写真はイメージです「自分はまだ若いから」と認知症を他人事だと思っていないだろうか。
実は、認知症の9割を占める三大認知症は、脳の血流不足や血管の劣化が引き金となっている。
つまり、日頃の不摂生による「ドロドロ血液」や「ボロボロ血管」といった生活習慣病のサインこそが、将来の認知症リスクに直結しているのだ。
世界初のアルツハイマー病治療薬の開発に成功し、薬のノーベル賞と称される英国ガリアン賞を受賞した杉本八郎氏が、働き盛り世代の男性に向けて、今すぐ始められる「脳の血管を守り、認知症の9割を予防するアプローチ」を解説する。
※本記事は、『82歳の認知症研究の第一人者が毎日していること』(扶桑社刊)より一部抜粋・再構成してお届けしています。
◆原因を取り除けば認知症の9割は予防できる
アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症という三大認知症が全体の9割を占めるという話をしましたが、それはつまり、この3つの認知症になる原因を取り除けば認知症の9割は予防できる、ということでもあります。
そこで予防法を考える前に、これら3つの認知症の原因を簡単におさらいしておきましょう。
◦アルツハイマー型認知症の原因→アミロイドβやリン酸化したタウタンパク質が溜まることで細胞毒性を示すようになり、神経細胞がダメージを受けて活性が落ちたり、数が減ったりすること
◦血管性認知症の原因→脳の血管が詰まったり破れたりする脳梗塞や脳出血、くも膜下出血によってその周辺の脳細胞に酸素が送られなくなって神経細胞が死んでしまうこと
◦レビー小体型認知症の原因→α‐シヌクレインが蓄積して細胞毒性を示す「レビー小体」が形成され、神経細胞が壊されること
◆脳の神経細胞を「健やかに保つ」ために知っておくべきこと
こうやってまとめてみるとよくわかると思いますが、これらの認知症はすべて、何らかの原因で脳の神経細胞の活性が落ちたり、その数が減ってしまい、神経細胞同士の情報伝達がうまくいかなくなることで引き起こされます。
つまり、認知症を予防するためには、「脳の神経細胞を健やかに保つには何をすればいいか」を考えなければなりません。
神経細胞にダメージが及ぶ過程を遡さかのぼっていくと、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症は、特定のタンパク質が溜まることで、細胞に対して毒性を示すようになるのが原因です。
だから、原因物質となるタンパク質の凝集をいかにして抑止するかが、これら2つのタイプの認知症の予防のポイントになります。
一方、血管性認知症の場合は、脳の血管が詰まったり破れたりして十分な酸素が供給されなくなり、それが原因で神経細胞が死んでしまいます。
つまり、脳の血管が詰まったり破れたりしないよう、血管を丈夫に保ち、血流を良くしておくことが、その予防につながるというわけです。
◆認知症予防の鍵は「血管を丈夫に保ち、血流を良くすること」
「認知症の原因物質となるタンパク質を過剰に溜めないこと」と、「血管を丈夫に保ち、血流を良くすること」は一見別の話のように思われるかもしれませんが、実はこの2つは密接につながっています。
脳細胞が十分に元気であれば、アミロイドβやリン酸化タウ、α‐シヌクレインなどは分解されて「老廃物」として排出され、それらの凝集も阻止できます。
そうすれば、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の予防にもつなげられるというわけです。
じゃあ、脳細胞を元気にするのに何が必要なのかと言えば、それは「脳の血流を良くして、十分な栄養と酸素を送り込むこと」、これに尽きます。
重さからすると、全体重の2%程度を占めるにすぎない脳に全血液量の15%が運ばれ、全身の酸素量の約20%がそこで消費されているわけですから、血流が良いかどうかは脳にとって死活問題なのです。
認知症とも関連があるのは当然の話で、アルツハイマー型認知症患者や高齢者は、大脳皮質や記憶にかかわる海馬の脳血流が低下していることもわかっています。
つまり、「血管を丈夫に保ち、血流を良くする」という血管性認知症の予防のポイントは、脳を元気にするという意味でアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の予防のポイントにもなり、認知症の9割を予防する最大の秘訣になると言っても決して過言ではありません。
◆「血管ボロボロ、血液ドロドロ、血流が悪い」=生活習慣病
「血管が丈夫で、血流が良い」状態をどう保つかを考える上では、その逆の状態をイメージすればすぐに答えが見つかります。
「血管が丈夫で、血流が良い」の逆を言葉にすると、「血管がボロボロで、血流が悪い」ということになりますよね。
また、流れの良い血液の状態は「サラサラ」と言われたりしますが、流れが悪い血液は「ドロドロ」という表現が使われます。
「血管がボロボロで、血液がドロドロで、血流が悪い」
この表現、どこかで聞いたことがありませんか?
そう! これは、食習慣や運動習慣などがその発症に関与する「生活習慣病」の病態を端的に表すフレーズと同じです。
「認知症は生活習慣病の一つである」と私が強調する理由はまさにここにあります。
もちろん生活習慣だけが認知症の原因であるとまでは言いませんが、「血管がボロボロで、血液がドロドロで、血流が悪い」のが常態化しないように生活習慣を整えることが、認知症予防の重要な第一歩であるのは間違いないのです。
<文/杉本八郎>
【杉本八郎】
すぎもと・はちろう 1942年、東京都生まれ。薬学者、脳科学者。エーザイ入社後、新薬開発の研究室で高血圧治療薬「デタントール」、そして世界初のアルツハイマー病治療薬「アリセプト」の創薬に成功。アリセプトは97年に米国で、99年に日本で承認・発売。98年、薬のノーベル賞といわれる英国ガリアン賞特別賞を受賞。同年、日本薬学会技術賞と化学・バイオつくば賞、2002年に恩賜発明賞を受賞。京都大学薬学研究科創薬神経科学講座教授、京都大学大学院薬学研究科最先端創薬研究センター教授、同志社大学脳科学研究科教授を経て同大学生命医科学研究科客員教授。日本薬学会理事、有機合成化学協会理事などを歴任。14年、グリーン・テック代表取締役に就任。25年4月、名古屋葵大学学長に就任。趣味は俳句、剣道。主な著書に『世界初・認知症薬開発博士が教える 認知症予防 最高の教科書』(講談社)、『認知症研究の第一人者がおしえる 脳がよろこぶスープ』(アチーブメント出版)