写真 新卒から18年半、テレビ朝日のアナウンサーとして、報道、スポーツ、バラエティなど多岐にわたる番組を担当してきた大木優紀さん(45歳)。
40歳を超えてから、スタートアップ企業「令和トラベル」に転職。現在は旅行アプリ「NEWT(ニュート)」の広報を担当。さらに2025年10月には、ハワイ子会社「ALOHA7, Inc.」のCEOに就任し、家族とともにハワイへ移住。新たなステージで活躍の場を広げています。
第54回は、若者の旅行離れを調査する中で見えてきた、SNSとの意外な関係について。旅への憧れを生み出すはずのSNSが、なぜ旅から人を遠ざけることもあるのか。その背景を探ります。(以下大木さん寄稿)
◆旅行好きな若者と、旅行に興味がない若者。価値観は真っ二つに
「旅行に行きたい」と考える若者と、「できれば行きたくない」と考える若者。その価値観が、いまくっきりと二極化し始めています。
旅行アプリ「NEWT(ニュート)」が実施した調査でも、旅行に積極的な層と、旅行にあまり興味を示さない層が明確に分かれる結果が見えてきました。
この二極化の構造には、経済的や時間的な要因も考えられますが、興味深かったのは、SNSの利用状況とかなり親和性が高いという部分です。
実際に2025年6月に「NEWT」が全国の18〜29歳の男女を対象に実施したアンケート調査の結果、旅行に「行きたい」と答えた人は、他人のSNS投稿を見て「自分も行ってみたいと感じる」(42.9%)、「なんとなく羨ましい気持ちになる」(51.8%)と答えた人が多く、SNSが旅への憧れを生み出すきっかけになっていることがわかります。
一方で、「行きたくない」と答えた人では、「特に何も感じない・わからない」が45.6%ともっとも多く、「SNSを利用していない」と答えた人も22%に上りました。
旅行好きな人ほどSNSを積極的に利用し、旅行に関心が低い人ほどSNSから距離を置いているのです。
今回の記事では、流行中の韓国発の新しいSNS「setlog(セットログ)」のお話も交えながら、若者の旅とSNS利用の関係性を紐解いていきたいと思います。
◆旅行離れの背景にあった、SNSとの意外な関係
旅行好きな若者ほどSNSを積極的に利用し、旅行にあまり興味がない若者ほどSNSから距離を置いている。この結果だけを見ると、「SNSを見ないから旅行情報が入ってこないのでは」と考えるかもしれません。
しかし、旅行にあまり関心を示さない層へのヒアリングを進めると、見えてきたのはまったく逆の構図でした。
彼らは「SNSを見ない」のではなく、「SNSを見たくない」のです。
若い世代にとってSNSは、行ってみたい場所や新しい価値観と出会える場所である一方、膨大な情報が絶え間なく流れ込んでくる場所でもあります。
朝スマホを開けば、誰かの海外旅行やホテルステイ、おしゃれなカフェ、友人の休日――。見ようと思わなくても、さまざまな情報が次々と目に飛び込んできます。
本来は「行ってみたい」という憧れを生み出すはずの情報も、多すぎれば心を疲れさせてしまう。SNSを見て欲望を刺激されることや、他人の充実した日常と自分を比べてしまうことに、知らず知らずのうちに消耗してしまうのです。
だからこそ、自分を守るために、あえて情報の蛇口を自ら閉めてしまう。必要だと思う情報だけを選び、それ以外はあえて入れない。
それは決して消極的な選択ではなく、情報があふれる時代を生きる彼らなりの合理的な自己防衛なのかもしれません。
その結果、旅先の情報に触れる機会も自然と減り、「旅行に行きたい」という気持ちも生まれにくくなっていく。旅への憧れを育てるはずだったSNSが、皮肉にも、旅との距離を生み出してしまう。そんな新しい構図が浮かび上がってきました。
◆「映えないSNS」が若者の心をつかむ理由
そんな若者たちの間で、いま静かに広がりを見せているSNSがあります。韓国発の「Setlog(セットログ)」というアプリをご存じでしょうか。
私も実際にダウンロードして使ってみたのですが、仕組みはとてもシンプルです。
仲の良い友人同士だけでつながり、1時間ごとに2秒ほどの短い動画を撮影すると、一日の終わりに一本の動画として自動でまとめられます。
Instagramのようにフォロワー数を競ったりすることもなく、多くの人に見てもらうことを目的にしたSNSとは対照的です。
社内のインターン生にも利用者がいて見せてもらったのですが、映っているのは朝起きたばかりの部屋や、電車の窓から見える景色、家でのんびり過ごす時間など、本当に何気ない日常ばかり。加工や編集もできず、「映える」投稿をつくる必要はありません。
あくまで気心の知れた数人だけで、その日あった出来事をゆるやかに共有する。離れていても、同じ一日を一緒に過ごしているような感覚を楽しむための場所なのです。
かつてSNSは、世界中の人とつながり、自分を発信するための外へ向かうためのツールでした。しかし、今の新しい世代はあえてつながりを狭めて、自分の観客は自分で決めてしまう。
自分たちのリアルな心地よさを守る方向にSNSの形も変化してきているのだなということを感じました。
不特定多数に向けて自分を発信することに価値を感じる人がいる一方で、これ以上情報や比較に疲れたくないと考える人は、心を許せる数人だけの「シェルター」のような場所を選ぶ。
SNSの役割そのものが、「自己表現の舞台」から「安心して過ごせるデジタルの居場所」へと移り変わっていることを示しているのかもしれません。
◆SNSも旅も、自分らしく楽しめばいい
旅行会社で働く私としては、もっと外へ、もっと旅へ、海外へ出かけてほしいという思いは変わりません。一方で、若者たちが「外へ広がること」よりも、まずは「安心できる内側」を求める気持ちにも、どこか共感する自分がいます。
たまには「映え」を休んで、気心の知れた人と、何でもない2秒の日常を共有する。そんな時間が心地よいと感じる感覚も、とても理解できます。
SNSはこれまで、自分を表現し、多くの人とつながるためのツールとして発展してきました。しかし今は、その使い方も多様になったのだなと感じています。
そして、それは旅も同じなのかもしれません。誰かに見せるための旅や観光地を巡る旅だけではなく、自分の心を整えたり、大切な人とのかけがえのない思い出を作る旅。旅に求める価値観も、また多様化しています。
もちろん、旅に出ない時間を大切にするという選択も、その人らしい過ごし方の一つ。大切なのは、その時の自分に合った距離感で、旅やSNSと向き合うことなのかもしれません。
SNSも旅も、正解は一つではありません。自分にとって心地よい距離感や、自分らしい楽しみ方を選べることが、これからはますます大切になっていくのかもしれません。
そして、心に少し余裕ができたなら、いつもの自分の殻を少しだけ破って、新しい景色に会いに行く。そんな小さな一歩を踏み出してみると、思いがけない出会いや、新しい自分との出会いにつながるかもしれません。
<文/大木優紀>
【大木優紀】
1980年生まれ。2003年にテレビ朝日に入社し、アナウンサーとして報道情報、スポーツ、バラエティーと幅広く担当。21年末に退社し、令和トラベルに転職。旅行アプリ『NEWT(ニュート)』のPRに奮闘中。2児の母