返る。


 炭酸飲料を想起させる黄色系・赤系のパッケージを使用したこともあり、森永ラムネのシリーズ商品と認識されなかったのだ。


 そこで、同社は方針を転換し、森永ラムネ“らしさ”を生かした商品開発に切り替えた。小山内さんは「ブランドの本質的な価値を見つめ直す必要があった」と説明する。顧客が幼い頃から慣れ親しんだ、懐かしく安心できるイメージという情緒的な価値の訴求を目指した。


●「らしさ」を生かした大人向け設計


 森永ラムネのアイデンティティーに回帰した商品として、2018年に発売したのが「大粒ラムネ」(販売想定価格141円)だ。サイズは通常の1.5倍と、大人の満足感にも対応した。


 パッケージデザインには、従来容器と同じ水色をベースに、アクセントにも同じ赤色を採用。ひと目で「森永ラムネの仲間」と分かるデザインとした。味も定番と同じで、慣れ親しんだ安心感を大切にした。


 大人の使用シーンに合わせ、容器をボトルタイプからパウチ型に変更した。持ち運びやすく、カバンの中でラムネがカラカラと音がしない仕様としたほか、売り場も子ども向けからグミやキャンディーが並ぶコーナーへ移動した。2020年頃からグミ市場が急伸し、売り場への来店客が増えたことも追い風となった。


 プロモーション費用をほとんどかけなかったが、発売直後からSNSで拡散され、想定を大きく上回る反響を呼んだ。年間販売計画数量を発売から1カ月で達成したことで品切れとなり、再販までに半年を要したが、その後も順調に売り上げを伸ばした。


 「ブランドの世界観、ロングセラーならではの良さを踏襲しつつ、1.5倍の大きさになったという面白さが受けた」と、小山内さんは分析する。森永ラムネは「大人も食べるもの」という認識が広がった。


●なぜ「受験生」に絞り込んだのか


 ぶどう糖の有効性が各メディアやSNSを通じて自然発生的に広がったことから、同社は「ゲームをするとき」「勉強や仕事に集中したいとき」など、さまざまな喫食シーンに合わせて施策を展開していった。


 コロナ禍でキャンディー市場は落ち込んだが、森永ラムネは販売規模を維持。テレワークやリスキリングの広がり、中学受験者数の増加など、集中を求めるニーズが背景にあると判断した同社は、訴求を「集中したいときにはラムネ」に絞り込み、2022年から”集中”の象徴として受験生をターゲットに設定した。


 その狙いについて、小山内さんは「受験は人生で一度は経験する人が多い。受験時に食べた記憶があれば、それ以降も集中したいときに選んでもらいやすい」と説明する。


 パッケージ裏面に赤シートをかざすと応援メッセージが現れる仕掛けを施したほか、2025年1月には「ラムネドットアート」という屋外広告を展開。約3万9000粒のラムネを並べて、受験生が頑張る姿を描く施策が話題となり、同月には「大粒ラムネ」の売り上げが前年比115%を記録した。


 スタディプラスの「受験トレンド白書2025」によると、大学受験期に一番食べたお菓子で1位を獲得するなど、受験生の定番アイテムの地位を確立している。


 受験生にフォーカスしたことは、売り上げの波にも影響した。もともとラムネ関連のお菓子は夏場に売れやすい商品だったが、受験シーズンである1月も伸びたことで、年間を通じて2つの販売ピークを持つ商品へと変化している。


●50年以上をかけて積み重ねた記憶や安心感


 ぶどう糖90%の食品を製造すること自体は、技術的にそれほど難しくないという。実際、市場には類似の商品も展開されている。では、なぜ集中したいときのお菓子として森永ラムネが支持されるのか。


 要因はロングセラーブランドの強みと信頼感だ。機能面で差がなくても、50年以上をかけて積み重ねた記憶や安心感は簡単には作れない。幼少期に親が買ってくれた記憶を起点に、森永ラムネを身近な存在に感じる顧客は多い。こうした記憶が選択の場面で効いており、情緒的な価値が機能的な価値を上回ったといえる。


 集中ニーズに対応する戦略で需要を拡大した一方で、課題もある。ビジネスパーソンの喫食シーンを増やすことだ。ビジネスで集中が必要なシーンに訴求するプロモーションを展開できれば、さらなる伸びしろがあると見ている。


 「受験生の応援も継続しつつ、新たなステージとしてビジネスパーソンの集中にもフォーカスしたい」(小山内さん)


 また、グミ市場の拡大で小袋キャンディー売り場の競争も激化している。グミを購入する顧客は多様な食感を求めており、森永ラムネもリフレッシュ、強炭酸、生ラムネ玉など、食感のバリエーションを拡大。ラインアップを増やしたことで、「森永ラムネ」の喫食シーンを広げている。


 ぶどう糖への注目を逃さず新市場を開拓できたことに加え、ロングセラーブランドの安心感と情緒的価値を武器に、成長を続ける森永ラムネ。今後は、受験生だけでなくビジネスパーソンにとっても定番アイテムとなる可能性がある。


(カワブチカズキ)



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