
高市首相の解散権発動による衆院選は、2月8日の投開票に向けて激戦の真っただ中。自民・維新と最大野党の中道の対決がヒートアップする裏には、したたかな計算が透ける。各政党は、私たちの関心ある分野で何を訴え、どのように国民生活を変えるつもりなのか。公約の気になるポイントをチェックすると―。
民主主義の精神がわかっていない選挙
「自民党と日本維新の会で、なんとしても過半数を取らせてください。挑戦しない国に未来はありません。インド太平洋の輝く灯台として、日本が素晴らしい国だねと仰ぎ見られる存在であるように、そういう日本をつくりたい」
1月27日、自民党総裁の高市早苗首相は東京・秋葉原の街頭演説でそう訴えた。髪の毛を染めていると明かし、美容院はお金がかかるため自宅で毛染め剤を愛用しているとして、
「毛染め剤を塗り切った瞬間に大地震がきたら、洗い流せず私はどうやって逃げるんだろうと考えています」
と続けた。話の結末は、首都直下型地震に備え、木造住宅密集地や老朽化した集合住宅・上下水道の対策事業に責任を持って投資するという“危機管理”のアピールだった。
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立憲民主党と公明党で組んだ新党・中道改革連合で共同代表を務める野田佳彦氏(68)は、選挙戦第一声に青森県弘前市をあえて選んだ。積雪約1メートル弱の豪雪地帯の百貨店前でマイクを握り、氷点下のなか
「なんでこの時季に解散なのかな。この雪道を通ってきて改めて思いました。雪だらけの難路を歩きながら投票所に行く。お年を召した方も、障がいのある方にとっても、とても大変なことじゃありませんか。民主主義の精神がわかっていない選挙だと思います」
と真冬の解散を批判。
要するに、あてつけだ。演説後半には「まだ大丈夫ですか?」と聴衆を気遣いつつ、多くの裏金議員が自民党公認で小選挙区と比例代表に重複立候補していることを「反省がない」とバッサリ斬り捨てた。
高市内閣の支持率は57%で昨年末から10ポイント下落
衆院議員の定数は465議席で、高市首相が進退をかけた勝敗ラインは自民と維新で過半数の233議席。現有230議席だから低すぎる目標だ。負けたらどうなるのか。政治評論家の有馬晴海さんは言う。
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「自民党総裁は次の人に変わると思われます。ただ、人気のある小泉進次郎防衛相の出番はまだ先でしょう。44歳と若く、世代交代を嫌がる年長の議員の支持を得るのは難しい。誰しも国会議員になった以上は総理大臣になる芽をつぶしたくないのです。
前回総裁選に立った茂木敏充外相(70)や林芳正総務相(65)、ほかには、小野寺五典党税制調査会長(65)や稲田朋美元防衛相(66)が意欲を示すかもしれません」
毎日新聞が1月24、25日に実施した世論調査によると、高市内閣の支持率は57%で昨年末から10ポイント下落。41%が解散を評価しなかった。自民党の政党支持率は27%と低空飛行が続く。
「それでも自民党は強いと思いますよ。解散理由について自ら“高市早苗が総理大臣でいいのか、どうか”と国民に問いかけたのは、自分の人気を前面に押し出して党の候補を当選させたいからです。“私に辞めてほしくなければ、この人を当選させて”とお願いしているわけです。
唯一の誤算は、立憲民主と公明が組んで中道改革連合ができたこと。連立を解消した公明の支持者の票が減るのは仕方ないにしても、最大野党の票に上乗せされるのは想定外だったようです。だから確実に勝てる勝敗ラインを設定したのです」(有馬さん)
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高市首相が味方を増やす意欲にあふれているのは、選挙戦に先んじた党首討論でもあらわに。同席する国民民主党の玉木雄一郎代表(56)を横目に、「国民民主党には早くからプロポーズを送っております」と明かしたのである。
