限定公開( 5 )

今年の夏も、昨年に引き続き「ミスタードーナツ」の「もっちゅりん」が大ブームとなった。その人気はすさまじく、中には午前10時の開店前から長い行列ができ、開店から30分もたたないうちに完売する店もあった。開店前から並んでも買えない人がいたほどで、まさに空前の大ヒット商品と言えるだろう。
もっちゅりんは、2025年6月4日にミスタードーナツの創業55周年を記念して発売された、独特のもちもち感が特徴のドーナツだ。もちもち食感のその先を目指して開発した“もっちゅり食感”を最大の売りにしていた。
今年のもっちゅりんは、6月3日から第1弾の店頭販売を開始し、その後第2弾を販売する予定だった。しかし、あまりに売れ行きが良かったため、第2弾の販売を取りやめ、7月中旬から順次販売を終了した。フレーバーは、昨年人気だった「きなこ」(テークアウト216円)と「みたらし」(同226円)を継続し、新たに「いちご」(同237円)を加えた3種類だった。
店舗によっては1日に3000個を売る店もあったほどで、一部の店舗では一度に購入できる個数や販売時間に制限を設けていた。それでも、あまりの行列の長さに購入を諦めたり、店頭やネットで公表された販売開始時間にスケジュールを合わせられず、買うのを断念したりした人も多かった。また、もっちゅりんを買い求める人が殺到したことで、それ以外のお気に入りの商品を買いたい人が購入できなくなるというトラブルまで発生。行列を整理するために警備員を雇ったり、レジが忙しくなりすぎて客席にまで店員の目が届かなかったりするなど、店舗運営にも少なからぬ混乱があったという。
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このもっちゅりんブームは、なぜ起こったのか。日本におけるドーナツの歴史を振り返りながら考えてみたい。
●大人気のもっちゅりん、どんな商品?
今年のもっちゅりんは5月14日からネットオーダーでの予約受付を開始し、6月3日から店頭販売と予約分の受け渡しを開始した。
昨年は反響が大きく、店頭に商品が並んだそばから売れていき、幻の商品と化していた。購入できなかった人も多かったことから、今年はネットオーダーでの事前予約を発売の約半月前から開始した形だ。
昨年のラインアップは、きなこ、みたらし、あずき、黒糖&わらびもちの4種類。今年はその一部を引き継ぎながら新たな味を追加し、きなこ、みたらし、いちごの3種類を販売した。それぞれきなこ餅、みたらし団子、いちごクリーム大福を思わせる味わいだったが、手に取ったときの独特な感触は共通しており、弾力がありながらも柔らかい。ドーナツというよりは餅や団子に近く、新ジャンルの和菓子、あるいは「和ドーナツ」といった印象だった。
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この独特の柔らかさともちもち感は、国産の餅粉と米粉を配合し、揚げた後の生地の表面に、特別に開発したオリジナルのコーティングを施すことで生み出されている。
この独特のドーナツの手触り感や食感に加え、パッケージに描かれたキャラクター「もっちゅりん」もかわいらしく、人気を盛り上げる要素の一つとなっていた。
●今は第5次ドーナツブーム
そもそも、なぜこのようなもちもち食感のドーナツが人気になったのか。その理由を探るため、日本におけるドーナツの進化を振り返ってみたい。
ミスタードーナツが日本に上陸したのは1970年代だ。その後、日本のドーナツ市場は大きく変化しており、2022年頃からは「第5次ドーナツブーム」とも言われている。
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第1次は1970年代だ。ミスタードーナツやダンキンドーナツが相次いで米国から上陸し、イースト生地を使った本格的なドーナツが日本全国に普及した。
第2次は2003年。ミスタードーナツの「ポン・デ・リング」が登場し、もちもち食感のドーナツが一躍人気となった。
第3次は、2006年のクリスピー・クリーム・ドーナツの上陸をきっかけとしたブームだ。同チェーンには、最大9時間待ちの行列もできたといい、驚異的なヒットとなった。その後は、豆乳とおからを使用した「はらドーナッツ」(防腐剤や保存料を含まない)など、健康志向の商品も人気を集めた。
そして第4次は、2014年頃から本格化したコンビニドーナツの大攻勢である。
現在の第5次ドーナツブームをけん引しているのが、卵やバターをたっぷり使った仏発祥のパン生地であるブリオッシュ生地などを使った「生ドーナツ」だ。そこに、もちもち感をさらに進化させたミスタードーナツのもっちゅりんが加わり、ドーナツ人気をさらに押し上げている。
●他社のドーナツも負けてはいない
現在の第5次ドーナツブームは、日本オリジナルの新しいドーナツが次々と生まれている時期だと言えるかもしれない。有名どころでは、丸亀製麺が開発した、うどんをペースト状にして生地に練り込み、もちもち食感を実現した「うどーなつ」などが挙げられる。
