
日本人の「旅行」を取り巻く環境が様変わりしている。
海外旅行は、日本発着の航空券がずっと高止まりし、円安が進行して旅行費用が上がっている。それだけにとどまらず国内旅行も、都市部を中心にホテル価格が高騰し「日本人が泊まれない値段」が常態化していることから、日本人の国内宿泊数が前年より減り続けている状況だ。つまり「物価も上がり、旅行を楽しむ余裕がない」消費者が増えている。
それでも、全ての消費者が旅行を諦めたわけではない。大手旅行代理店のJTBは、2026年を「国内はほぼ横ばい、海外は緩やかに増加」と予測する。大手オンライン旅行サイト(OTA)各社も、スポーツ観戦やホテル、ロケ地巡りなど個々のこだわりや、旅行の決め手が「行き先より予算次第」という今まであまりなかった傾向を指摘した。
見えてきたのが、予算に合わせて賢く立ち回る「ロジカルな旅行者」の台頭だ。行き先よりもまず予算を決め、AIを駆使してタイパを追求し、時には1泊目と2泊目で違うホテルを泊まり歩く「ホテルホッピング」をすることによって、体験価値を最大化する――。
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かつての「安価な団体ツアー」が崩壊した今、旅行業界は誰をターゲットにし、どんな付加価値を提供すべきなのか。各社のデータと予測トレンドから、2026年の旅行ビジネスにおける勝ち筋を分析する。
●旅行費用は上がっても「やめない」 データが示す日本人のしぶとい旅行欲
JTBが発表した「2026年の旅行動向見通し」によると、2026年、日本人の総旅行人数は3億2250万人(対前年比98.0%)で、そのうち国内旅行は3億700万人(同97.8%)、海外旅行は1550万人(同102.6%)だった。海外旅行は微増するとしている。
理由として、国内旅行は「物価・宿泊費の上昇継続で国内旅行単価はさらに上昇」「旅行者数はほぼ横ばいだが、総消費額は単価上昇により微増する見込み」を挙げた。海外旅行については「円ドルレート150円前後が続く見通しの中、旅行者数の増加ペースは2025年より緩やかに」「近距離志向からアジアの比重がさらに高まるが、遠方でも一部回復傾向」「アジアでも物価・宿泊費の上昇が続き、平均単価はさらに高まる」としている。
国内・海外とも、旅行にかかる費用は上がるとの見方は同じだ。物価高などを勘案すると、今の日本の消費者の大半が、金銭面での余裕を持ち合わせてない。それでも「横ばい」「微増」などの表現から、「旅行すること自体をやめる人は、ほぼいない」と分析しているようだ。
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●「日本人が泊まれない」ホテルの高騰 中国人客の減少は“恩恵”となるか
観光庁が発表した「宿泊旅行統計調査」によると、日本人の宿泊数は、2025年10月が4213万人泊(前年同月比-3.6%)、11月は4251万人泊(同-1.2%)で、いずれも2024年を下回っていた。
日本人の旅行者の数は、海外だけでなく国内も減っている。その理由の1つが、訪日外国人(インバウンド)の増加によって国内ホテル価格が高騰し、「日本人が泊まれない値段になっているから」だ。特に、東京や大阪、福岡、札幌など都市部が顕著で、週末は特に高い。加えて、数年前のコロナ禍に「GoToトラベル」「全国旅行支援」などで、国内旅行がかなりお得にできた記憶も、躊躇(ちゅうちょ)する理由になっているようだ。
国内旅行を避ける理由として、インバウンドによるオーバーツーリズムも挙げられる。ただ、2025年秋から中国人旅行客は減少している。例えば、人気だった京都市内のホテル単価は急に下がり、観光地での騒々しさもなくなった。これはある意味で、日本人にとっての“恩恵”でもある。中国人旅行客の減少はしばらく続きそうで、今まで避けられていた国内旅行先に日本人を送客するチャンスでもあるだろう。
●AI任せの旅に潜む“無謀な落とし穴”
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2026年は、どんな旅行がトレンド(流行)となるのだろうか。OTAなど各社が、2025年秋から2026年にかけ、それぞれ旅行トレンド予測を発表している。
OTAの「エクスペディア・ジャパン」が発表した「Unpack‘26」によると、「スポーツ観戦の旅」「リノベ宿ステイ」「ホテルホッピング」「ロケ地巡りの旅」などが、2026年のトレンドになると予測する。
2026年は直近で、イタリアで冬季オリンピックが開催された。6月には北米3カ国でのサッカー・ワールドカップが控えている。観戦ツアーなどは高額だが、試合をテレビや雑誌、ネット配信などで観るうちに、現地のスポーツ観戦や観光に「行ってみたい」と思う需要が見込まれる。
