左が大石浩二氏、右がつの丸氏現在「マンガSPA!」で保護犬との暮らしを描いた『The Dogfather ドッグファーザー』を連載中のつの丸氏と、昭和のおもちゃが現代のおじさんを救うギャグ漫画『令和のおもちゃ ウーピン』を連載する大石浩二氏。8月4日には、上記の2作品が同時発売された。
つの丸氏は『マキバオー』シリーズや『モンモンモン』、大石浩二氏は『いぬまるだしっ』『トマトイプーのリコピン』など、『週刊少年ジャンプ』で長年ギャグ漫画を描き続けてきた両氏に、SNS時代における作品作りの難しさを聞いた。
◆忘れないうちに愛犬たちの漫画を描きたかった
──8月4日に発売されたばかりの新作の話を伺わせてください。つの丸先生の『ドッグファーザー』は、ご自身と保護犬たちとの日々を描いたコミックエッセイです。本作を描くきっかけは?
つの丸:俺は基本、描きたいものが現れるまで描きたくないタイプなんですよ。でも、最近記憶が曖昧だから、忘れないうちに愛犬たちの話を描きたいと思ったんです。
大石:漫画家目線でちょっと上から言っちゃいますが、エッセイ漫画って基本ノンフィクションだからエンタメ的な面白さは出しづらいのに、この作品は丁寧なギャグのフリとか、隠しきれないエンタメ要素があるのがすごいんです。
あと、犬をあらゆる角度から描いてるのに、全部パースが合ってるのもすごい!
つの丸:技術的なことはどうでもいいんだよ(笑)。
大石:エンタメのベテランだから、自然とテクニックがにじみ出ちゃうんでしょうね。
つの丸:でも、泣かせにはいきたくないし、かわいいだけの話にもしたくなくて。
保護犬をテーマにすると、ペット業界の暗部ばかり目について憎悪が生まれるし、かわいいだけだと安易に飼おうとする人が出てしまうから。だから「犬を飼うのは大変だけど、その暮らしは尊くて楽しいぞ」という部分を攻めたいんだよ。
大石:普通はそのどちらかに寄せちゃいますからね。
つの丸:犬との日々を淡々と描いた、何も起こらない漫画。そこにしみじみと流れる何かを感じ取ってもらいたい。
◆今までの漫画で一番描くのがきつい
──大石先生の『令和のおもちゃ ウーピン』は、昔のおもちゃなどノスタルジーある題材を入り口に、生きづらさを抱える中年会社員たちの悲喜こもごもを描いた作品です。
つの丸:最初読んだとき、俺は「大石がこういうリアルなの描くんだ」って驚いたよ。
大石:正直、今までの漫画で一番描くのがきついです! 最初に編集部から「40代以上の中年男性たちを元気にする漫画を」って言われて、かなり迷いました。僕は会社員経験が一度もないから、自分がまったく知らないことを描かなきゃいけないので。
つの丸:だよな。だから、いろいろリサーチしながら描いているんだろうなって思ってた。たまに男女の恋愛の機微とかも描いてて、「なんで大石にこんなにいい話をされて、納得しなきゃいけないんだよ!」って(笑)。
大石:あはは(笑)。僕のなかの「疲れたおじさん」の人格を憑依させて描いていますから。
──SNSの反響は見ますか。
大石:僕はかなり見ますね。
『ジャンプ』のアンケートシステムをSNSに当てはめる感じで。「告知用にはこういうページは引きがありそうだな」「この題材は反応ないな」と試しながら描いています。
つの丸:俺は完全に見てない。反応で作品の流れに影響を受けるのが嫌だから。
◆近い将来ギャグ漫画はなくなるかもしれない
──正反対な作品作りをされているお二人ですが、コンテンツが多い時代に、ギャグ漫画を描き続ける意義とは。
大石:ギャグ漫画自体、もうなくなる気がします。現に、純粋なギャグ漫画を描いている人は、増田こうすけ先生やうすた京介先生など、極端に少なくなっていると思います。
つの丸:『でんぢゃらすじーさん』の曽山一寿さんとかね。
大石:SNSや動画サイトに面白い投稿はいっぱいあるから、読者もあえて漫画を選ぶ必要がないんですよ。
ネット上には何億人もいて、それぞれが1個でも人生の一番面白いギャグを披露すれば、数億個になりますよね。僕は安定して70点を何回でも出せる自信がありますが、何億人もの100点という数の暴力に対して一人で勝てるのかというと、かなり難しい。
つの丸:そもそも今は能動的に漫画を読む人より、偶然ネットで目に入ったものを読む人のほうが多いしね。
復讐やエロなど引きが強いコンテンツをチラ見せして、読者が続きを読まざるを得ないように誘導する。ほぼすべてのエンタメがそうなってるけど、そこに作り手の純粋な面白みはない。だから、今の時代に生まれていたら、ギャグ漫画家にはならなかったかもしれない。
◆面白いものを作れればそれでいい。最後まで必ずこだわりたい
大石:選ばないですよね。というか漫画家という職業自体を選ばないかも。そもそも僕はお笑い芸人になりたかったけど、表に出るのは向いてないから漫画家になったので。
つの丸:俺も最初は映画監督になりたかったから。今はYouTuberや放送作家とか、いろいろあるもんな。
大石:漫画家にも、漫画家になりたいタイプと、面白いものが作りたいタイプの2種類がいて、僕らは後者じゃないですか。だから、漫画じゃなくても何かで表現できればいいのかもしれないです。
つの丸:そう。面白いものを作れればそれでいい。だから、作る以上は、最後まで必ずこだわりたいんだよ。
大石:わかります。漫画を描いてるときも、「もっと面白い一言があるんじゃないか」とギリギリまで粘りますよね。
つの丸:「このセリフ違うな」と思ったら、納得いくまで考える。締め切り後に「先週のあそこ、こうすればよかった!」って思うことも多いよ。
大石:そう! だから、締め切りがつらいんです。「もっと面白くできるんじゃないか」と思いつつ、原稿を出すから。
つの丸:締め切り前に原稿出すとか意味わかんない。「まだ面白くできるだろう」って。
大石:でも、締切を守った方が編集部から好かれて売れるので、見習いたくもあります(笑)。
つの丸:まぁ、それはそうだ。
<取材・文/藤村はるな 撮影/荒熊流星>
【つの丸】
1970年生まれ。千葉県出身。『週刊少年ジャンプ』で『モンモンモン』『みどりのマキバオー』などを連載。『ドッグファーザー 1』が8月4日発売
【大石浩二】
1982年生まれ。熊本県出身。『週刊少年ジャンプ』で『いぬまるだしっ』『トマトイプーのリコピン』などを連載。『令和のおもちゃ ウーピン 1』が8月4日発売