限定公開( 4 )

「セロテープ」やばんそうこうの「ケアリーヴ」で知られるニチバンが、実は野菜を束ねるテープも手掛けていることをご存じだろうか。スーパーの青果売り場で、ネギやほうれん草、カブなどが紫色や緑色のテープで束ねられている。あのテープが、ニチバンの「たばねらテープ」だ。
【画像】テープではなく「仕組み」を売ってシェア7割 ニチバンの「野菜を束ねるテープ」が選ばれ続ける理由
1978年に発売された同商品は、国内の野菜結束テープ市場で約7割のシェアを持つ(ニチバン調べ)。2025年度の販売数量は2023年度と比較して約2割伸長。発売から半世紀近くが経った今も使われ続けているロングセラー商品だ。
なぜ、たばねらテープがこれほど現場に定着したのか。同社の平山繁明氏(事業戦略本部 兼 工業品営業統括部 シニアマネジャー)と、松村翔氏(事業戦略本部)に話を聞いた。
●野菜には付かないが、テープ同士は強く貼り付く
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たばねらテープの主な用途は、ネギやホウレンソウ、カブなどの青果物を束ねることだ。現在、最も使用量が多いのはネギで、果物などにも使われている。
使用現場は農家やJA、出荷場、スーパーのバックヤードなど幅広い。農作業の現場ではブランド名や産地名を印刷したテープで結束して出荷するケースが多く、スーパーなどの小売店ではバラで仕入れた野菜を束にして販売する際に利用されている。
たばねらテープが登場する以前の農作業の現場では、青果物をまとめる際に藁(わら)やポリひも(プラスチックを主原料とした樹脂製のひもやロープの総称)、輪ゴム、針止めなどが使われていた。しかし、一つ一つ手で結ぶため時間がかかるのに加え、冬場には作業者が手荒れに悩むことも多かった。また、針止めの場合は異物混入のリスクもあった。
野菜を傷めないこと、作業効率を上げること、安全性を高めること――こうした現場のニーズをニチバンの営業担当者が拾い上げ、「野菜には付きにくく、テープ同士は強く貼りつく」という独自の特性を持つテープを開発した。
松村氏はこの仕組みについて、「対象物にはなじみにくい粘着剤を選定する一方で、粘着剤同士はしっかりくっつく設計にしています」と説明する。
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さらに、野菜は水分を含むため耐水性も求められる。開発にあたっては実際に農家へ足しげく通い、現場で検証を重ねながら製品化していったという。こうした特性は後発メーカーが簡単にまねできるものではなかった。テープ同士の接着力を高めると野菜にも強く付きすぎてしまう。逆に野菜に付かないようにすると結束力が不足する。現場で求められる性能のバランスを実現することで、同社の商品価値向上につながった。
また、たばねらテープの役割は結束だけではない。同製品には規格品と特注品があり、規格品では紫や緑のテープがよく使われる。中でも、紫色は野菜の緑に対する補色となるため売り場で目立ちやすく、最も売れているカラーだという。
特注品では産地名やブランド名、法人名などを印刷できるほか、近年はセルフレジ対応のためバーコード入りテープの需要も増えている。黒地に金色の文字を入れ、高級感を演出した事例もあるという。結束資材としてだけでなく、産地やブランドを訴求する販促ツールとしての活用も期待できる。
●シェア7割を支えた、機械・テープ・メンテナンスの一体提供
現在ではシェア7割を誇るたばねらテープだが、発売当初から順調だったわけではない。発売後2〜3年は苦戦が続いた。農家を一軒一軒訪問し、市場や産地に足を運び、使い方やメリットを説明して回った。大口の農家やJA、産地をまとめるキーマンに価値を伝え、理解を得ることで、その地域で一気にシェアを広げていった。
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平山氏は普及が進んだ要因について、「新しい市場を早い段階で開拓し、テープだけでなく結束機も含めた仕組みとして提案できたことが大きいです」と分析する。
実際、ニチバンが提供してきたのはテープ単体ではない。大規模農家や出荷場向けには電動タイプの結束機も展開してきた。野菜を機械に通すだけで、テープで巻いて切断するまでの工程が約1秒で完了する。かつて、手作業で藁やひもを巻いていた工程を大幅に効率化した。
スーパーのバックヤードなどでは卓上型の簡易結束機が活躍している。小規模農家向けには、座ったまま作業できるタイプや、「こたつに入ったまま使える」という発想から生まれた機種も展開している。
シーンに合わせた商品展開に加え、機械の耐久性も高い。すでに販売終了した古い機種が、いまも現役で使われていることもあるという。メーカーとしては更新需要が生まれにくい面もあるが、使い手にとっては長く使える設備だ。機械で作業効率を上げ、消耗品であるテープを継続的に使う。このビジネスモデルも、現場への定着を支えてきた。結果、結束機の累計出荷台数は過去10年間で約6万台に上った。
