※この画像は生成AIによるイメージですセルフレジで会計を済ませ、タッチパネルで注文し、配膳ロボットが運んできた料理を受け取る。数年前には珍しかった光景が、いつのまにか日常になりました。
SBペイメントサービスが2025年1月から2月に実施した調査では、店舗のセルフレジ導入率は55.5%。業態別に見るとコンビニとスーパーは90%を超え、消費者側の利用経験は94.1%に達している。30代以下は有人レジと並んでいても「セルフレジを優先して使う」人が多数派。慣れてしまえば、もう戻る理由はないのかもしれません。
便利になるのは、たしかにうれしい。ただ、そのレジの向こう側には、これまでそこに立っていた人がいます。
今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソードのなかから、デジタル化によって仕事を失い、転職を余儀なくされた2人の話。
記事の後半では、「便利になること」と「仕事がなくなること」のあいだにあるものについて、少しだけ考えてみました。
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日常生活において、“デジタル化”が進んでいる状況を目にする機会が多くなった。身近なものでいえば、コンビニなどでのセルフレジや、飲食店での配膳ロボットなどだ。
便利になるのはうれしいことではある。その一方で、急速に進むデジタル化により「自分の仕事が奪われてしまうかも」と危機感を抱く人も……。今回は、デジタル化で転職を余儀なくされた2人のエピソードを紹介する。
◆パチンコ店に20年間勤務、デジタル化で楽になったはずが……
就職氷河期真っ只中に高校を卒業した泉信也さん(仮名・40代)は、約20年間パチンコ店に勤めていた。
「給与は手取りで22万円程でしたが、寮のワンルームに住み、水道光熱費は無料。1日2食の食事付きだったんです」
食事は、寮母さん手作りの家庭料理を食べられたそうで、泉さんはその待遇に満足していた。
「仕事内容は、客が大当たりした後にドル箱を交換したり、山積みになった出玉のドル箱をジェットカウンターに流したりするのがメインです。客が“連チャン”するたびに、箱を手渡して、“万発オーバー”と書かれた札を刺すなど、仕事は多岐にわたっていました」
忙しくて腰が痛くなることもあったと泉さんは振り返る。ところが、徐々に営業形態が変化し、最終的には出玉をドル箱に積むシステムが廃止された。出玉はパチンコ台のチャッカーに流し、出玉数はICカードで管理されるようになったのだ。
「これまでの業務が減り、“仕事が非常に楽になった”と喜んでいたのですが……」
デジタル化により店員の数も調整され、アルバイトの削減から始まり、泉さん自身の勤務シフトも激減した。挙句の果てには、雇用形態が正社員から非正規に降格となってしまったという。当然、待遇も悪化した。
◆給料が半分以下まで落ち込んだ
「無料だった寮も寮費が発生し、光熱費は1万円の負担、食事も食費として給料から天引きされるようになりました」と嘆く泉さん。
気がつけば、給料は手取り10万8000円にまで落ち込んだ。そして、ついにリストラの対象となってしまう。
「体力には自信があったので、昔の営業形態なら、リストラ対象にはならなかったはずです。デジタル化で世の中は便利になりましたが、それにより仕事を失うことになるとは思ってもみませんでした」
その後、パチンコ店を辞め、デジタル化の影響が少ない介護・看護職に転職を決意。そして現在、猛勉強の末に合格し、新たな道を歩いている。
◆コンビニのセルフレジ導入で勤務環境が急転
結婚と出産を経験し、家庭を優先したいと考えていた佐々木六華さん(仮名・20代)は、週に2〜3日の時短勤務ができる小売店で、レジ打ちと品出しのパートをしていた。
「固定勤務ではなく、半月ごとにシフトを提出できたので、予定の融通もきくし、何より頭を使わずに仕事に打ち込めるのが気に入っていました」
つい数年前まで、レジ作業はすべて人間によって行われていた。しかし、コロナ禍の“非接触”を目的にした急速なデジタル化によって、店舗にはセルフレジが導入され、事態が急転する。
「最初は試験的にセルフレジ1台だけが導入されたのですが、1年も経たないうちにレジスペースの半分を占め、有人レジは数台だけになりました」
最初は客もセルフレジに不慣れのため、あまり使われていなかったというが、有人レジが減ったことをきっかけに、利用者が増えていったのだとか。
「周囲のスーパーマーケットやコンビニエンスストア、全国展開のある飲食店チェーンでもセルフレジの導入が進んだことで、利用者が次第に慣れていったのだと思います」と佐々木さんは分析する。
◆シフトを減らされ収入が大幅ダウン
セルフレジが増えると、当然、レジ作業を担う人員が削減される。最初は働くメンバーの1回の勤務時間が少しずつ減らされていったという。すると、もともと週2〜3日の時短勤務だった佐々木さんは、ほとんど勤務できなくなり、収入が激減。
「出勤の準備や通勤時間のことを考えるとバカらしく思えてきて、思い切って仕事を変えることにしました」
そんな佐々木さんだが、転職活動においても以前との違いに戸惑うことがあったと話す。
「レジ対応や事務の求人が少なくなっていることに気づきました。仕事内容よりも時短勤務を優先していたので、アパレル倉庫でのチェック作業を行う業務に転職したんです」
佐々木さんは、「今の職場でもAIに仕事を奪われる可能性があるので、ひやひやしながら働いています」と不安を吐露した。
<取材・文/chimi86>
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◆■便利さのツケは、誰が払うのか
2人の話を読んで印象に残るのは、どちらも「デジタル化に反対している」わけではないことです。泉さんはドル箱を運ぶ作業が消えたとき「仕事が非常に楽になった」と喜んでいます。佐々木さんもセルフレジそのものを悪く言ってはいません。楽になったはずの変化が、いつのまにか自分の居場所を削っていた、という順番だったのかもしれません。
総務省の令和8年版情報通信白書(2026年7月公表)によると、生成AIを使ったことがある人は58.8%。前年度の26.7%から、1年で倍以上になったそうです。企業側で何らかの業務に生成AIを使っていると答えた割合は86.4%。こちらも前年度は55.2%でした。
同じ調査で「自分の仕事がAIに代替され、職を失う」と思うかを聞いたところ、「そう思う」は12.1%。前年度の8.6%から増えています。「どちらかといえばそう思う」を合わせると4割です。正社員から非正規に降格された泉さん、週2〜3日の時短パートだった佐々木さん。そのツケが誰のところに回りやすいのかを考えると、2人の話は決して例外的なものではないのかもしれません。
佐々木さんは今の職場でも「AIに仕事を奪われる可能性がある」とひやひやしながら働いているといいます。誰もが同じ不安を抱えながらセルフレジに並んでいる、というのが、たぶん今のところの正直な風景なのでしょうね。
<再構成/日刊SPA!編集部>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。