キイロスズメバチの巣4月29日、東京都八王子市の住宅街近くにクマが現れ、現地で大騒ぎとなった。昨年も秋〜冬にかけてクマ出没の直接的・間接的な被害が相次ぎ、都市部進出の懸念や駆除を巡る賛否など、クマが全国で大きな問題となっている。しかし、いくら害獣被害が報道されたとて、正常性バイアスが働き、あたかも対岸の火事のように感じてしまってもおかしくはない。
都市部在住で迷惑をこうむる身近な生物としては、やはり「虫」だろう。不快感を覚えるだけならまだ序の口で、時には人間に牙をむく。最悪、死に至るケースもあるわけだから、今そこにある危機と言っても過剰ではない。
当記事ではこうした「身近に存在する怖い虫」の出現場所や対策方法などについて、害虫駆除・公衆衛生の関連事業を展開する株式会社ダイキチの平田克文さんに話をうかがっていく。これからの季節は虫も増加する季節なので、被害に遭わないよう参考にしてほしい。
◆「クマ」より年間死亡者数が多い「スズメバチ」
平田さんは直接被害のある害虫のほか、ゴキブリやハエなど不快害虫・衛生害虫も含めた駆除現場に長年携わるプロフェッショナルだ。まずは「危険な害虫」と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるであろう、スズメバチについて尋ねてみた。
「日本国内の動物災害で死者数が一番多いのって、実はスズメバチなんですよ。年間で20名ほど亡くなられていて、それこそクマの犠牲者数を上回ります」
スズメバチは大型種なら体長5cm以上にもなり、針の毒性とアナフィラキシーショック(二度刺されることによる強いアレルギー反応と、それによる血圧低下や意識障害)で恐れられる、危険害虫の中でも最強の存在だ。大きく丸い巣を作ることでも有名だが、主に警戒すべき出現ポイントはどこか。
「住宅の軒下や生け垣・石垣、街路樹や公園の茂み、遊具や小さい木橋の下などの、人目につきにくい箇所で主に巣を構築します。毎年9〜10月の台風で巣が落ちることも多いですが、その暴風域を耐えた巣はさらに巨大化して危険ですよ」
また、スズメバチの習性は極めて獰猛で、「クマの天敵」とすら称される。激しく動くもの、大きな声や音を出すもの、クマの体毛や日本人の頭髪のような黒いものが近くにいれば、躊躇なくターゲットにして襲いかかるのだ。
「顔の牙を噛みあわせて『バチバチ、ガチガチ』という威嚇音を立て、その直後に刺しにきます。つまり威嚇された時点で手遅れなので、そうなる前に騒がず静かに、姿勢を低くして、ゆっくり立ち去りましょう。彼らの『間合い』には絶対に踏み込まないでください!」
平田さんは実際にあった悲惨なケースとして、とある老人ホームでの死亡事例に言及した。
「車椅子に乗った高齢者と、それを押す介助者がスズメバチの群れに襲われたんです。介助者の方は何とか逃げたんですが、高齢の方が車椅子に取り残され、何度もスズメバチに刺されてお亡くなりに……さぞや無念だったでしょうね」
◆スズメバチに「自分で立ち向かう」のはアウト
スズメバチと遭遇した時は「逃げるが勝ち」と言っても、所詮は小さな虫。叩いて潰せばいいんじゃ? ……と考える人もいるかもしれない。だが、これは率直に言って自殺行為。スズメバチの飛行は人間の攻撃を軽々回避するほど素早いうえに、体構造も頑丈で軽い打撃ならば耐えてしまう。しかも危険はそれだけでないと、平田さんは説明する。
「そもそも、スズメバチが1匹だけでいてくれる保証は全くありません。仕留めそこねたスズメバチがフェロモンなどを使って、周辺の仲間達を大量に『召喚』する可能性は十分あります。老人ホームのような事例に自分自身が陥りたくないなら、無謀はやめましょう」
ゴキブリではないが、1匹見たら30匹いる(と思え)ということだ。人間がスズメバチの大群に飲み込まれたら、とても太刀打ちできない。同様のリスクを避けるため、スズメバチの巣を素人が自前で撤去しようとするのも厳禁。ましてや、動画を撮ってYoutubeやSNSでバズらせようといったノリで「巣を割ってみた」「燃やしてみた」などは、周りの二次被害にも繋がりかねない愚行そのものである。
「対抗手段が唯一あるとしたら、ホームセンターなどで売っている対スズメバチ用の殺虫スプレーですね。射程が10mほどあるので、ハチ単体や小さな巣であればアウトレンジから仕留められます。しかし、スプレーも巣が中程度以上のサイズになると、1本だけでは駆除しきれない場合があり、そうすると生き残ったハチ達に返り討ちにされるのでやはり危険です」