メンテナンス対応も導入を後押しする要因の一つだ。後発メーカーの中にはテープだけを供給する企業もある。しかし、機械とテープのメーカーが別々になると、トラブルが発生した際に窓口が分かれてしまう。
「何か不具合があったときに、ニチバンに相談できる。そうした安心感も選ばれる理由の一つになっているのでは」と平山氏は話す。こうした体制もあり、現場での認知度は高いという。他社製の野菜結束テープも含めて「たばねらテープ」と呼ばれることがあるほど、代表的な存在として定着しているという。
●法改正で100回以上試作 ロングセラーを守る難しさ
現在、ニチバンの営業担当が向き合っているのは、拡販よりも「維持し続けること」に近いという。市場に根付いた商品だからこそ、法律や社会環境が変わっても、安定して供給し続ける責任がある。
大きな転機の一つが、食品衛生法への対応だ。2020年の法改正により、食品に接触するテープも容器として扱われるようになり、同等の基準への対応が求められることになった。5年間の移行期間に、同社は原材料や製造方法を見直した。
それまでの粘着剤は、有機溶剤に原料を溶かして塗工し、溶剤を揮発(常温・常圧の環境下で液体が気体になって空気中に発散する現象)させる方法で作られていた。しかし法改正への対応と環境配慮の観点から、無溶剤製法へかじを切った。使用できる原材料は使用が許可されたものに限られるため、自由度は大きく下がる。試作は100バージョンを超えたという。
「これまで使えていた材料が使えなくなり、狭い選択肢の中で、従来の性能を維持しなければならなくなりました」と松村氏は振り返る。平山氏はこの難しさを料理に例え、「これまで使っていた砂糖が使えなくなり、別の材料で味を再現しようとすると、今度は塩の種類も変えなければならない。そうした作業に近かったですね」と説明する。
コスト上昇に伴う値上げも避けられなかったが、業界にとって必要な資材であることから、ユーザーからの理解は得やすかった。なお、同様の対応が難しく、撤退した競合他社もあったという。
さらに、コロナ禍も影響した。衛生意識の高まりから、野菜を袋包装に切り替える取引先もあったが、袋包装は設備投資がかかり、手作業での袋詰めは負担が大きい。作業性や費用面のメリットから、たばねらテープに戻る動きも見られるという。
●弁当容器の「あのテープ」もニチバン製
ニチバンが展開する食品関連のBtoB向けテープは、たばねらテープだけではない。弁当や惣菜容器のふたを止めるテープも同社製品だ。
2003年に発売したのが「セロテープ イージーオープン」である。それまで弁当容器のふた止めにはラップや輪ゴム、透明テープなどが使われていた。ラップはしっかり固定できるが手間がかかり、輪ゴムは見た目や固定力に課題がある。透明テープは貼ってあることに気づきにくく、お客が気付かずに開けて弁当を落としてしまうこともあったという。
同社が開発したイージーオープンは、両端に粘着剤を付けず、中央部分だけに粘着剤を付けた構造になっている。両端は指ではがしやすく、中央部分は接着剤で容器のふたをしっかり固定できる。一般的なセロテープの幅は1.5センチだが、イージーオープンは1.8センチ幅で展開。両端の非粘着部分を確保しつつ、ふたを固定する粘着面積を確保している。
従来、弁当用テープにはプラスチックフィルムが使われることも多かったが、テープカッターで切りにくいなど作業性に課題があった。ニチバンは、セロテープで培ってきたノウハウを生かし、食品包装向けの商品を展開した。
イージーオープンは機能性が高い一方で、コスト面から導入が広がりにくい面もあった。そこで、2017年に「セロテープ フードパックテープ」を発売。全面粘着の実用的な設計にしながらも、セロハン素材によって手で切ることができるため、作業効率の向上につながった。実用性の高さから採用が進み、2025年度の販売数量は、2018年度と比較して4倍以上に伸長。惣菜向けテープではトップシェアだという(ニチバン調べ)。
たばねらテープも弁当のふたを止めるテープも、一般消費者がメーカー名を意識することは少ないが、青果や惣菜の流通に欠かせない存在になっている。
実際、松村氏は「BtoB製品として業界内での認知に日頃から手応えを感じています」と話す。スーパーや流通の現場では、ニチバンといえばすぐに「あのテープ」と理解されることも多いという。
国内青果物市場で約7割のシェアを持つ商品だからこそ、安定供給への重みも大きい。「時代の変化に適応しながら、現場に届け続ける努力を続けていきます」と平山氏は締めくくった。
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