
ヤクルトファーム 灼熱の戸田物語(後編)
前編:19歳の新人左腕ふたりが見つめたプロ25年目の背中はこちら>>
ヤクルト二軍の戸田球場には、それぞれの「もう一度」がある。一軍で数々の栄光をつかんできたベテランも、初めてその壁にぶつかった若手も、まだ一軍で一本のヒットも打っていない期待の大砲も、目指す場所は同じだ。
プロ16年目の山田哲人は「悔しい気持ちもあるし、苦しい気持ち、申し訳ない気持ち、情けない気持ちもあるし、もどかしさもある」と今の自分と必死に向き合い、高卒2年目野手のモイセエフ・ニキータと田中陽翔は、もう一度、神宮球場の舞台に立つためにバットを振り続けている。
【2年目に生まれた心の余裕】
8月9日、ニキータはチームの遠征から離れ、戸田球場での残留練習でフリー打撃やロングティーなどに取り組み、バットを振り込んだ。
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「自分の持ち味は引っ張った時の強い打球なのですが、逆方向への打球は強さがまだまだなので、そこを課題に取り組んでいます。去年、ムネさん(村上宗隆/ホワイトソックス)を見た時はすごいなと思いましたね。逆方向に強い打球をカチーンって。そこを目指しているのですが、なかなか難しいですね」
今年のニキータを見ていて印象に残るのは、落ち着いて黙々と練習に取り組む姿だ。
「去年は文句ばかり言ってました(笑)。もうちょっと打てるイメージだったのですが、あまりにも思うようにいかなくて、『これでやっていけるのか』という焦りがありました。今年はちょっと結果が出るようになって、心の余裕じゃないですけど、それがあって落ち着いていられています」
昨年は二軍で56試合に出場し、打率.136。175打席で54三振を喫し、期待された本塁打も4本にとどまった。一軍出場はなかった。今年はここまで(8月25日現在、以下同)二軍で60試合に出場し、打率.254、4本塁打。三振は214打席で35個と大きく減少している。魅力は力強いスイングと、耳にするだけで怖さを覚えるほどの打球音だ。
「体の強さも自分の持ち味なので、ウエイトにしっかり取り組んで、体重は落とさないように。そこは常に心がけて、どんどん上げていきたいですね。打率も残して長打も打てる。そういうバッターが理想像です。なので、やることはたくさんありますね。打率は.250以上で終わりたいですし、ホームランはもう1本出れば(笑)」
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こうした成長が評価され、今季は初の一軍昇格も果たした。4試合に出場し、6打席で安打こそ出なかったが、2つの四球を選んで出塁した。初めて経験した一軍の世界を、どう感じたのだろうか。
「ファームと違って観客もすごく多いですし、ピッチャーは真っすぐの強さや伸びが1ランク上でした。でも、去年と比べたら一軍でも戦っていけるかなと感じましたし、それを経験できたからこそ、ファームで『もう一度、一軍でやりたい』という気持ちが強く、練習にも試合にも臨めています。今年中に一軍でヒットを1本出したい気持ちはずっとあります」
7月26日、ヤクルト対広島(神宮)。3対4で迎えた9回裏、二死二塁の場面で、ニキータは代打としてネクスト・バッターズサークルで待機していた。
「球場の歓声と盛り上がりはすごかったですね。自分はそのなかでネクストに入っていて、もし打席が回ってきて、そこで打てば初ヒットがサヨナラ勝利につながる。そういうことを考えると、打席に立ちたいという気持ちがあったんですけど、正直、回ってこなくてホッとしたところもありました。今はまだ緊張しちゃうので(笑)。でも、将来的には、ああいった場面で打てる選手になりたいので、あのネクストはいい経験でした」
【追い求める理想の強打者像】
田中陽翔はルーキーイヤーの昨年、早くも一軍で初安打を記録。今年は開幕ベンチ入りを果たし、4月4日の中日戦(神宮)でスタメンに抜擢されると、4打数3安打3打点の活躍を見せた。同22日の広島戦(マツダ)で代打安打を放ち、打率は.412まで上がった。
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期待の大型内野手は「手応えとか実感はあまりなかったですね。なんか打ててるな......くらいでした」と、4月を振り返った。
しかし、その後は安打が出ず、5月10日に一軍登録を抹消された。
