写真―[貧困東大生・布施川天馬]―
みなさんは、先日東京大学の文化祭があったことをご存じですか?
東京大学には1年に2回の文化祭があり、先日行われたのは「五月祭」と呼ばれる催し。戦前の園遊会に由来するという非常に由緒正しいお祭りです。
なんとこのお祭りが、脅迫によって中止に追い込まれてしまいました。
五月祭には毎回豪華ゲストが招かれますが、今回は参政党代表の神谷宗幣氏による講演が予定されており、これの主催団体「右合の衆」へ爆破予告が届いたのです。
ネット上では政治的主張を交えつつ様々な憶測が飛び交い、しまいには「自分が爆破予告を送り付けた」と公言する愉快犯までもが出てくる始末。
かつて学生運動が激化した際にすら中止にならなかった五月祭において、今回の「開催後の中止判断」は過去に例がない、まさに前代未聞の大事件だそうです。
どうしてこのような事態になってしまったのか。政治的話題を扱ってはいけないわけではありませんが、同氏の登壇発表は物議をかもしました。
可燃性が高い話題であったのは間違いがなく、運営も警戒すべきことはわかっていたでしょう。
今回は、東大五月祭が中止になった件について、実際に現場に居合わせた東大生にインタビューしつつ、まとめました。
◆金銭被害も甚大
様々な高校について、その歴史や成り立ち、校則や教育方針など多角的に研究するサークル「東京大学高等学校進学教育研究会」の代表である村瀬理紀さん(東京大学3年生)は、やるせない思いを抱えていました。
「当日は、朝からずっと研究内容の展示と、研究をまとめた部誌の販売で忙しくしていました。それが、14時過ぎくらいに運営委員会の方が焦った様子でやってきて、『緊急事態が起きているから、これ以降の入場を制限してほしい』といわれたんです。
五月祭は昼過ぎから閉場までがピーク。これからがかき入れ時だったのに、突然終わってしまいました。
営利目的ではないにせよ、頑張って作ったものですし、部員のカンパで製作したものですから、やっぱり売れてほしかった。本当に残念です」(村瀬さん)
彼はこのサークルの立ち上げ人でもあり、一部では「高校研究家」として名高い評価を得ている人物。
そんな彼の手掛ける高校分析記事や紀行文は非常に人気で、昨年の文化祭出店時には売り切れになるほどでした。準備期間は1年にも及び、創設メンバー3人で夜なべして書き上げた努力と英知の結晶が、爆破予告一つで覆されてしまった。
しかし、そんな彼も、「自分たちはまだマシなほう」と述べます。
「我々の出品物は本ですから、秋の文化祭やオンライン販売で在庫を消化できます。しかし、食べ物を扱った出店については、そうもいかない。学内ではフードロスを心配する声や、赤字が確定して嘆く声でいっぱいでした」
◆委員会側も被害者
確かに、五月祭には数百もの団体が出店します。
仮にそのうち100団体が食品を扱ったとしても、数百キロ単位のフードロスが発生している計算に。しかし、かつて東京大学の文化祭運営委員会に在籍していた東大OBのKさん曰く「補填は難しい」そうです。
「学生側も企画中止で大きなダメージを負ったでしょうが、そこの補填を行うのは、資金的にも難しい。
そもそも、委員会側も異例すぎる事態に相当疲弊させられたはずです。
本来、文化祭実行時には、実行委員会では足りない人手を、各団体からのヘルプで補っています。
しかし、一日目の昼過ぎに委員会以外のすべての人が学内から追い出されてしまった。必然的に、その仕事は爆発物騒ぎでてんてこ舞いの委員会本部に回ってくる。相当無茶をさせられたのではないでしょうか」(Kさん)
過去数十年を見渡しても前例がない「五月祭中止」の英断。同イベントには二日間で十数万人もの人々が訪れるため、万が一爆発物が校内に隠されていた際の人的被害は計り知れません。
委員会の判断には相当なストレスがかかったでしょうが、それでも中止を決定したのは、本当に立派な判断だったと思います。
◆直前の”替え玉”が事の発端か?
政治に関する主張は、時に大騒ぎを引き起こすデリケートな話。過去を見渡しても、政治的主張の行き違いが凄惨な事件を引き起こした例は数多い。
それにも関わらず、どうして運営委員会は催しを許可したのでしょうか。
「運営の代によって、価値判断が異なりますから、今年の代は神谷氏の招聘をOKしたということなのでしょう。仮に私の代ならば、恐らく可燃性の高さを見越して企画中止をお願いしたと思います。
とはいえ、政治家を呼ばないわけではありません。過去には自民党から共産党まで、様々な主張を持つ方をお呼びして講演をお願いしてきました。一概に、この主張は可燃性が高いと判断する指標が存在するわけではないのです。
それに、『本来は別の政治家をゲストとしてお呼びするはずが、なぜか直前になって神谷氏に変更された』とも聞きました。
もしこれが本当なら、運営委員会は神谷氏の招聘を想定して実施許可を出したわけではなさそうです」
◆“子ども”に振り回された東大生たち
一概に運営委員会に責任があるとも言い切れない本事件ですが、それでも今回お話を伺った学生たちはみな憤りを隠せない様子でした。
中でも、サークルの発表のために訪れていた東大4年生のSさんは、「これは確実に東大生の犯行ではない」と断言します。
「今回の騒ぎは、講演を企画した『右合の衆』という団体に爆破予告が届いたことがきっかけでした。確かに、政治思想についてはみな思うところがあるでしょうし、譲れない部分があることもわかります。
とはいえ、爆破予告のような野蛮極まりない形で抗議の意を示すのは、あまりにも幼稚すぎる。明らかに常軌を逸した暴力的手段であると、まともな常識を持っているならばすぐにわかるでしょう。
そもそも、政治議論は、あくまで”議論”であり、言論によって相対すべき。将棋で勝てない相手がいるからって、盤ごとひっくり返して殴り掛かったら、それはダメでしょう。
こんな強硬手段に訴えた事実自体が、犯人には言論技術を磨いて主張を通す実力もなければ、そうなるための向上心もなく、別の文化的態度で抗議の意を示すようなウィットもないと示しているんです。
東大に入るならそれなりのお勉強や自己研鑽も必要ですから、こんなに精神年齢が低くないでしょうし、お勉強ができないわけもない。
まぁ、完全部外者に潰されたわけですから、こっちはいい迷惑ですね」(Sさん)
実害を受けた東大生たちでしたが、野蛮かつ幼稚な講義手段に対して、極めて冷静かつ理知的な態度で対応していました。
確かに金銭的、体力的な損失こそ免れなかったものの、今回の一件で「どちらが本当に大人だったか」については、決着がついたのかもしれません。
<取材・文/布施川天馬>
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
著述家、教育ライター。 一般財団法人「ドラゴン桜財団」評議員。 1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を編み出し、一浪の末東大合格を果たす。著書に最小コストで結果を出すノウハウを体系化した『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』など。株式会社カルペ・ディエムにて、お金と時間をかけない「省エネスタイルの勉強法」などを伝える。MENSA会員。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)