溶接工が「6時間」でアプリを開発 静岡の町工場が「500万円」かけて生成AI教育をした、驚きの効果

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2026年05月29日 07:10  ITmedia ビジネスオンライン

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コプレック代表取締役の小林永典社長。自身でも生成AIを使って、人事情報や財務状況を管理するシステムを開発した(編集部撮影)

 生成AIは、製造業の現場をどう変えるのか。板金加工事業を展開する町工場、コプレック(静岡県掛川市)は3月、社員数約70人のうち13人を対象に、業務に必要なシステムを生成AIで開発するための教育投資に踏み切った。投資額は450万〜500万円に上った。


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 対象となったのは、工場の現場で働く社員たちだ。同社が見据えるのは、単なる業務効率化ではない。現場を主役に据え、社員自らが改善を生み出す新しい製造業の姿だ。


 なぜ、地域の町工場がここまで生成AIに注目するのか。代表取締役の小林永典社長に戦略を聞いた。


●町工場が社員の生成AI教育に投資したワケ


 小林社長は、10年ほど前から機械学習に関心を持ち、社員と共に講習などに参加してきたが、当時は実務への落とし込みには至らなかったという。しかし、生成AIが登場し、さまざまな業務で活用が進むようになった。小林社長自らが試した上で「中小企業でも仕事のやり方が一気に変わる」と判断し、社員への教育に踏み切った。


 小林社長が目指したのは、一部の社員だけが生成AIを使うのではなく「会社全体にインストールする」(文化として定着させる)ことだ。そのために、あえて高額な外部研修を選び、13人の社員を参加させた。


 「YouTubeや安価な教材で学ぶこともできます。しかし、それでは社員間で習熟度にばらつきが出やすい。皆が体系的に学び、同じ知識や課題を共有することで、社内にAIブームを起こすことが大切だと考えました」


●中小企業は「既製品を使う側」のままでいいのか


 小林社長が生成AIを重視する理由の一つが、労働構造の変化だ。現在、ホワイトカラーの仕事はAIによって急速に代替されつつある。ホワイトカラーの仕事が減少する一方で、世界では配管、電気、建設、製造といった「物理的な価値」を提供する技能職が見直される「ブルーカラービリオネア」と呼ばれる現象が生じている。


 ホワイトカラーの仕事がAIに奪われる中で、今後、生成AIやテクノロジーを使いこなしながら“ものづくり”を手掛け、イノベーションを起こすような人々が増えていくと小林社長はみている。同氏はその層を「ハイスペックブルーカラー」と呼ぶ。


 ハイスペックブルーカラーが登場した際、昔からものづくりに取り組んできたブルーカラーは、従来と変わらず「コストダウン重視」「効率重視」だけで勝負できるのか──。「おそらく難しいだろう」と小林社長。だからこそ、ブルーカラーも生成AIやテクノロジーを学び、ハイスペックブルーカラーへと進化する必要があるという。


 また、小林社長は、生成AIの進化には明確な段階があると考えている。Web上の情報を扱う段階から、デスクトップのファイルを操作する段階へ。そして次にやってくるのが、工場の現場で使用しているセンサーやロボットとつながる「物理世界への浸透」だ。


 「ロボットや機械を自律制御するフィジカルAIが一般的になると、私たち中小企業は大企業が作ったシステムを、利用料を払って使うことが想定されます。それでは競争力を持てない。自分たちで作れるようにならなければ、生き残っていけないと判断しました」


 これは、SaaS企業が開発したサービスを利用していた企業が、ローコードツールなどで自社アプリを開発するようになった流れと同様の構造だ。自社で開発することで、より使いやすいシステムになる。既製品に現場を合わせるのではなく、現場にシステムを合わせることで、大手や競合他社との決定的な差別化を生み出す考えだ。


 だからこそ、生成AIの教育プログラムを学んだ受講者の半数以上は工場で働く社員だ。小林氏は「一次情報に触れる人間がテクノロジーを使うことに意味がある」と強調する。


●現場の非IT人材が計6時間でアプリ開発


 教育の成果は、すでに現場で具体的な形となって現れている。


 Claudeの有料版を約30アカウント用意し、現場の社員が自然言語で指示してAIにコードを書かせる「バイブコーディング」によって、短期間で数々のシステムを開発している。


 例えば、同社には敷地内に複数の工場があり「誰が今どこにいるのか」を把握することに苦労していた。そこで各社員の出欠や、どの工場にいるかが一目で分かる「所在確認アプリ」を開発。工場内のタッチパネルモニターにも表示され、チームの連携をスムーズにしている。


 製造現場ならではの課題だった「日報」をデジタル化。油で汚れたり、火花で燃えたりするリスクがある紙の日報を廃止し、iPadで入力できる専用アプリを導入した。業務内容によって入力項目が異なるという複雑さも、部署ごとにカスタマイズすることで解決している。


 また、直近で開発したのが「加工完了通知アプリ」だ。コプレックの工場内でも、一つの製品を作る過程には「前工程」と「後工程」が存在する。前工程で加工されたものを、後工程が引き取り、次の作業へと進める流れだ。後工程の担当者にとって、前の作業がいつ終わるか、進捗状況を把握しておく必要がある。しかし、前工程の担当者が都度、作業の手を止め、電話をかけたりメッセージを送ったりして進捗を伝えることは効率が悪く、負担になっていた。


 そこで、工場内に置かれたタブレットのボタンを押すだけで、自動的に進捗報告のチャットが飛ぶ仕組みを構築。作業の合間に指1本で完了報告ができるようになった。


 開発したのは溶接を担当する鈴木翔也さん。最初の依頼からわずか2週間、実作業時間は現場のフィードバックを受けてからの改修作業を含め、計6時間ほどで完成させたという。コプレックに入社する前は飲食業で働いており、ITスキルを体系的に学んだのは、3月の研修が初めてだった。


 「デジタル関連の知識は個人的に趣味で学ぶ程度でした。工程の完了報告は、以前から課題として挙がっていて、私自身も『このようなアプリがあれば……』というイメージはありました。しかし、業務をしながら開発・運用することは難しい状況にありました」と鈴木さん。


 研修でスキルが身に付き、Claudeも導入されたことで課題の解決につながったという。


●全社員がAIで開発する会社へ


 「これまでの製造業は、コストダウン、マニュアル順守、PDCAを回すことの3つが正義でした。でも、それだけではもう立ち行かない。AIネイティブな会社が、この板金業界にも必ず現れます」(小林社長)


 社長自身「Claude Code」や「Cursor」を駆使し、わずか1カ月足らずで「人事システム」「給与・賞与計算システム」を自作した。毎朝、Claudeと対話をしながら1日のタスクを整理している。いずれは、社員一人一人にClaudeが秘書のように付くことを目指して、社内勉強会も定期的に開催している。


 同社は2026年中に、全社員の50%以上が生成AIを使いこなし、現場の改善に必要なシステムを開発できる体制を作ることを目標としている。AIネイティブな思考を持った職人たちが、ものづくりとデジタルの知能を融合させる――そんな新しい町工場の姿を実現しようとしている。



このニュースに関するつぶやき

  • これはAIを駆使出来る人材以外のIT屋が駆逐されて従来の生活レベルを維持できなくなる時代が来てもおかしくないと思う。危機感を抱く事は大事。
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