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「なぜ私だけ、電話番をしなければならないんでしょうか……」
ある職場で、出社している社員がそうつぶやいた。テレワークをしている同僚は、涼しい顔でオンライン会議をこなしている。自分だけが、来客対応や電話応対に追われている。
このような不公平感が積もり積もった結果、
「もう全員、出社にしてくださいよ」
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「私は、こんなに暑いなかでも、毎日出社してるんですよ」
という声が上がるのだ。
実際このロジックで出社回帰を進める企業は少なくない。「公平性を保つため」という理由は、一見すると誰もが納得しやすい大義名分だ。しかし、この判断は本当に公平なのか。
そこで今回は、こうした不公平感を理由に「全員一律出社」へ戻す動きを取り上げ、その判断が本当に正しいのかを考えたい。柔軟な働き方に悩む経営者やマネジャーはもちろん、事情を抱えながら働くビジネスパーソンにも、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
●なぜ「不公平感」が生まれるのか
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テレワークが広がったことで、新しい形の不満が職場に生まれている。出社している社員が、テレワークをしている社員に対して抱く不公平感だ。
電話応対や来客対応、郵便物の受け取りといった業務は、出社しなければ対応できない。テレワークをする人が増えれば増えるほど、出社している人一人当たりの雑務は増えていく。自分の仕事の合間に何度も対応を迫られ、業務に集中できず、結果として残業が増えることもある。
「なぜ自分だけ雑務をしなければならないのか」
「テレワーカーは自分の仕事だけすればいいから、気楽でうらやましい」
こうした不満が、出社組とテレワーク組の間に溝を作っていく。
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さらにテレワークをする人には、通勤の負担がなく、身支度にかかる手間も最小限で済む。就業直前までプライベートの時間を確保できることも、出社組から見れば「ずるい」と映りやすいのだろう。
ある営業アシスタントのAさん(23歳)は、実家がラーメン店を経営している。そのため、テレワークなどとてもできないという。
「家にそんなスペースはないし、店員やお客の声が聞こえてくるんです」
ある総務課のBさん(53歳)は、家に認知症の母親がいる。在宅で仕事をしていると、部屋に入ってきてしまうため、オンライン会議どころではない。
「自分だって、テレワークすればいいんだよ」
と軽々しく言う上司がいるが、家庭にはそれぞれ事情がある。
「出社したくてしてるわけじゃない。家で仕事できないから、出社しているだけなのに」
このような人も、少なくはないのだ。
●「全員一律にすればラク」という発想
こうした不公平感を解消するために、多くの企業が選ぶ手段が「公平性を保つため、全社的に出社体制へ戻す」というものだ。
全体でルールを統一するのは、管理する側にとっては、正直ラクだ。全員一律のルールにしてしまえば、例外を管理する手間がなくなる。しかし、管理される側の社員にとってはそうはいかない。個々の事情は、一律のルールでは決して吸収しきれないからだ。
一律のルールが生まれる背景には、「公平性」という言葉がしばしば使われる。私もいろいろな経営者からこの言葉を聞いてきた。
「工場で働いている人はテレワークできない。なのに本社でデスクワークしている人は、在宅勤務を選べる。これは不公平でしょう」
こういった理屈だ。
しかし、そんなことを言い始めたら「産休」「育休」なんて誰も取得できなくなる。「男性育休」なんて、夢のまた夢だ。
「なぜ子どもを産んだら休めるんだ。不公平だ」
こんなふうに言い始めたら「働き方改革」など、進まなくなってしまうだろう。
不公平感を解消しようとした結果、別の形の不公平を生み出してしまう。これは決して珍しい話ではない。制度というものは、こうした二律背反を抱えているものだ。片方の不満を解消しようとすると、もう一方に新しい不満が生まれてしまう。
●社員教育の世界は、もっと柔軟になっている
面白いことに、社員教育の世界では全く逆の方向へ進んでいる。
かつて社員教育といえば、全てリアルな集合研修が当たり前だった。決まった日時に、決まった場所に集まり、全員が同じ内容を同じペースで学ぶ。それ以外の選択肢は、ほとんどなかった。