しかも、イタリアや米国・カナダなどは日本からの直行便もある。物価は高いものの、もともと行きやすい人気の国々でもある。「ホテルホッピング」も、注目されている。1回の滞在でホテル移動することによって、航空券代をかけずに「一度で二度おいしい」旅行スタイルだからだ。タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する「若くて感度の高い層」が、現在のホテルホッピング・ブームをけん引している。
例えば1泊は奮発して外資系ラグジュアリーホテルに、もう1泊は地域密着型のホテルにといったように、自由な組み合わせによって自らの体験価値を引き上げようとする顧客が増えているのだ。
OTAの「Trip.com」とGoogleによる共同レポート「Why Travel」も見てみると、2026年の旅行は、旅行者が体験やウェルネス、AIテクノロジーを通してより深く「自分らしい旅」を求める傾向があると予測している。「AIにおすすめを聞くだけでなく自分好みの旅を一緒に設計する」「物理的な移動から人・場所・目的とのつながりを求める旅行」「体験をより深く感じる没入型旅行」の3つを、2026年のトレンドとして挙げた。
筆者は、新婚旅行で欧州に行くという若者から相談を受けたことがある。「ChatGPTに現地での旅行ルートを聞いた」という。ただ、そのAIが提案したルートは、現地で常態化する鉄道の遅延や、冬は雪国であることなどが全く考慮されておらず、AIに全信頼を置くのは無謀だとはっきり助言した。
取っ掛かりとしてAIを利用することは、参考になるのかもしれない。だが全体的に見ると、旅行会社をはじめとしたプロの人間によるサポートは、今後も引き続き顧客体験(CX)を向上させる武器になりそうだ。
●行き先より「予算」が主役 賢く切り詰める“ロジタビ”層の台頭
グローバル旅行アプリ「スカイスキャナー」は、18歳以上の日本人1000人を対象とした「2026年の海外旅行に関する意識調査」を発表した。これによると、旅行予約における最大のハードルは「費用」だという。
そのため、日常生活で計画的に節約して旅行する「ロジタビ」層の台頭が明らかになったとしている。ロジタビとは、ロジカルにコストパフォーマンスを最大化する旅のスタイル「ロジカル」を実践しつつ、賢く海外旅行を実現しようとする消費者の新潮流だ。
●崩壊した「安価な団体ツアー」 これからの旅行会社は“伴走者”へ
確かに「費用」は、これから旅行をしようとする日本人の消費者にとって最大のハードルであることは間違いない。とにかく今の日本人は何事においても「お金がない」という消費者心理を持っている事実を、念頭に置かないといけないだろう。
ただ、それでも旅行したい層は、限られた予算内でも実行に移す。日常生活を切り詰めて旅費に全投入する人もいれば、年間の旅行回数を減らす人もいるかもしれない。
また、「行き先を欧米などから近場のアジアへ」「大手航空会社でなく格安航空会社(LCC)を利用する」「宿泊するホテルのランクを落とす」ほか、現地での外食を減らし、地元の市場やスーパーマーケットで食材を買って自炊して節約する向きもある。
さらに、エクスペディアの予測に挙がるロケ地巡りや、アーティストのライブやイベンドなどの「推し活」は強く消費者意欲を掻き立てる。例えば、K-POPや韓流ドラマなどの人気が根強い韓国では、旅行会社が航空券とホテルをセットにして販売する「ダイナミックパッケージ」を活用して旅行する日本人は多い。コストパフォーマンスの良さからダイナミックパッケージは支持されている。
昔は、旅行会社のパンフレットを見てカウンターで相談して申し込むのが、一般的な旅行の定石だった。大量送客できる団体ツアーは、旅行客にとっては、安い費用で多くの観光地を効率よく巡ることができた。旅行会社や現地のエージェントも一気に儲(もう)かり、消費者も事業者も互いに「コストパフォーマンス」が良かったのだ。
コロナ前まではそんなツアーもまだあったものの、主な客層だった中高年がこの5年間で年齢を重ねてしまった。大きな購買力を有する高齢者層が旅行から離れ、今後も衰退が見込まれる。
旅行市場は今、かつての「量」から「質」へと構造を変えた。物価高という制約下で、いかに個々の顧客満足度を最大化できるか――。単なる予約代行のビジネスは、既に限界を迎えている。
AIの利便性とプロの知見を掛け合わせ、ロジカルな消費者の心理を突く「個別の解」を提示できるか。そのCXの設計能力こそが、2026年の旅行ビジネスにおける勝ち筋となるはずだ。
●著者紹介:シカマ アキ
大阪市出身。関西学院大学社会学部卒業後、読売新聞の記者を経てフリーランスのジャーナリスト・フォトグラファーとして活動中。主な取材分野は、旅行、飛行機・空港、官公庁や自治体、スポーツなど。国内外で、雑誌やWebなど向けに取材、執筆、撮影などを行う。ニコンカレッジ講師、空港や旅行会社などでのセミナーで講演活動も。
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