限定公開( 5 )

JR東日本による東京都内での開発が勢いを増している。3月28日には、新たな複合商業施設「OIMACHI TRACKS」(以下、大井町トラックス)を大井町駅近くに開業した。
大井町はかつて車両工場があり、交通利便性にも優れた“鉄道の街”として知られている。
JR東日本の大井町駅があるほか、東急電鉄大井町線の始発駅でもあり、さらに東京臨海高速鉄道りんかい線への乗り換え拠点にもなっている。大規模な施設を設けることで、この3路線を利用する人々を駅周辺に呼び込み、買い物や飲食などの需要を取り込む狙いもあるのだろう。
また、複数の路線が利用できる通勤利便性の高いエリアでもあるため、オフィスを構えたい企業も集まりやすい。
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そうした潜在力を持つ大井町だが、JR東日本がこれまで手掛けてきた大規模な複合商業施設は、そのほとんどが山手線沿線だ。なぜ、JR東日本は山手線沿線外にある大井町トラックスの開業に踏み切ったのか。そして、大井町は今後どのように発展していくのか。
●大井町トラックスと品川区
大井町トラックスは、北側に広がる東京総合車両センターという鉄道施設と、周辺の線路に囲まれた場所に位置している。
東京総合車両センターには、かつて皇室用の客車も保管されており、名門の車両基地としても知られている。また、このエリアにはかつて鉄道車両工場があり、その後は旧国鉄やJR東日本の社宅が建てられていた。複合スポーツエンターテインメント施設や劇団四季の劇場が設けられた時期もあり、時代ごとに役割を変えてきた土地でもある。JR東日本としては、この土地をどう有効活用するかが長年のテーマだった。
同時に、品川区役所も新庁舎の整備を進める必要に迫られていた。既存庁舎は老朽化に加え、機能面でも課題を抱えていたためだ。そこで、JR東日本による大井町再開発に合わせる形で、東京総合車両センター南側に新庁舎を整備する計画が進められた。
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大井町トラックスや品川区役所の新庁舎が建つ一帯は、JR東日本と品川区の土地が複雑に入り組んでいたが、再開発にあたり区画整理が進んだ。このように、JR東日本と品川区が連携する形で、大井町駅周辺の開発が進んでいったのである。
●「トラックス」に込められた意味
その中で、今回オープンしたのが大井町トラックスだ。施設名の「トラックス」には、「車両工場・線路」「通り」「楽曲」という3つの意味が込められている。
この地には、大正時代から続く車両工場と線路の歴史がある。街にはメインストリートとなる歩行者デッキが設けられ、大井町を訪れる人々を魅了する多様な機能や共用空間が整備されている。大井町トラックスは過去の鉄道用地としての記憶と、新たな空間としての役割を重ね合わせた名称といえる。
さらに、「車両基地・工場」という土地の歴史と、「歩行者デッキ・ストリート」の開発からは、この街が未来へ向けて発展していく“道筋”が見て取れる。
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実際、開発を行ったJR東日本は、「トラックス」が持つ流れ・つながり・楽曲という意味を重視していると述べている。多様な人々が行き交い、広場や各種サービスを通じて交流し、それぞれの活動が重なり合うことで、一つの旋律のように新たな価値や文化を生み出していく場にしたい考えだ。つまり、大井町トラックスは単なる駅前再開発ではなく、駅から街へと人の流れを広げ、地域全体が一つの交響曲のように機能する場所を目指しているのである。
筆者は正式オープン前の報道公開日に、大井町トラックスを訪れた。巨大な建物の中に人を囲い込むのではなく、路面店舗を配置することで自然な回遊を促し、オフィス、ホテル、レジデンスとの往来も生まれる。そんな流れるような設計が印象的だった。「働く」「楽しむ」「休む」が一体となり、そこに人の流れが加わることで、優れた立地に交流型の街が生まれつつあることを肌で感じた。
●最大の特徴は、やはり鉄道
大井町トラックスは、鉄道用地に囲まれた“トレインビューの街”である。北側には車両基地、南側には東急大井町線、東側には京浜東北線が走り、街の至るところで鉄道の存在を感じられる立地だ。
実際、報道公開の場でも、JR東日本は「鉄道が見える」ことを強く打ち出していた。公園スペースからは東急大井町線が見え、高層オフィスフロアからは東京総合車両センターが眼下に広がる。さらに、京浜東北線だけでなく、上野東京ライン、横須賀線、東海道新幹線まで視界に入る。
この施設の大きな魅力は、圧倒的な眺望にある。そして、その景観の主役こそが、鉄道なのである。約1万平方メートルの広大な土地を、「鉄道」というテーマでまとめながら、地域にも開かれた街として再構築した点は興味深い。
今回の大井町トラックスは、JR東日本と品川区が良好なパートナーシップを築き、新しい街を形にした事例でもある。そのため、交通利便性を生かして人を呼び込み、そのにぎわいを地域全体へ広げていくとともに、「防災拠点」にもなっているのが特徴だ。敷地内には約4600平方メートルの広域避難場所となる広場を整備しており、平時には緑豊かな場所として機能しつつ、非常時には避難場所として開放される。
大井町トラックスの誕生によって、大井町は「働きたい街」「通いたい街」「住みたい街」として、さらに存在感を高めていくだろう。“大井”町だけに、鉄道を“大い”に生かしながら、今後大きく発展していくに違いない。
(小林拓矢)
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