写真はイメージです文部科学省の2025年度公表資料によると、私立小学校の学習費総額は年間97万8271円で、公立小学校の20万1821円を大きく上回る。教育費と住宅ローンはどちらも家族のための支出だが、同時に抱えることで家計が急にもろくなることがある。共働き前提の家計に潜む危うさについて、財務コンサルタントの見解もあわせて見ていきたい。
◆順調に見えた家計の危うさ
「順調だと思っていました。少なくとも、お金のことで詰むとは思っていませんでした」
都内で夫と子ども1人の3人暮らしをする坂口優子さん(仮名・33歳)は、そう言って苦笑する。
数年前まで、坂口さん一家は共働きで、世帯年収は約1200万円あった。周囲からも「順調だね」と言われ、自分でも将来への不安はほとんど感じていなかったという。
「夫婦でしっかり働いているし、子どもの教育にもお金をかけられる。住宅も買って、ちゃんと家庭を築いていけると思っていました」
転機は、子どもの進学と住宅購入が重なったタイミングだった。
以前から「せっかくなら英語環境で育てたい」という思いがあり、子どもをインターナショナルスクールに通わせることを決めた。年間の学費は約200万円。それでも当時は、「教育への投資だから問題ない」と考えていた。
同じ頃、都内でマンションも購入した。住宅ローンは月18万円。さらに管理費と修繕積立金を含めると、住宅関連の固定費は月約22万円にのぼった。
当時の家計は、手取りベースで月約75万円。住宅関連22万円、教育費約17万円、生活費20万円、保険や通信費などで約10万円。毎月の収支は一応回っており、貯金に回せていたのは月6万円ほどだった。
だが、坂口さんは振り返って、「あれは“黒字の家計”ではなく、“ぎりぎり崩れていない家計”だった」と話す。
「数字だけ見れば成立していました。でも実際は、どちらかに何かあれば一気に崩れる状態だったんです。余裕があるようで、全然ありませんでした」
◆時短勤務で家計は一気に崩れた
その不安は、ほどなく現実になる。育休から復帰した坂口さんが時短勤務になり、年収が約200万円下がったのだ。手取りベースでは、月10万円ほどの減収だった。
それまで月6万円できていた貯金は、あっという間に消えた。やがて毎月3万〜5万円を取り崩すようになり、ボーナスも「貯めるもの」ではなく、「赤字を埋めるためのもの」に変わっていった。
生活にも、はっきりとしわ寄せが出た。外食はほぼなくなり、旅行も控えるようになった。子どもの習い事も一部見直し、自分自身の美容代や交際費も削った。
「それまで普通にやっていたことを、ひとつずつ諦める感じでした。大きな破綻ではないけれど、生活の自由がじわじわ削られていくのが苦しかったです」
印象に残っているのは、ある晩の夫婦の会話だという。家計簿アプリを見ながら、坂口さんが「今月もまた赤字だね」と言うと、夫は少し間を置いてこう返した。
「でも教育は削れないよね」
坂口さんも、「うん」としか言えなかった。どちらも間違っていない。子どもの教育も、住まいも、家族のために選んだはずのものだ。だが、それを同時に背負ったことで、家計は身動きの取れない状態に追い込まれていた。
結果として、坂口さんは転職やキャリアチェンジを考える余裕も失った。「収入を下げられない」という前提が強くなり、やりたい仕事よりも、今の収入を維持できるかどうかを優先する判断を続けているという。
周囲からは今も「安定している家庭」に見えていると思う。だが実際には、貯金はほとんど増えず、将来への備えも十分とは言えない。
「教育も住まいも、それぞれ単体では間違った選択じゃなかったと思います。でも、うちの場合は、その二つを同時に抱えたことでリスクになってしまいました。もう少し余白が必要だったんだと思います」
◆<解説>共働き前提の家計が抱える危うさ
一見すると、世帯年収1200万円という数字は、十分に余裕のある家計に映る。だが実際には、教育費と住宅ローンという二つの大きな固定費を同時に抱えたことで、家計は思っている以上にもろくなる。財務コンサルタントの桜井潤一氏は、こうしたケースは決して珍しくないと話す。
「家計が崩れる典型パターンは明確です。共働き前提でギリギリのローンを組み、子どもの成長とともに教育費が増え、さらにどちらかの収入が下がる。これが重なると、一気に余裕がなくなります」
坂口さんのケースは、まさにその典型といえる。共働きであることを前提に住宅を購入し、教育にも十分なお金をかける。順調なうちは成立していても、時短勤務などで収入が下振れした瞬間、一気に家計の緊張が表面化するのだ。
桜井氏は、特に危険なサインとして「ボーナス前提の返済」「貯蓄がほとんどないこと」「教育費のピークを把握していないこと」を挙げる。
「順調な時だけ成立する家計は長く持ちません。大事なのは、うまく回っている時の数字ではなく、収入が落ちた時にも耐えられる設計になっているかどうかです」
◆必要なのは“下振れ”への余白
では、こうした事態を避けるには、どんな“余白”が必要なのか。桜井氏は、事前に確保すべきものは大きく3つあると指摘する。
「ひとつは、片働きでも最低限回る設計にしておくこと。もうひとつは、生活費6〜12か月分の貯蓄。そして、教育費のピーク、特に大学時期にどれくらいお金がかかるのかを見える化しておくことです」
さらに住宅購入の段階で、「収入が2割下がっても本当に耐えられるか」を一度シミュレーションしておくべきだという。
「家計は『理想の収入』で組むのではなく、『下振れ前提』で組むことが重要です。何も起きなければそれでいい。でも、何かが起きた時にも崩れない設計こそが、本当の意味で安全な家計です」
教育も住まいも、どちらも家族にとって大切な選択だ。だからこそ、その二つを同時に手に入れようとする時ほど、数字の上の“成立”だけで安心してはいけない。家計に必要なのは、正しさの積み重ねではなく、想定外に耐えられるだけの余白なのだ。
桜井潤一
ユニバーサルバンク代表。財務コンサルタント。早稲田大学卒業後、大手銀行に24年間勤務。2020年株式会社ユニバーサルバンク設立。富裕層の資産運用から、数十億の法人融資まで1,000社以上の審査と支援を経験。「銀行を超えた銀行を創る」という思いから2020年独立、「株式会社ユニバーサルバンク」設立。3,000万円以上の自己投資をして起業初年度から年商1億5,000万円のビジネススクールを経営、提供するセミナーも6,000人以上が受講。「真に豊かな人生を送れる人を増やしたい」という想いから、財務×ビジネス×資産形成を融合したReal Wealth®︎プログラムを開発