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2027年4月、食料品の消費税が1%に減税される。
政府は8月5日の臨時閣議で「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針を閣議決定し、2027年4月1日から2年間、軽減税率の対象となっている飲食料品への消費税率を1%とする経過措置を定めた。1989年の導入以来、消費税率が下がるのは初めてである。
ただし「1%減税」という言葉だけを追うと、制度の全体像を読み違える。
今回の閣議決定の本質は、減税ではない。飲食料品の1%への引下げは2029年度に本格導入される給付付き税額控除までの「つなぎ」と位置付けられ、飲食料品に係る消費税1%相当分の範囲内で先行給付を組み合わせることによって「実質ゼロ化」を実現する設計になっている。
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財政からは、減税7%分に加えて、もう1%分が給付として出る建て付けだ。
では家計には具体的にいくらの効果があるのか。これは総務省の家計調査から計算できる。
2025年の平均世帯人員2.87人の世帯では、食料費は月9万4895円だった。このうち外食費1万6563円と酒類費3784円は減税の対象外となるため、計算上、減税の対象になるのは7万4548円ということになる。
年に直すと約89万5000円で、税率が1%になれば、同じ買い物がおよそ83万7000円で済む計算になる。差額は約5万8000円。共働きの子持ち世帯を仮定した場合、決して小さくない軽減幅だろう。
●減税分をそのまま値下げさせる決まりはない
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しかし、減税で生まれた値下げできる余地を、どれだけ小売店や中間事業者が利益として取り込むかは未知数だ。
消費税法には「税率が下がったぶん販売価格を減額すべき」という規定はない。
つまり税率が下がったとき、税抜価格を同じだけ引き上げて業者が丸ごと手取りを増やす行動も合法である。生産者も、卸業者も、食品メーカーも、小売業者も、それぞれが値下げ余地を自社の利益として取り込む選択肢を持っている。
●外食チェーンの7割がマイナス影響と回答
値下げ余地の奪い合いに、そもそも参加できない当事者がいる。それが外食事業者だ。
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スーパーの食料品やテークアウトは1%になる一方、店内飲食と酒類は10%のまま据え置かれる。ここで、冒頭の家計調査を再確認しよう。平均的な世帯は、食料費9万4895円のうち1万6563円を外食に払っている。食費のおよそ2割近い水準であり、無視できない規模だ。
現状では、スーパーの食料品8%と店内飲食10%の差は2ポイントしかない。1000円のランチなら税額の差は20円で、そこまで大きな差ではない。ところが減税後、この差は9ポイントに開く。
日本経済新聞社がまとめた2025年度飲食業調査によれば、外食チェーンの約7割が食品減税を「マイナスの影響」と捉え、持ち帰りに活路を求める動きが出ている。
飲食店ドットコムを運営するシンクロ・フード(東京都渋谷区)が1月30日から2月3日に会員306店舗へ実施した調査では、上記の統計と同様、73.5%が業績への影響を懸念し、心配な点として最も多かったのが「外食需要が減り、客数が減少する」(47.5%)だった。
ただしこの調査は衆院選期間中に「食料品消費税ゼロ」を前提として行われたもので、賛否は賛成32.5%、反対38.3%と拮抗している。業界が一枚岩で反対しているわけでもないことが分かる。
●「仕入税額控除が減るから実質増税」のウソ・ホント
外食業界が抱く懸念としてもう一つ、繰り返し語られてきた論点がある。
食材の仕入れにかかる消費税率が下がれば売り上げから控除できる金額が減り、店が納める消費税額が増えるので実質増税になるのではないか、というものだ。前述のシンクロ・フード調査でも「納税負担が増す」が38.6%で2番目に多かった理由だ。
だが、この理屈は成り立たない。
軽減税率は飲食料品の「譲渡」に適用されるため、飲食店の食材仕入れも1%になる。つまり、納税額は確かに増えるが、支払いも同額だけ減るため影響はゼロだ。
むしろ簡易課税を選択している小規模な飲食店にとっては、仕入税率の引き下げが追い風になる可能性がある。飲食業の簡易課税は「売り上げにかかる消費税の40%」を納付する仕組みのため、実際の仕入税額がいくらであっても納税額は変わらない。そのため、仕入れ先から軽減税率分(税率低下分)の値引きを受けられれば、仕入コストが下がり、その分だけ手元にキャッシュが残りやすくなるためだ。
