
JR東海は8月8日、東京駅を夜に出発し、日付をまたいで翌朝に新大阪に到着する東海道新幹線「東海道ルミエールエクスプレス」を運行した。同社が東海道新幹線で“夜を越える”営業列車を運行するのは初めてとなる。
通常、東京〜新大阪駅間の下り最終列車は、東京を午後9時24分に出発し、新大阪に午後11時45分に到着する「のぞみ293号」。一方、始発は博多行きの「のぞみ1号」で、東京を午前6時に出発し、新大阪には午前8時22分に到着する。
今回のルミエールエクスプレスは、その“空白の時間”を埋めるような列車だ。東京駅を午後10時に出発し、翌朝午前6時59分に新大阪に到着。通常の最終列車よりも遅く東京を出発し、始発列車よりも早く新大阪に着くダイヤが組まれている。深夜から早朝にかけては岐阜羽島駅に約6時間30分停車。到着後と出発前の2回、それぞれ約30分ドアが開き、駅の自動販売機や喫煙所を利用できる。
東海道新幹線では、線路や設備の保守作業、沿線への騒音対策などから、午前0時から午前6時まで営業列車を走らせることができない。そこでルミエールエクスプレスは、深夜は途中駅に停まって「走らない」という逆転の発想で、夜発・朝着のダイヤを実現した。
列車名の「ルミエール」はフランス語で「光」の意味。朝から目的地で時間を有効に使える特徴を、「朝の光」と「新しい一日の始まり」のイメージに重ねたという。
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座席はすべてJR東海ツアーズの旅行商品として発売し、旅行代金は東京・品川発、新大阪着は普通車が15,000円。窓側席(A・E席)のみの販売で、B・C・D席は販売しないため、隣に他の乗客が座ることがない。グリーン車は20,000円で、同じく窓側席(A・D席)のみの設定。16両編成のうち、普通車の12〜16号車と、グリーン車の10号車の計6両は女性専用車両として販売した。
運転日の8月8日は最繁忙期にあたり、東京〜新大阪駅間を通常の新幹線で移動した場合の乗車券・料金は15,120円。ルミエールエクスプレスはそれを下回る価格設定で、さらに前泊せず翌朝から大阪で動けるのが大きなメリットだ。夜行バスとは価格帯や設備が異なるものの、「夜に移動して朝から動く」という需要に対する新たな選択肢といえそうだ。
設定された502席(うちグリーン席100席)は、7月3日午後2時の発売開始から2日間で完売したという。
所要8時間59分、異例の東海道新幹線に乗車8月8日午後9時54分頃、東京駅19番線に入ってきたのはN700AのG48編成。ホームには鉄道ファンらしき人から親子連れ、ライブやイベント帰りと思しき女性客まで、さまざまな乗客が集まっていた。
午後10時、列車は定刻に東京を出発。品川、新横浜でも乗客を乗せ、一路新大阪へ向かう。
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新横浜を発車すると、車内にはこの列車ならではの放送が流れた。
「本日は特別列車『ルミエールエクスプレス』をご利用いただきましてありがとうございます。次の停車駅、岐阜羽島には午後11時43分、京都には明日の午前6時44分、終点新大阪には午前6時59分の到着です」
通常はすべての列車が停車する名古屋も、ルミエールエクスプレスは通過扱いの運転停車。「名古屋ではドアは開きません。1分少々停車いたします」と案内が入り、普段の東海道新幹線とは少し違う旅を実感させる。
午後11時43分、岐阜羽島に到着。ここから翌朝まで列車は動かない。到着後は約30分間ドアが開き、乗客たちは深夜のホームへ。自動販売機へ飲み物を買いに行く人や、駅名標と一緒に記念写真を撮る人の姿が見られた。
やがてドアが閉まると、車内は一気に静かになった。聞こえるのは空調のブロワー音くらいで、駅の外もひっそりとしている。
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隣にほかの乗客が座らないため、体勢を変えたり荷物を置いたりしやすく、一晩を過ごすうえでは想像以上にありがたい。乗務員や警備員も定期的に車内を巡回しており、深夜帯でも一定の安心感がある。
[caption id="attachment_378569" align="alignnone" width="900"] ▲しっかり睡眠をとるならアイマスクは必須[/caption]
一方、室内灯は減光せず常時点灯しているが、普段の「のぞみ」なら高速で駆け抜ける岐阜羽島で夜を明かすというのはなんとも不思議な感覚だ。報道関係者用車両では、翌日に備えて体を休めている人がいたり、ひっそりと仕事をしている人がいたり、夜食のおやつや軽食を分け合っている人がいたりと、夜行バスにはない、往年の夜行列車にも似た趣が感じられた。
[caption id="attachment_378571" align="alignnone" width="900"] ▲午前4時すぎ、夜間の保守作業終了を確認する軌道確認車が通過。車窓の向こうでは、新幹線の安全を支える作業がいつも通り行われている[/caption]
午前5時25分になると、再びドアが開いた。眠そうな表情でホームに出てくる人、朝の空気を吸いながら体を伸ばす人、飲み物を買いに向かう人。空が白み始めたホームには、深夜とはまた違う空気が流れている。
午前6時16分、約6時間30分ぶりに列車が動き出した。岐阜羽島を出ると京都に停車し、午前6時59分、終点の新大阪駅に到着。東京を出てから約9時間、新幹線で一夜を越す旅が終わった。
「第2弾も前向きに検討」JR東海によると、企画の背景にあるのは、首都圏や関西圏での宿泊費高騰と、夜間移動ニーズの高まりだ。構想がスタートしたのは約2年前。利用ニーズの分析や運行に向けた準備を重ね、夏の旅行・レジャーシーズンに合わせて実現した。
同社新幹線鉄道事業本部 運輸営業部の小川陽久担当部長は、「首都圏を午後10時台に出発し、翌朝は始発列車よりも早く関西圏に到着できる。お客様にとっては旅行先での滞在時間が伸びるというメリットがあり、新しい移動手段を提案できる」と狙いを説明する。発売から2日で完売した反響は想定以上だったといい、「第2弾を含め、今後の実施も前向きに考えていきたい」と話した。
