筆者と息子 37歳で想定外の妊娠をし、2025年8月末に出産した。
妊娠に気づいたのは16週に入ってからだった。長年の生理不順や「妊娠は難しい」と言われていた過去に加え、ADHD(注意欠如・多動性障害)の特性でセルフネグレクト癖があり体調管理がおざなりになること、算数障害(発達障害の一種で数字、計算に困難を抱える学習障害)で生理周期を正しく把握していなかったことなど、いくつもの要因が重なっていたのである。
発達障害を抱えながらも始まった育児であるが、1年間の育休を取得してくれた夫のおかげや積極的な産後ケアの利用により、気持ちに少し余裕を持ちながら育児できていた。
◆義母の精神疾患にお手上げ状態
しかし、息子が10か月を迎えた時、産後初のメンタルクリニックへ行くことになった。というのも、産後6か月の終わりに突然の義母(夫の母親)介護が始まり、育児と介護に追われて幻聴が聴こえてしまったのだ。
腰の圧迫骨折をして動けなくなった、精神疾患(強迫性障害)のある義母を我が家で引き取り介護をしているが、0歳児育児と介護の同時進行は無理があるのだと実感した。
圧迫骨折だけならば、まだなんとか頑張れたのかもしれないが、義母は精神疾患のほうが重症で、怪我を抜きにしても日常生活が困難な状態だ。以下が義母の症状や問題行動だ。
・極度の潔癖症で公共の乗り物に乗れない
・病院の器具(血圧計やレントゲン台)を使えない
・リハビリで使う公共の器具(歩行練習のための手すり)を使えない
・病院などの公共のトイレを使えない
・飲食店の座敷に上がれない
・記憶力が極端に悪い(診察での医師の話を覚えていない、理解していない)
・同じことを誇張でなく1日20回くらい聞く。翌日も同じことを聞く
・経済的な不安からの極度の節約生活により、1日1食・365日サイゼリヤのハンバーグのみの生活を続けていた影響で摂食障害のようになり、食べられるものが限られている
・強迫性障害の確認行動により服薬がうまくできずサポートが必要
・主に時間に関するマイルールから外れるとひどく不貞腐れる(0歳児の寝かしつけなどで食事の時間がずれることがあるので)など
軽く挙げただけでもこれだけあり、お手上げ状態になってしまった。
◆病気? それともワガママ?
また、我が家に来た当初は体重が28kgまで落ちていたため、体力も握力もなく、部屋のカーテンを引くことも窓を開けることもできず、24時間私が召使いのように呼ばれて身の回りのことをすべてやることになった。
私の仕事部屋を義母に貸しているのだが、「エアコンの温度を1度上げてほしい」と呼ばれ、リモコン操作は力を使わないで済むのでできると思ったら「老眼で温度設定が見えない」と言われてしまった。
老眼鏡は持っているはずだと思いたずねるも、度数が合っていないとのこと。ならばメガネ屋に作りに行こうと提案するも「今、週2回通院やリハビリのために出かけていて、これ以上通う場所を増やしたくないからメガネ屋に行きたくない」と言われた。それはただのワガママなのでは……?
ただ、強迫性障害は自分のマイルール通りにいかないとひどく混乱してしまう病気なので、ワガママなのか病気によるものなのかは判断しづらい。
そんなある夜、息子がようやく寝たけれど、まだ夜通し寝ないし次起こされるのは2時かな……と思いながら眠りについた。
「桂ちゃん、桂ちゃん」
義母の声がしてはっと起きた。召使いの姫野、今度は何に呼ばれたのかと思ったが、そばに義母はいない。寝ぼけていたのかなと思い再度眠りについた。
しかしまた、「桂ちゃん、桂ちゃん」と義母に呼ばれる声で目が覚めた。やはり、義母はいない。
ということはこれが幻聴!? 一晩で2回も幻聴!?