ただし、問題はその先にある。
卸業者やメーカーが税抜価格を約7%分引き上げ、減税前と同じ価格に据え置いたらどうなるか。飲食店は支払額が1円も減らないのに、仕入税額控除だけを7%失う。これは純粋な損失となってしまう。
つまり外食事業者の懐が痛むかどうかは、サプライチェーンの上流にいる業者次第である。減税分の値幅をどう処理するかについて決められたルールがないという事実は、家計だけでなく、飲食店の粗利にも同じ形で降りかかるのである。
●最低賃金は4.9%上昇、人件費負担は増え続ける
そして外食サービスを提供するための人件費は、税制と無関係に上がる。
厚生労働省の中央最低賃金審議会は7月28日、2026年度の地域別最低賃金額改定の目安を答申し、全国平均を現行の1121円から55円引き上げて1176円とする内容を示した。引き上げ率は約4.9%で、Aランクが54円、B・Cランクが56円と地方の引き上げ幅が大都市を上回る形となっている。
外食産業は労働集約型の典型例であり、パートやアルバイトを大量に雇用している。最低賃金の引き上げ負担を、最も直接的に受ける業界の一つだ。人件費は税制がどうなろうと上がっていく。
価格の上限(天井)が下がり、人件費などのコスト(底)が上がる。その間に挟まれた「粗利」が、どんどん押し潰されていく――。
価格の天井を押し下げるのは「外食と食料品の税率の差」であり、コストの底を押し上げるのは「最低賃金の引き上げ」だ。減税制度そのものはコストを下げてはくれない。むしろ、減税分を価格に転嫁できないという形で、じわじわと経営を圧迫する。
「賃上げと経済成長の好循環」を生み出す順番はシンプルだ。まず企業が「適正な値上げ」を行い、それによって生まれた「粗利」を「賃上げ」の原資にする。これ以外の道はない。
しかし、外食を除外した形での食品減税が行われれば、働く人が多い外食産業から、このスタート地点である「値上げする権利」を奪い去ってしまう恐れがある。
●コメ価格の下落が頼みの綱?
ここで飲食店にとっての望みの綱というべき存在が「コメ価格」だろう。
JA全農にいがたは8月18日、2026年産のコシヒカリについて、農家に支払う仮の買い取り価格(概算金)を玄米60キログラム当たり1万8500円と決めた。前年比で38%の大幅な引き下げとなる。記録的なコメ余りを背景に、先行して2割安となった鹿児島県などの早期米を上回る下落幅となった。
ローソンは8月24日、コメ価格の下落と今後の仕入れ価格も低下する見通しを理由に、9月29日から主力の手巻おにぎり計20品を10円から11円値下げすると発表した。ファミリーマートも大きなおむすび昆布とツナマヨネーズを320円から298円に下げた。過去4年で5度の値上げを重ねてきたコンビニおにぎりが、値下げに転じたのである。
コンビニおにぎりはテークアウトであり、2027年4月には1%の対象になる。つまりコメ安と減税が二重に効く商品だ。一方、同じ店の店内飲食のご飯ものに効く要因はコメ安だけだ。コンビニやスーパーの惣菜が恩恵を受ける中でどうしても店内飲食のメニューだけが、10%という割高な消費税率を背負い続ける可能性が高い。
●企業は減税分の全てを「値下げに充てるべき」ではない
食料品の消費税を1%にするという政策は、家計への支援策として設計されている。
平均的な世帯で年約5万8000円という減税は、物価高に苦しむ家計にとって一定の助けにはなるだろうし、そこを疑うつもりはない。給付付き税額控除への「つなぎ」という位置付けも、制度としては筋が通っている。
ただ、外食や小売企業が減税分の全てを「値下げに充てるべき」という世論が形成されるのも危うい。コメなどの局所的な品目が値下がりしているのはもちろんだが、全体としては物価上昇と賃上げがダブルの負担としてのしかかっているからだ。
このような状態で減税幅をそのまま値下げに反映させることは、企業の粗利を削ることになるだろう。そうなれば、企業の賃上げ余力は細り、巡り巡って家計に行き渡るはずの賃金を目減りさせることになりかねない。
減税の効果を見分ける手がかりは、「物価上昇率を抑えられたかどうか」ではないと筆者は考える。むしろ外食をはじめとする内需企業の粗利率と、2028年春闘の賃上げ率のほうに答えが出るのではないだろうか。
食料品の値札は、政策で下げることができる。しかし、賃金は粗利のないところからは生まれてこないのだ。
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