限定公開( 9 )

電気代が高騰する中、「暖房いらず」として話題のウェアがある。ファーブル社(東京都墨田区)が開発し、”着る暖房”と呼ばれる「モモンガ」だ。応援購入サービス「Makuake(マクアケ)」をメインに販売(一般価格2万3000円、早割1万7940円〜)し、最新作「モモンガ5」の購入額は2467万円、アンコール販売(プロジェクト終了後から一般販売までの間に再実施すること)も2483万円を記録した。
モモンガは、体温で暖めた空気を閉じ込める5層構造を採用。サーモライト中綿や保温裏地を組み合わせ、発熱装置を使わずに暖かさをキープする。
着用した人からは「まるで布団に入ったまま歩いているような感覚」といった声のほか、厚みのある素材だが意外に軽く、動きやすいという意見も寄せられている。
防寒着は厚着になりがちで、家でくつろぐには不向きであり、既存の暖房器具は電気代がかかる。加えて、冬場の災害時に起こり得る停電への不安も高まっている。坂井氏は「高騰する暖房費の節約や、災害時の備えのことを考えて購入する人も多い」と分析する。
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●キャンプで凍える知人を見て着想
モモンガの最大の特徴は、全身をすっぽり覆う一体型のシルエットだ。上下が分かれた一般的な防寒着とは異なり、顔から足首まで包み込む形状となっている。独特な形状について、坂井氏は「防寒だと体に沿うピッタリしたものを選ぶ人も多いが、モモンガはブカブカしていることで暖かさを保てる」と説明する。
開発のきっかけは、坂井氏のキャンプ体験にあった。キャンプ初心者の知人を誘う際、「昼は暑くても、夜は冷える」と伝えても薄着で来てしまうケースが多く、夜になると凍えて寝袋から出られず、たき火や食事も楽しめない。そんな光景を何度も目にしたという。
そこで、坂井氏は寝袋に入ったまま活動できないかと考えた。封筒型の寝袋をベースに、どんな服の上からも重ねて着られる形を目指し、開発に着手。構想から約2年を要して完成した試作品をアウトドアショップ向けの展示会でバイヤーに提案したが、「ほとんど相手にされなかった」と坂井氏は振り返る。
アイデアは良いはずだと考え、ダメもとで応援購入サービスに出したところ、公開直後から注文が殺到。初回は1800万円を超える支援を集めた。
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●保温性と着心地を追求
昨今の冬物市場では電熱ヒーターを内蔵したウェアも人気だが、モモンガは対照的なアプローチをとっている。「発熱装置を使わず、体温を熱源にするため、熱くなりすぎない。暖房をつけずに長い時間、快適に過ごせる着心地の良さに注力している」と坂井氏は語る。
モモンガが支持される理由は、単なるスペック上の暖かさだけではない。この製品が持つ「情緒的な価値」も理由の一つだ。「この姿に『背徳感』や『イタズラ心』のような自由な気持ちを感じ、楽しんでくれる人も多い」(坂井氏)
購入者からは「夫婦で着用している姿を見て、自然と笑顔になり仲が良くなった」という声も届くという。機能性に加え、日常を楽しくする遊び心もファンを引きつけているようだ。
実用面でのブラッシュアップも欠かしていない。ユーザーの声を反映し、改良を重ねている。第2弾では、裾幅を広げてカーブさせることで、歩きやすさを向上させた。第4弾では、フードを取り外しできるようにした。
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最新作では、トイレ用に裾をまくれるファスナーを追加。フロントファスナーを下まで伸ばして着脱を容易にしたほか、収納時のクッションにショルダーベルトを付けて持ち運びやすくした。保温力は従来モデルより10%向上、重量は約17%軽量化した。
●「廃棄ゼロ」戦略
ファーブル社は、一般的な小売販売ではなく、応援購入サービスによる受注生産を中心としている。理由の一つは、在庫リスクの削減だ。注文を受けてから生産するため、売れ残りによる廃棄を避けやすい。
もう一つは、ブランド価値の維持だ。小売店に卸す場合、売れ行きが悪ければ、値下げによって消化されることになる。「ブランドイメージへの影響も懸念され、購入済みの方をガッカリさせてしまう。基本的にセールを行わない方針だ」と坂井氏は説明する。
背景には、坂井氏のアパレル業界への強い問題意識がある。現在のアパレル業界は、見込み生産をして売り減らすビジネスが主流だ。欲しいときに買えて便利な半面、需要予測が外れると不良在庫が発生し、廃棄や焼却につながる。
坂井氏は「日本で既製服の販売が一般化したのは1960年代。今の売り方が唯一の正解ではないのかもしれない」と指摘する。受注生産モデルは、アパレル業界30年のキャリアを持つ坂井氏が目の当たりにしてきた大量生産・大量廃棄という構造への、一つの回答といえる。
●顧客の不満からシューズも開発
応援購入サービスを通じて寄せられる顧客の声を、製品にフィードバックする製造スタイルと、そのスピード感もファーブルの特徴の一つだ。
「モモンガから出る足が寒い」という意見が届いたことをきっかけに生まれたルームソックスシューズ(一般販売6400円)もその一例。「1年中モモンガのことを考えている“濃度の高さ”と、これまでいただいたお客さまの声が当社の強み」と坂井氏は語る。
大手メーカーが類似品を投入する可能性についても、坂井氏は大量生産・大量販売を仕掛けるにはリスクがあると指摘する。独特なフォルムが万人受けしない可能性もあり、大手は参入しにくい側面もある。
一方で、受注生産モデルには課題もあり、「欲しいときに買えない」状況が生じる。坂井氏は「日用品であれば在庫がないと困るが、モモンガは少し立場が違う。応援購入サービスの期間中に認知してもらい、シーズン中にお届けできるようにしたい」と説明する。
ファーブル社は、2月中旬からは別の応援購入サービス「machi-ya(マチヤ)」でプロジェクトをスタートする予定だ。「着る暖房」が、さらにどれだけの支持を広げるのか。
(カワブチカズキ)
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