父との思い出を振り返る亀田 現役引退から約8年。日本人初の世界3階級制覇を成し遂げた亀田興毅は、プロモーターとしてボクシング界に関わり続けながら、いまや5人の子を持つ父親でもある。リングを降りたことで見えてきた自身の変化とは何か。そして、その人生の原点でもある“親父”――父・史郎を、いまどう見ているのか。かつて世間をあ然とさせた亀田家の教育と、その関係性を語った。
◆自分の現役時代は「ええボクサーですよ(笑)!」
──現役引退から10年以上がたちますが、体型がそこまで変わっていませんよね。
亀田:ずっと1日1食の生活だからでしょうね。焼き肉とかめっちゃ好きですが、基本的に夜しか食べない。
──今もちょっと体調を整える程度にはジムに通っているんですか?
亀田:全然!『亀田興毅に勝ったら1000万円』とか『那須川天心VS亀田興毅』とかの企画の前はさすがに1か月くらいトレーニングしますけど、それ以外は引退してから10年間何もやってない。今年から腕立て伏せと腹筋は一応やるようになりましたが、なかなか続かないですね(笑) 練習がめっちゃ嫌いだったので引退したときは、「明日からもう朝走らんでええんや」っていうのが一番うれしかった。せっかく解放されたんやし、もう絶対体動かさへんって決めたもん(笑)。全く運動してなくても、健康診断の数値とかは年齢にしてはまぁ頑張ってるほうやと思います。
──ボクシングは後遺症を起こしやすいイメージですが……。
亀田:後遺症はあるね。自分は、左目に滑車神経麻痺と同名半盲があり、後は半側空間無視という症状が出ていて、特に左側は全く見えてなく反応が出来ない。見えてないので机の上の物とかを無意識に落とすし、人ともぶつかりやすい。なので車の運転は止めていて、免許返納しようと思ってます。
──壮絶ですね……。「3150FIGHT」のプロモーター目線だと、現役時代のご自身をどのように感じますか?
亀田:ええボクサーですよ(笑)! あんなボクサーおったらうれしいもん、ほんまに。勝手に話題作って、お客さんを集めてくれるわけでしょ? ヒーローとヒールっていう構図は、どんな時代でもウケるし、ああいうキャラクターが今おってもおもろいと思う。いろいろなキャラがいていいと思うけど、真面目なボクサーの対角に亀田興毅みたいなやつがおったら、もっともっと盛り上がるんじゃないかなと。
──私見ですが、ボクシングを“興行”として捉えると、現役時代の亀田さんの振る舞いは大正解かもしれないけど、“スポーツ”として捉える人にとっては腹立たしいということだったのかなと。亀田さんがいま現役だったら、当時ほどバッシングされなかったように感じます。
亀田:う〜ん、そうなんですかね? 当時も別に関係者から「お客さんを呼んでくれてありがとう」みたいなことは言われた記憶はないですし、自分はボクシング界でずっと嫌われてると思っています。ボクシングはスポーツです。なので基本的にみんな硬派で真面目。でも話題になって目立つことは大事。なのでその枠の中で大人しくやるのは違うかなと。「対戦相手も強かったです。次も頑張ります」みたいな優等生なコメントばかりだと記事を書く人も困るでしょ? まぁうちの家の場合は、やっぱり親父がプロデューサーでした。あの時代で上手くマスコミにハマったわけやし、そこは本当にすごいと思います。
◆父・史郎への思い
──亀田さんも自身も5人の息子さんがいらっしゃいますが、今あらためて父・史郎さんについてどう感じますか? あれはすごかった、あれはおかしかったとか。
亀田:おかしいのは全部やけど(笑)。親父は、「ボクシングで他人の子は育てられへん」って言ってます。「自分の子やから、嫌がっても無理やり練習させたり、好きなようにやれた」って。でもね、自分の子相手でもずっとあれをやり続けたのはすごいです。うちは離婚してお母さんがおれへんようになったから、親父は仕事して、ボクシングの練習して、家事とかも全部ひとりでやって……。自分のプライベートとか全て犠牲にして、息子のボクシングに全て突っ込んでるわけやないですか。親父は別にボクシングの実績とかないし、業界での人脈もないし、全くのゼロからのスタートで、結果なんて出るかわからないのに強い意志を持ってやり続けて、世界ボクシング史上初の3兄弟世界王者を育て上げた。亀田一家で一番すごいのは親父です。あの人は世界一のトレーナーなんです。
──最近では、“毒親”なんて言葉もありますが、そういう思いは一切ない?
亀田:毒親って何?
──うーん、虐待というか、子供の意思を尊重しない親というか……。
亀田:へー、そんな言葉があるんですね。でも親父は意外かも知れませんがバランスを取っていました。別にずっと練習ではなくて、休みの日は、自分らの友達を連れてキャンプに行ったり、ミニ四駆とか野球で遊んだりもした。そういう優しさもあったから、子供たちも親父についていった。今になってわかる親父のすごさってありますよね。自分なんで仕事にかかりきりで、家のことは全部嫁に任せてるから、親父と同じくらい子供に向き合えるかって言われたら難しいのが本音。
──亀田さんのお子さんたちは、ボクシングには興味を示していないんですか?
亀田:5人とも全く興味持ってないですね。でも、自分の子がボクシングやってくれたら嬉しいとかは特にない。やりたいことを見つけてくれたら、親としてはそれを全力で応援しようと思っています。
──史郎さんもお孫さんとなると、「別にボクシングをやらなくてもいい」というスタンスなんでしょうか?
亀田:初めはちょっとやってほしそうでしたけどね。うちの一番上の子が初孫なんですけど、まだ3歳くらいなのにパンチを打たせてみて、「これ絶対才能あるぞ! チャンピオンになれるぞ!」って(笑)。でも孫となると息子ほどいつも一緒にいられるわけちゃうし、親父も諦めたんでしょう。
──今も亀田一家で集まるんですか?
亀田:それぞれ子供もおるし勢ぞろいはあまりないけど、親父とはちょいちょい会いますね。親父は今年もう61歳になるから、1人でのんびりしたいみたいで、地方に別荘買うたって言ってました。別荘の敷地に山があったらしくて、親父から「名前はなんやと思う?」って聞かれたので、「亀田山(かめだやま)か3150山?(さいこうやま)」って答えたら、「違う。史郎山(しろうさん)や」って。山に自分の名前つけて、やっぱり親父は天才や(笑)。
【亀田興毅】
現役時代、プロボクシング日本人史上初の世界三階級制覇。2015年現役引退後、ボクシングジム運営などを経てプロモーターへと転身。自身がファウンダーを務めるプロボクシングイベント「SAIKOULUSH」が、4月17日(金)、18日(土)、19日(日)にキルギス共和国にて開催。イベントの模様はYouTube「SAIKOULUSH OFFICIAL」にて生中継。
取材・文/原田イチボ@HEW 撮影/荒熊流星
【原田イチボ(HEW)】
1990年生まれ。編集プロダクション「HEW」所属のライター。アイドル、プロレス、BL、銭湯サウナが好き。Twitter:@ichibo_h