しかし今は違う。オンライン研修なら、日本全国はおろか、海外の駐在先にいる社員も同時に参加できる。5分から10分程度の動画とテストで学べる「マイクロラーニング」も広まっている。スキマ時間に、スマートフォンで手軽に学べる形式だ。
さらに、オンラインと対面を組み合わせる「ブレンディッドラーニング」を導入する企業も増えている。基礎知識はオンラインで学び、実践や対話が必要な部分は対面で行う。学ぶテーマによって手法を変え、社員一人一人に合ったやり方を選べる。これが、今の社員教育の姿だ。この方が、それぞれの社員のレベル、仕事のペースに合わせられる。
この発想は、教育の現場ではすでに当たり前になりつつある。当社も、クライアント企業に合わせて、リアルやオンライン、動画や音声教材など、いろいろな媒体を組み合わせて研修プログラムを提供している。なぜなら、その方が圧倒的に効率的であり、効果的だからだ。
そんな時代にもかかわらず、
「社員教育といったら、リアルで集合研修するのが一番効率がいいんだ。それ以外は認めない」
と人事部が言い出したらどうか? 単に管理するのがラクだからそう言いたいだけだろう、と社員は受け止めるだろう。
●一律出社が、誰かの働き方を難しくする
先述したAさんやBさんは、在宅勤務できないから出社する人たちだ。一方、その反対の人もいる。出社すると生活に支障があるから在宅勤務を選ぶ人たちだ。
このような人たちにとって、一律の「出社回帰」はかなり苦しむことになる。その例を紹介していこう。
アパレル業界で働いていたCさん(32歳)には、3歳の娘がいる。
保育園に預けてから出社するタイミングがどうしても合わず、以前の職場では働き続けることができなかった。夫は遠方に転勤してしまい、他に頼る人もいない。
そこでCさんはテレワークができるIT企業に転職。成果を出すためにいくつものKPIを自ら設定して働いていた。「頼りになる」と上司には評価されていたが、いきなり会社が制度を変えた。出社が原則となったのである。Cさんはやむを得ず、また転職することになってしまったのだ。
広告代理店で働くDさんは、50歳を過ぎてからメンタル不調に時おり苦しんでいた。とくに満員電車での通勤が体調に大きな負担をかけており、在宅勤務が認められていた頃は、通院と両立させながら安定して働けていた。
しかし会社が方針を転換した。出社が原則となったことで、通勤による体調悪化が続き、欠勤が増えてしまった。周囲からは「体調管理がなっていない」と誤解され、Dさんは肩身の狭い思いをしている。
●本当の公平とは、同じものを配ることではない
公平と平等は、似ているようで全く違う。平等とは、全員に同じものを配ることだ。公平とは、それぞれに必要なものを届けることだ。
一律出社は、平等の考え方には合っている。しかし、公平の考え方には合っていないと私は思う。事情が異なる人に同じ条件を課すと、結果として別の不公平を生んでしまうことも多いからだ。
もちろん、出社組とテレワーク組の間に生まれる不満を、放っておいていいわけではない。雑務の分担ルールをはっきりさせる、電話応対を輪番制にする、時差出勤を組み合わせる。こうした工夫で、不公平感そのものを和らげるのだ。方法はいくらでもある。
在宅での仕事だと生産性が悪くなる、というのなら、そうならないようにするための管理指標を作ればいい。オフィスに出勤すれば、自然と生産性がアップするという理屈は、あまりにも短絡的だ。
働き方を自由にする分、社員が意識すべき指標が細かくなるのは仕方がないことだ。正しいマネジメントをすれば、もっと柔軟な働き方は実現するはずだ。
以前「出社義務」になって、ほとんどテレワークしかしてこなかった3年目の社員が、こう言っていたことを思い出す。
「オフィスに来てみたらビックリ。たばこを吸いに行って10分も20分も返ってこない先輩たちがいた。それも1日に1回や2回じゃない」
「顔を見ると、すぐ『打ち合わせしたい』と言ってくる上司にも困っています。ほとんど意味のない打合せなんですよ」
本当にオフィスに出勤したら、生産性は上がるのか? それは管理者たちがラクしたいからではないのか? 生産性を管理するための手立てを思いつかないだけだからではないのか? これらの問いについて、ぜひ考えてもらいたい。
本当に取り組むべきは、一律のルールを作ることではなく、それぞれの事情に応じた柔らかい仕組みを用意することだ。多様性の時代には、まさにこの姿勢が求められているのではないだろうか。
著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
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