平田さんのようなプロが安全にスズメバチを駆除できるのは、熟練した技術と知識を持ち、毒針を通さない防護服などでフル装備しているからだ。巣を発見したら、ネットや電話で手近な駆除業者に連絡するのが最善である。また、一部の地域自治体がスズメバチ駆除を代行してくれる場合もあるらしいので、役所に問い合わせてもよいだろう。繰り返しになるが、自分で触りに行くのは絶対NGだ。
◆マダニに刺されたら焦りは禁物、すぐに病院へ
※記事公開当初、マダニが媒介する感染症について「重症熱性血小板減少症候群(STFS)」と記載していましたが、正しくは「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」でした。また、治療法および受診の目安に関する記述に不正確な表現があったため、本文を修正いたしました。関係者ならびに読者の皆様に謹んでお詫びいたします。(2026年5月29日19時15分 日刊SPA!編集部)
続けてマダニの話になった。SNSでは時おり、大量のマダニにびっしり寄生された動物のショッキングな画像が出回るが、人間の場合はどのような被害があるのか。マダニは、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)というウイルス性の感染症を媒介することがある。感染すると6日〜2週間程度の潜伏期間を経て、発熱、嘔吐、下痢などの症状が出ることがあり、血小板や白血球の減少も見られる。致命率は約10〜30%程度とされ、重症化すれば命に関わる感染症だ。
マダニの出没ポイントは「緑」である。マダニは野山や草むら、ヤブなどに生息するが、市街地の公園や緑地の草むらでも見つかることがある。健やかで緑あふれる環境は、ペットとの散歩や休日のレクリエーションにうってつけだが、散歩や行楽の最中に人間やペットが被害を受けやすい。
「注意点として、マダニに刺された時は決して自分で取ろうとしないでください! マダニ本体はさほど強い虫ではありませんが、本体を潰しても針部分だけ刺さったまま皮膚内に残され、余計に対処を難しくしてしまう可能性があります。人間でもペットでも、必ず専門知識のある医者や獣医に見てもらい、針部分も含めて摘出してもらうべきです」
ペットを飼っている家庭であれば、忌避効果のある殺虫スプレーを室内や玄関・屋外に撒いておくのも、マダニ予防に効果的だと平田さんは推奨している。種類はペットにも安全な、ゴキブリ用・ハエ用など市販のピレスロイド系で十分。ペットへ定期的に塗る・垂らすタイプの駆除薬も活用すれば、ペットのマダニ被害リスクと、人間への二次被害リスクをかなり軽減できるだろう。
◆セアカゴケグモは「巷で言われるほど危険ではない」が…
人間に危険が及ぶ害虫としては、噛まれると強い発熱や痛みに襲われるセアカゴケグモも有名だ。平田さんいわく、死亡事例はアメリカやオーストラリアで多少あるものの、日本ではまだ起こっていない。
「日本でセアカゴケグモが初確認された時はマスコミで大きく取り上げられましたが、危険性のイメージと実態にかなりズレがあるように思えますね。とはいえ公園や幼稚園の遊具など、幼児や子供の活動範囲に近い場所でよく見かけられる虫なので、油断は禁物です」
上述のスズメバチやマダニが目立たない場所を好むのに対して、セアカゴケグモは日の当たって暖かい場所を好む、例えるなら目立ちたがりの「陽キャ」である。このため公園の遊具の裏側など……つまり、人間の子供が座ったり触ったりする所の近くに現れやすいのだ。また、自転車置き場の屋根などにセアカゴケグモが発生して、それが下へ降りてきて問題になるケースもある。
「保護者の方々は、お子さんを連れて公園へ行く時、特にセアカゴケグモに注意してほしいですね。『セアカ』という名前のとおり『背』中に『赤』い線が入っているので、予備知識があればパッと見て判別できます。見かけたら子供をすぐ遠ざけてください」
また、セアカゴケグモの巣は他のクモと違い、非常に粘着力が強く、指でも切れないほど硬い塊のようになる。この駆除について、まずは巣に殺虫スプレー(市販品で可)を噴霧し、表に這い出たセアカゴケグモを割り箸などで除去したのち、巣も卵も丸ごと取り去って処分する方法を、平田さんは紹介した。素手でクモに触れないよう準備すれば、一般人でも対処しやすい部類ではある。万が一の心配をとるなら、これも駆除業者に依頼した方が無難だ。