柔らかさが特徴の、いわゆる生ドーナツを最初にヒットさせたのは、2020年にオープンした東京・池袋の「ラシーヌ ブレッド&サラダ」だろう。同店の系列店が販売した、ブリオッシュ生地を使った口どけの良いドーナツは、今日の生ドーナツブームの起点になったと言われている。
また、ブリオッシュ生地を使ったドーナツを生ドーナツとして打ち出したのが、福岡のベーカリー「アマムダコタン」だ。ブリオッシュ生地を揚げたところ口どけが良く、半熟のような食感が生まれたことが開発のきっかけだった。この生ドーナツをより多くの人に届けようと、2022年には東京・中目黒にドーナツ専門店「アイムドーナツ?」をオープン。長蛇の列ができる人気店となった。
これらのドーナツ店が切り開いた口どけの良い「生食感」をはじめ、近年は米粉などの日本らしい素材や、独特の食感を生かしたドーナツが次々と登場している。
もっちゅりんもこうした新しいドーナツの潮流から少なからず影響を受けているだろう。その上で、ミスタードーナツならではの「もちもち」をさらに進化させ、多くの人がリピートしたくなる画期的な商品を生み出したのだ。
●自社商品の影響も大きい
こうした生ドーナツをはじめとする新たな潮流を受けつつも、もっちゅりんの原点となっているのは2003年に発売されたポン・デ・リングだろう。
ミスタードーナツは1971年に大阪府箕面市に日本1号店をオープンして以来、かつての米国中産階級の豊かなライフスタイルを発信するドーナツチェーンとして飛躍的な成長を遂げてきた。しかし上陸から30年以上が経過し、日本らしいオリジナルの商品が求められるようになってきた。ポン・デ・リングはそうしたニーズに応えた形だ。それまでも、甘さを抑えるなど日本に合わせたカスタマイズは行われていたが、アメリカンドーナツの大枠は壊していなかった。
8つの丸い団子が輪になってつながったような独特の形と食感が、ポン・デ・リングの特徴だ。ブラジルの小さくて丸い、弾力のあるチーズパン「ポン・デ・ケージョ」を参考に開発された。
ポン・デ・リングが登場する前のミスタードーナツのヒット商品は、大きく3つの食感に分かれていた。1つ目は「エンゼルクリーム」や「ハニーディップ」のようなふんわり、しっとりした食感の商品だ。2つ目は「フレンチクルーラー」のような軽くて口どけの良い商品。そして3つ目が「オールドファッション」のようなサクサクとした食感が特徴の商品である。
ポン・デ・リングが目指したのは、これまでの3つとは異なるもちもちとした食感だった。タピオカ粉を使ったポン・デ・ケージョのもちもち食感を参考に、タピオカ由来のでんぷんを使用し、それまでのドーナツにはなかった独特の食感を生み出したのである。
この独特な形と特徴的な食感が話題となり、売れすぎて材料不足に陥るほどの反響を呼んだ。翌2004年には、ミスタードーナツの商品から生まれた初のマスコットキャラクター「ポン・デ・ライオン」も誕生し、さらに人気に拍車がかかった。
ポン・デ・リングは、2023年5月末時点でシリーズ累計販売数約35億個を突破。ミスタードーナツを代表するヒット商品となっている。
●実は最悪のタイミングだったポン・デ・リング
実はポン・デ・リングが流行したタイミングは、ミスタードーナツにとって最悪ともいえる時期だった。
当時のミスタードーナツは、2002年に発覚した「ミスター飲茶」の中国製「大肉まん」を巡る不祥事で揺れていた。日本では使用が認められていなかった酸化防止剤が使われていたことが、内部告発によって判明したのだ。
しかも、担当役員が問題を指摘した取引業者に6300万円を支払い、隠蔽(いんぺい)を図ったことも明らかとなった。また、問題を把握しながらも未出荷だった約300万個の在庫を売り切る判断をしていたことも判明し、社会問題へと発展したのである。
この不祥事により、ミスタードーナツはもちろん、運営会社であるダスキンのイメージも著しく低下し、上田武社長が引責辞任する事態となった。それだけに、常務から昇格した伊東英幸社長の下で発売されたポン・デ・リングは、会社の立て直しを後押しした救世主とも言える存在だった。
もっちゅりんはこうした不祥事の影響を受けた商品ではないが、このポン・デ・リングの存在がなかったら生まれなかったかもしれない。
●もっちゅりん大ヒットの要因は?
このように考えてみると、もっちゅりんのヒットは、ポン・デ・リングが切り開いたもちもち食感の流れが、現代的な形になったものと言えるだろう。
その背景には、コロナ禍以降に広がった生ドーナツという新しい潮流もあった。ミスタードーナツは、そうした生食感のトレンドを取り入れつつ、自社のヒット商品であるポン・デ・リングが築いた“もちもち”という強みに、さらに柔らかく弾力のある“もっちゅり”食感を加えた。
世の中の潮流を捉え、自社商品にさらに工夫を加えたことが、2年連続となる全国的な大ヒットにつながったのである。
これらの商品によって、日本のドーナツの輪郭が明確になってきている。ポン・デ・リングのように、ブームを超えて定着するだろう。
(長浜淳之介)
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