
国内居住者よりも高い外国人観光客の接客コストを価格に転嫁することは、理にかなっているようにも思えるが‥‥
文化庁が、国立の博物館や美術館で訪日外客の入館料割高に設定する「二重価格」の導入を検討するよう、運営者である各独立行政法人に求める方針を固めた。訪日外国人から適正な料金を徴収して収入を増やし、公費への依存度を下げるのが狙いだという。
【二重価格は外国人差別なのか?】
ただ、訪日外客に対する二重価格については、「外国人に差別的だ」という反対意見も根強く、導入に慎重になる運営者も少なくない。大手紙社会部記者が解説する。
「世界遺産の姫路城は2026年春以降、入城料を「市民」と「市民以外」で分ける二重価格制を導入する予定です。当初は訪日外国人を対象とする外国人価格が検討されていました。しかし、『外国人差別』との批判を受け、市民か否かで区分する方針に修正されました」(社会部記者)
姫路城の維持管理には市の公金が投入されており、すでに地方税を支払っている市民を料金で優遇することは理にかなっているといえそうだ。一方で、姫路城は国有財産であり、国民共有の文化遺産でもある。その点を踏まえれば、「国民または国内居住者」と「それ以外」で区別することにも道理があると言えるだろう。
海外では、二重価格は必ずしも例外的な制度ではない。インドのタージマハルや、ペルーのマチュピチュ移籍、エジプトのピラミッドなどの名だたる観光スポットをはじめ、遺跡や美術館、公共施設において、外国人観光客に高い入場料を課す国や地域は少なくない。
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これらの施設はいずれも国民の共有財産であり、整備や保存、修復には多額の税金が投入されている。税負担をしていない外国人観光客が、国民より高い料金を支払うことには相応の合理性があるとも言える。
【民間でも広がる二重価格】
二重価格の導入において、公共施設よりも先んじているのが民間施設だ。近年、ホテルや飲食店の中には、外国人観光客に割高な料金を設定する動きも見られる。これらの民間施設の多くは公共財ではなく、基本的に税金も投入されていない。しかし、二重価格を設定する事業者には言い分もあるようだ。
近く、二重価格を導入予定だという京都市内の居酒屋の店主が話す。
「日本語を話せず、日本文化にも馴染みのない外国人観光客は、日本人や国内居住者と比べて接客のコストが違います。注文ひとつとっても、どんな食材が使われているのか、どんな味なのかと説明を求められることが多い。
うちは、お客さんには国籍を問わず同じ満足感を提供したいと考えているので、相手が理解するまで丁寧に説明しています。ただ、そのぶんの人件費は価格に上乗せさせていただきたい。
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今年4月からは、外国語で特別な説明をさせてもらった外国人に対し、10%のサービスチャージを請求させてもらうことにしています。一方、外国人でも日本に住んでいる方など、日本語でコミュニケーション可能で特別な説明を求められない方には、請求していかない予定です」(居酒屋店主)
一方で、飲食店での二重価格は、外国人客とトラブルの発端となることもしばしばだ。
大阪のラーメン店では、券売機の表記を英語に選択すると、日本語表記の場合と比べて同じ商品でも高額になるという方法で、二重価格を採用していた。ところが、漢字が読めるために日本語表記との価格差に気付いた中国人客とトラブルが頻発。店側は中国人を「出入り禁止」とする方針も打ち出した。接客コストの埋め合わせのための二重価格が、余計なトラブルを招いているのでは本末転倒というべきだろう。
こうしたなか、SNS上では「通常価格を値上げしたうえで、運転免許証やマイナンバーカードを提示した客に値上げ額相当分の割引を行う」「日本語のみのメディアを通じて割引クーポンを配布する」といった国内居住者割引型の二重価格も提案されている。
しかし、いずれにしても、割引の適用を受けるためには身分証やクーポンの提示という手間が発生することになる。
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【日本人が冷遇される可能性も?】
二重価格の普及による別の弊害について指摘するのは、インバウンド事情について取材をしているフリーライターの奥窪優木氏だ。
二重価格導入より、外国人が「上客」として優遇される一方、日本人が冷遇される未来も!?
「現状、飲食店などでは外国人観光客と日本人や国内居住者の接客コストに開きがあるというのはその通りでしょう。ただ、こうしたコスト差は接客側の経験や体制の確立によってある程度まで逓減していくはずで、日本人や国内居住者よりも割増価格を支払う外国人観光客の方が、利幅が大きくなることが考えられる。
そうなれば、混雑時などには『上客』である外国人観光客の予約を優先的に取ったりする事業者や、外国人の嗜好に合わせたメニュー作りを行ったりする飲食店もますます増えていくことになるでしょう」(奥窪氏)
外国人観光客ばかりが割を食うと思われがちな二重価格の導入だが、日本人の生活や文化にも少なからず影響を及ぼす可能性がありそうだ。
文/吉井透 写真/ぱくたそ、iStock