「もっと簡単な駆除方法ならば、ガスバーナーで巣ごと一気に燃やす方法もありますよ(笑)。火事の危険があるので一般の方にはおすすめしませんが、周りがコンクリートや鉄骨だけで可燃性のものがなければ有効です。区市町村がセアカゴケグモに対処するときは、バーナー焼却も多いですね」
◆寝床や安宿に生息するトコジラミ
このほか、直接の危険がある害虫として、それなりの知名度を得ているのがトコジラミだ。こちらも名前どおり「床(とこ)」、つまり寝床の布団やマットレスの裏を縄張りにする虫であり、噛まれると強い痒みに苛まれる。一般家庭の寝室だけでなく、繁華街のビジネスホテル・カプセルホテル・ネット喫茶などにも発生するので、旅費節約のため安宿を探す時は衛生面の評価をよく事前確認しておこう。
「旅行や出張で遠方に行った時に、宿泊先でトコジラミがトランクやスーツケースに飛び移って、それを帰宅時に持ち込んでしまう場合もあります。厄介なのは薬剤耐性がついていることで、ピレスロイド系の殺虫スプレーを使っても効かないどころか、逆に増えてしまう場合すらあります。この特性によって、韓国ではトコジラミの大発生が社会問題になりました」
ただし、トコジラミは習性的に湿気を強く嫌う。旅先で荷物をトコジラミにやられたくない場合は、ユニットバス内に荷物を置いておくのも有効だと平田さんは提案した。仕事で東京・名古屋・大阪など大都市圏を頻繁に行き来する人は、小耳に挟んでおいて損はない。
◆ヒアリは今後の温暖化による勢力増が懸念
平田さんによると、ここまで紹介した害虫による症状の度合いは、私達の健康状態やライフスタイルも大きく関わってくるという。スズメバチやマダニなどの被害を受けた時、最も危険に晒されるのは体の衰えた高齢者、反対に体の防御機構が完成していない幼児、そして普段から何らかの持病を抱えている人達だ。周囲の人はよく注意するとともに、自分自身が害虫に襲われても耐えられるよう、普段から健康的な生活を送ることが推奨される。
「それに、害虫リスクには地球温暖化や気候変動、都市部の環境変化も絡んでいます。例えば大都市圏は人口や経済活動が多く、そのぶん多くのゴミも発生し、ゴミを餌にするネズミやカラスにくっつく形で、ダニやトコジラミといった虫が勢力を広げている側面もあるのです」
環境変化の影響を受ける代表例がヒアリだ。この南米産のアリは強い毒性から警戒されており、アメリカでは数人の死亡例も出ているほか、海運コンテナなどに潜伏して日本にも入り込んでいる。現在は港湾部での水際対策が功を奏し、国内での被害例や繁殖は報告されていない。しかし日本の気候が南米のように暑くなってしまうと、ヒアリが現在以上に勢力を増し、繁殖を始めてしまう恐れもある。
「現在は私達のような事業者やPCO協会(日本ペストコントロール協会)が、厚生労働省からの依頼でヒアリ対策をしていますが、温暖化が進むと日本への定着も時間の問題かもしれないですね。ヒートアイランド現象の抑止など、少しでも気温上昇を食い止める取り組みが求められます」
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最後に平田さんは「そもそも害虫被害は、人間側が虫達の生態や生息域を乱した結果。ある程度は『共存』を考える必要もあります」と語った。もちろん、人間に危害を及ぼす個体の駆除や、発生源を減らす活動は続けるべき。しかし、それと並行で害虫の習性をよく知り、そもそも人間と虫とが不用意に近づかない環境づくりも求められる。接触を避ける意識は害虫だけでなく大型の獣……それこそクマを相手にする場合にも通じるだろう。「厄介な隣人」に煩わされず、逆に衝突もせず無難に付き合える方法があるなら、それに越したことはないのだ。
<取材・文/デヤブロウ>
【デヤブロウ】
東京都在住。2024年にフリーランスとして独立し、ライター業およびイラスト業で活動中。ライターとしては「Yahoo!ニュース」「macaroni」「All Aboutニュース」などの媒体で、東京都内の飲食店・美術館・博物館・イベント・ほか見所の紹介記事を執筆。プライベートでも都内歩きが趣味で、とりわけ週2〜3回の銭湯&サウナ通いが心のオアシス。好きなエリアは浅草〜上野近辺、池袋周辺、中野〜高円寺辺りなど。X(旧Twitter):@Dejavu_Raw