参院では自民・維新で過半数に届かず、国民が合流すれば過半数に届いて安定した政権運営ができる。
高市首相は維新の機嫌を損ねないよう、選挙後の自民・維新の連立維持を「マスト(必須)」とした上で話したから、したたかというほかない。当の玉木氏はプロポーズへの明確な返答を避け、苦笑いだった。
自民・維新で選挙に勝てばどうなるのか。
維新は大阪以外では伸び悩み
「高市首相の人気に引っ張り上げられ当選した自民党議員は、首相の味方につくことが期待できます。裏金問題で前回落選した議員が戻ってくれば人数分だけ政党交付金が増えます。30人戻れば20億円ぐらい増えるんです。解散の事前相談がなかったことで怒ったとされる麻生太郎党副総裁(85)も大喜びでしょう。
高市氏は石破前首相と同じく党内の“お友達”が少なく、首相就任後に会食に出かけたのは2回だけ。勉強に時間を費やし、しかもこだわりがあるので納得するまで突き詰めるんです。
もともと飲み会が苦手で、初当選して間もないころに誘われて行ったらお酌をさせられてイヤになったといいます。選挙に勝てば、公邸にこもって勉強していても味方を増やせます」(有馬さん)
主な政党の分野別公約は表(下)のとおり。与野党とも、減税幅や対象などに違いはあっても「消費税減税」を訴えており、争点にはなりにくい。
そのほかの政党では、チームみらいが唯一、消費税は減税せず、社会保険料の引き下げの優先と打ち出しているほか、「子どもの人数に合わせて税金を安くする『子育て減税』を始める。AIやロボット、自動運転など、これから伸びる産業に力を入れる」と公約する。
社民党は「クオータ制の導入などで女性の政治参画を推進。暮らし、仕事、収入、健康でジェンダー平等を実現。最低賃金全国一律1500円以上」などを公約に掲げた。
日本保守党は「入管難民法の改正と運用の厳格化。防衛産業への政府投資の促進。男女共同参画事業に関する支出の抜本的見直し」などを重点政策に挙げる。
減税日本・ゆうこく連合は「日米同盟を対等で新しい形に深化させる。新型コロナワクチンの接種を中止し、被害の実態解明と被害者救済を進める」などの公約を発表した。
維新側から見ると、自民に協力する狙いはどこにあるのか。ジャーナリストの大谷昭宏さんは次のように指摘する。
「維新は大阪府内の全19選挙区で議席を取っていますが、全国では伸び悩んでいます。このままでは地域政党にとどまり、いずれ関西以外から見放されるかもしれません。自民の力を借りてでも生き残りたいのでしょう。多数派形成の数合わせに過ぎず、別の政党なのに“高市首相のアクセル役になる”とか、おかしなことを言い出しています」
連立時代の公明は、自民の前のめりな安全保障・防衛政策に歯止めをかけるブレーキ役だった。しかし……。
信頼できるメディアの情報などを判断材料に
「自民・維新の連立では、非核三原則の見直しや防衛装備品の輸出緩和、スパイ防止法の制定、憲法改正などが現実味を増しています。政権から離れた公明が立憲民主とくっついて穏健保守の中道を組もうという趣旨はわかります。
しかし、ついこの間まで自民と一緒になって、批判の根強い特定秘密保護法などをつくっていたわけですから、やはり数合わせといえます。沖縄の米軍普天間飛行場の辺野古移設はどうするつもりなのでしょうか」(大谷さん、以下同)
各政党の公約や候補者の訴えを知り、慎重に吟味する必要があるという。
「街頭演説で候補者をじっくり見極めたくても、この寒さですから限界があります。風邪をひいてまで演説を聞くのはどうかと思いますし、各政党がホームページなどで公開する公約や、信頼できるメディアの情報などを判断材料にしてはどうでしょうか。解散から投票まで16日間しかない超短期決戦。こたつにあたりながらでも吟味はできます」
不満はあるものの大事な一票、私たちの暮らしを守るために慎重に投じたい。
