青山「みんなのスーツ」なぜ売れる? 4万7000着突破の裏にある“引き算”の発想

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2026年03月29日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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青山の「みんなのスーツ」が人気

 青山商事が2025年11月に発売した「みんなのスーツ」(1万2980円)が、メンズ・レディース合わせて4万7000着(3月末時点)を突破するなど好調だ。リモートワークの普及やオフィスカジュアルの浸透でスーツ離れが進む中、なぜ売れているのか。人気の背景には、低価格による手に取りやすさと、従来のスーツづくりと異なる発想があった。


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 みんなのスーツは、SSから3Lまでの11サイズを展開し、表記はカジュアル衣料と同じSML方式を採用している。メンズはブラック、ネイビー、チャコールグレーの無地3色に加え、2026年2月からは千鳥格子のネイビーとグレーを追加。レディースもブラック、グレージュ、ベージュ、ライトグレーの4色を同価格で販売している。


 好調な売れ行きの背景には、スーツ市場を取り巻く環境の変化がある。帝国データバンクによると、2024年度の上場紳士服7社のスーツ事業売上高は3564億円で横ばい。店舗数は2024年度末時点で2300店と、コロナ禍前で最も多かった2017年度末(2977店)から約700店減少した。


 一方で、オーダースーツの需要は伸びており、青山商事が展開する「Quality Order SHITATE」は堅調に推移している。2025年3月期のメンズスーツ平均販売単価は、3万4076円と前期から7.3%上昇。中小の紳士服店でもオーダースーツの販売に注力する傾向がみられ、業界全体で「量から質」への転換が進んでいることがうかがえる。


●5カ月で作り上げた「引き算のスーツ」


 高単価路線の動きも活発になる中、みんなのスーツは同社の平均販売単価を大幅に下回る価格(1万2980円)で、むしろ「数」を取りにいく商品だ。


 「コロナ禍以降、スーツの着用機会の減少、物価高による負担、スーツを着ないこと自体がトレンドになったことが重なり、スーツが『ハードルの高いもの』に感じられる風潮が強まった」と、商品第一部 副部長の高橋拓也氏は説明する。


 加えて、同社に寄せられる顧客の声にも、変化が見られるようになった。かつては、スーツに対して「重厚感があり威厳のある作り」を求める意見が多かったが、近年は「楽でストレスにならない着心地」を求める声が大半を占める。


 オーダースーツを求める層がいる一方で、多くの消費者は手軽さや着やすさを求めている。こうした声に応えるべく、スーツのハードルを下げ、気軽に購入できる体験を提供することが、本シリーズの出発点となった。


 従来であれば、生地の調達を含めた開発期間は約1年かかるが、「みんなのスーツ」は約5カ月で開発した。春の新生活シーズンに間に合わせるため、開発チームはこの商品にリソースを集中した。


 開発スピードだけでなく、仕様面でも従来のスーツの常識を覆している。通常、スーツは60品目以上の部品で構成され、立体的な形を保つために内側に多くの付属品を使っている。同商品ではこれらを最低限まで削減し、軽さと柔らかさを追求する「引き算」の発想で開発を進めた。


●従来のスーツとの違い


 みんなのスーツは、サイズ表記をカジュアル衣料と同じS・M・L方式とした。メンズスーツは、一般的に体形と身長の組み合わせで「Y5」「A5」などと表記するが、大半の消費者は自分のサイズを知らず、S・M・L表記であれば直感的に選べる。ウエストの両サイドにゴムを入れて伸縮性を持たせた仕様も、従来のスーツにはないものだ。


 商品名も横文字が主流のファッション業界にあって「みんなのスーツ」とひらがなを採用した。「ファッション好きな層だけでなく、必要に迫られて購入する層にも届けたかった。直感的に商品像が伝わり、耳に残るネーミングとしてひらがなを選んだ」(高橋氏)


 定番とは異なるスーツづくりに対し、社内では反対意見が多かったという。部品を減らせば軽さや柔らかさは出せるが、見た目が安っぽくなるリスクがある。


 しかし、青山商事のスーツ専門工場は立体的なものづくりを長年追求しており、内側の付属品が少なくても、立体的なシルエットを保てる技術があった。軽い着心地なのに見た目はきちんとしたスーツに見える。開発チームは、そのギャップを生み出せると考えていた。


 実際にサンプルを試着してもらうと、社内の評価は一変。その手応えから、通常は大掛かりな新商品で実施するオンラインでの試験販売を省き、発売初日から「洋服の青山」「スーツスクエア」の全店で取り扱いを開始した。


 「売れるかどうかというより、市場が今この商品を必要としていると判断した」(高橋氏)


●想定外の購入者も


 発売3カ月で累計2万着を超え、当初計画を3割上回った。新規客は従来品比で約1.5倍に増加するなど、その後も勢いは加速し、3月末時点では4万7000着に達した。ターゲットは30〜40代のビジネスパーソンだったが、実際の購入者は10代から70代まで幅広い層に分散した。


 中には、卒業式用に小学校高学年や中学生が親と一緒に購入するケースもあるという。SSサイズから展開しているため対応でき、レンタルよりも安いという理由で選ばれている。


 手頃な価格、サイズの分かりやすさ、ネーミングの親しみやすさなど、スーツに対する心理的なハードルを下げた設計が新たな層を呼び込んだ。「これまで来店しなかった層にも届いた」と高橋氏は手応えを語る。


 来店客からは「価格の割にちゃんとしたスーツだ」という声が多い。スーツ専門の縫製工場で立体的に仕上げる技術があるからこそ、価格を抑えても「安っぽく見えない」品質を維持できている。手軽さで入り口を広げ、品質で納得させる。この両立が、幅広い層に受け入れられた要因だ。


 同社の既存製品とのカニバリも起きておらず、出勤用のセカンドスーツとして購入されるなど、用途に応じた使い分けが自然に生まれている。


 スーツの着用年数は一般的に2〜3年だが、みんなのスーツは6カ月〜1年での買い替えを想定している。「カジュアルウェアに近い感覚で手に取れる価格にしたことで、色違いでの買い足しや早いサイクルでの買い替えにもつながっている」(高橋氏)


●次の一手は?


 3月現在、店頭に並ぶみんなのスーツはオールシーズン対応のモデルだ。今後は、夏場でも快適に着られる清涼感のある商品も企画している。薄手のカーディガンのような軽い着心地でありながら、スーツとしてのきちんと感を保つ商品を目指しているという。


 一方で、ユニクロなどカジュアルウェア大手もスーツ関連商品を展開しており競争は激しい。しかし、紳士服専門店ならではの優位性もある。


 高橋氏は「スーツを作る工場を育てるには、5年や10年では足りない。作り続けなければ、技術は維持できない」と指摘する。長年スーツを作り続けてきた縫製技術の蓄積は、簡単には模倣できない。


 加えて、カジュアル化が進む中で「何を着ればいいか分からない」という消費者は増えている。スーツを含めたビジネスウェア全体の中で、安心して着られる選択肢を示し続けることが紳士服専門店としての役割だと同社は考えている。


 みんなのスーツが低価格でありながら「スーツらしさ」を保てている背景には、長年の技術基盤と専門店としての知見がある。紳士服専門店の強みを武器にスーツのハードルを下げるという発想が、どこまで市場を広げられるのか。


(カワブチカズキ)



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  • びんぼっちゃまみたいに裏側は全裸なのかな?
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