幻聴が聴こえたことがあるのは今から8年ほど前、恋愛と仕事、両方でかなりのストレスを感じていた時以来、人生で二度目だ。24時間、0歳児と義母のお世話をしていると精神もおかしくなるのだろう。正直、ネットやSNSですぐに情報を得られる0歳児育児よりも、義母のお世話のほうが正解がわからなくて参ってしまう。
このままでは産後うつ、いや介護うつになってしまいそうだと思い、産前まで通っていたメンタルクリニックに予約を入れて受診した。
◆ものすごいスピードの行政介入とヒートアップする義母
メンタルクリニックの受診の2週間ほど前、義母の通院中の整形外科の先生が私たち家族のことを見かねて地域包括支援センターに繋いでくれた。午前中に診察だったのだが、午後には地域包括支援センターのスタッフが訪問してきてそのスピード感に驚いた。
そこから何度かスタッフの訪問があり、使える介護サービスの紹介や介護認定を急いでくれること、介護認定よりも先にトイレに手すりを付けてくれることになった。手すりは翌週には付いたので、これもすごいスピードだ。
肝心の義母の精神科受診だが、義母を引き取ってすぐかかった精神科があまり合わなかったこと、車椅子での通院が大変なことを地域包括支援センターのスタッフに相談すると、訪問診療の医師を紹介してくれた。少し先の予約しか取れなかったので、受診はこれからだ。
地域包括支援センターのスタッフには義母ができないことや困っていることをすべて話す必要があった。しかし、プライドの高い義母はとても嫌がり「桂ちゃんが行政の人に私の悪口を言っている」とまで言われてしまい、私のストレスはマックスになった。
しかも、義母のワガママや失言がどんどんひどくなり、頼まれた衣類などを買ってきても「色が気に入らない」と不貞腐れたり、私が作った食事を「まずい」と言ったり(夫はおいしく食べていたので義母にとって口に合わないだけ)と、もう義母と1秒でも長く離れたい、息子を連れて実家に帰りたいと思うようになるまで追い詰められていった。
◆義母の足をつかんだ0歳の息子に「わずらわしい」と……
毎日義母と言い合いをしているので息子にとっても良くない環境だ。また、義母のお世話中に息子が泣き出し、義母の世話が終わっていないので待たせてしまうこともあり、息子に罪悪感を抱いてしまう。ごめんね、ごめんね、一番弱いのは赤ちゃんであるあなたなのに優先してあげられなくてごめんね、と泣きながら謝ったこともあった。
ちなみに、夫が「一番弱くて何もできない赤ちゃんを優先してほしい」と言っても義母は「私のことを考えて!」と譲らなかったし、つかまり立ちで義母の足につかまる息子に向かって「わずらわしい」と言い放ったときは鬼畜だと思ってしまった。
そんなさなか、『発達障害・グレーゾーンの人のためのお金の困った!を解決する本』(ディスカヴァー21)を文筆家の雁屋優さんと共著で出したので、2人で打ち上げをした。雁屋さんに義母の愚痴を吐き出したところ、医療に詳しい雁屋さんに「姫野さんの義母さんは入院レベルなのではないか」と言われた。
いろんな人に介護の相談をしたが、みんな「介護というものはどんなケースも大変だ」と言っていたのでこんなものかと思っていたが、私の感覚がバグっていた。これは、積極的に行政に頼るべき問題だったのだ。
◆助産師→保健師→精神科医へ次々と連携
地域包括支援センターのスタッフの訪問と同じ頃、産後ケア(※)のアウトリーチ支援(支援する側から家庭に働きかけ、必要なサポートにつなげる取り組み)として、助産師さんの訪問があった。7か月を過ぎるとデイケアやショートステイは使えないが、訪問型で離乳食の指導を受けられる。
デイケアのときから私の担当をしてくれた助産師さんが来てくれたのだが、事前に介護中の義母が滞在していることを伝えたのと、離乳食指導の様子を義母も見たいとのことで、食卓に義母も座り、助産師さんが息子に離乳食を食べさせるのを見ていた。
息子は順調な発達で、そのとき9か月後半だったが、食べる力や体は11か月レベルなのでお粥ではなく軟飯にレベルアップしてもいいと言われ、離乳食はかなり普通の食事に近づいた。最初は10倍粥大さじ1から始まったのに、もう軟飯や粒の大きいものを食べられるなんて本当に子どもの成長は早い。
助産師さんは我が家の様子を把握し、保健師さんに繋いでくれると言う。その後、助産師さんから「姫野さんが苦しくならないよう、応援していけたらと思います。私がやれることを探していきます」と、あたたかいLINEが来て胸がいっぱいになった。
その翌週には保健師さんと介護サービススタッフの方が訪問し、主に私に対する支援ができないかの話があった。そのなかで、産後ケア事業の家事サービスもあるが、私が精神の障害者手帳2級を持っているので、障害福祉サービスを利用する手もあると言われた。
障害福祉サービスを利用するためには医師の意見書が必要だ。ちょうど翌日、メンタルクリニックの予約の日だったので、障害福祉サービスの意見書に関しても主治医に相談することにした。
こうやって、義母は地域包括支援センターへつながり、私は助産師さん、保健師さん、精神科の主治医が連携し、支えてもらえることになった。妊娠中も、発達障害のある自分はうまく妊娠・出産・育児できないのではないかと不安だったため、保健師さんと産婦人科医、精神科医が連携をとってくれた。けれど産後も、出産や育児とは直接関係のないことで、再び行政や専門家の連携に支えられることになるとは思っていなかった。
◆義母の問題さえどうにかなれば、やっていける
産前と違うのは精神科で薬を処方されなかったことだ。久しぶりに会った主治医の女医はいつものように明るく、でも真剣に義母の愚痴を30分聞いてくれた。
今、安定剤などを処方されると眠気により息子のお世話ができない。今できることは主治医が保健師さんと連携を取ってサポートをすることだと言われた。義母の問題さえどうにかなれば私はやっていける。
実は妊娠中、主治医に「女性は妊娠により精神疾患が良くなる人とそうでない人がいて、姫野さんは良くなるタイプだと思う」と言われており、主治医の予想は的中した。産前よりも心身ともに健康になり、育児ができている。
毎日連絡をくれる両親、特に電話で義母の話し相手になってくれている母、夫、愚痴を聞いてくれる友達、保健師さん、助産師さん、精神科主治医。私をサポートしてくれる人はたくさんいる。それに、介護認定調査の結果が出れば本格的に介護サービスを受けられるようになる。
息子と2人で家出をしたくなる日もあるが、自分は一人ではないと言い聞かせ、息子を守っていきたい。
※産後ケア…出産後、疲労回復や育児アドバイスなどの心身サポートを行ってくれる事業で2021年から市町村の努力義務となっている
<文/姫野桂>
【姫野桂】
フリーライター。1987年生まれ。著書に『発達障害グレーゾーン』、『私たちは生きづらさを抱えている』、『「生きづらさ」解消ライフハック』がある。Twitter:@himeno_kei