「自分の得意、不得意のデータが出た部分があったので、攻められ方が変わりましたね。変化球が苦手というわけではないですが、いろいろな配球をされたので、そこが難しかったですね。でも、そこは自分の改善点が見つかったと前向きに捉えました」
戸田では打撃をメインに取り組んでいる。ここまで52試合に出場して打率.243と苦しんでいるが、出塁率は.345。5二塁打、2三塁打、3本塁打と長打も見せている。
「打率を残して、ホームランを打って、OPSは高い数値を出す。チームはそういう選手を求めていると思うので、その枠を狙って頑張るしかないと思ってやっています。守備は基礎的なことを続ければ、やればやるほどうまくなると信じて練習しています」
7月12日のオイシックス新潟戦では、あと少しでバックスクリーン直撃となる三塁打を放った。それでも本人は「パワー不足ですね」と反省した。
そして8月2日のロッテ戦。今度はバックスクリーン直撃の本塁打を放った。
「三塁打は片手で打った感じだったのですが、それでもホームランになるようなバッターになれたらなと。ホームランになったのはボール球だったのですが、あそこのボールをバックスクリーンに持っていけたのは、前よりは成長したのかなと思います」
今シーズン、目指すのはもう一度、一軍に呼ばれることだ。
「一軍は観客も多いですし、いろんなプレッシャーもあります。その雰囲気で野球ができるのはとてもいいことなので、早く一軍に上がりたいですね。その時はスタメンを取りにいく覚悟でやっていきたいです」
【戸田で見つめ直した自分の打撃】
7月26日、戸田球場。山田哲人は前日から屋外での打撃練習を再開していた。ティー打撃で見せるスイングは力強く、上腕も「こんなに太かったかな」と思うほど、たくましく見えた。
山田は2月の一軍キャンプで左内腹斜筋の肉離れにより離脱。3月7日に戸田球場でリハビリを開始した。5月31日に二軍で今季初実戦を迎え、6月13日のオイシックス新潟戦(柏崎)では本塁打を放ったものの、左太もも裏を痛め、再び戦列を離れた。
山田は戸田で過ごした長い時間について、「とにかく野球のことをずっと考えてますね。バッティングをしっかり見つめ直したりとか、ちょっとでもレベルアップしようとか」と振り返った。
「いっぱいケガをしたので、そのショックでマイナス思考な部分があったんですけど、プラスにどんどん捉えようという思考もありますし......。その繰り返しですね。二軍に長い間いちゃダメだとか、一軍でやってやるぞとか。やっぱり、一軍でプレーしたいってあらためて思うし、本当にとんでもない数の感情がありますね」
8月4日、戸田球場。チームは遠征中で、山田は残留練習でフリー打撃を行なった。練習を終えた石川雅規が見守るなか、その打球はきれいな角度で次々とフェンスを越えていった。
山田も石川も、今季は戸田で長い時間を過ごしてきた。
「石川さんだけでなく、石山(泰稚)さんも今ここにいますし、ベテランと言われるピッチャーたちと、一軍でまた一緒にプレーしたいという気持ちは持っています。試合はチームのために早く戻りたいという気持ちで見てましたし、自分のためにも戻りたいですね」
【一軍で野球ができることに感謝】
そして8月22日、バンテリンドームでの中日戦。
「やっとだなという気持ちです。全力でプレーしますし、起爆剤じゃないですけど、そういう立場になれたら」
山田は、ようやく一軍の舞台に戻ってきた。6番・一塁で先発出場。結果は3打数無安打だったが、山田が打席に立つだけで球場の空気は変わった。
「ふわふわして、地に足がついてなかったですけど、一軍で野球ができることにあらためて感謝の気持ちを感じながらプレーしました」
25日の巨人戦(神宮)では、4番・ファーストで先発出場し、4打数3安打の活躍。
「今年の初ヒットも打てましたし、個人的にはスタートが切れました。待っている球を打ち返しましたし、変化球にも対応できたのでよかったのかなと思います。明日に向けてまた頑張ります」
シーズンはいよいよ終盤戦に突入する。池山隆寛監督は「常にファームとは連係をとっています」と話す。
「状態、状況、常に報告と映像を見ながら、この先、一軍に上がってくる選手もいますし、力になってくれると思っています」
チームはAクラス入りをかけた厳しい戦いを続けている。そのなかで、戸田にいる選手たちの力が必要になる時が、必ず来るはずだ。
島村誠也●文 text by Seiya Shimamura
