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1台数百万〜数千万円以上する計測機器がずらりと並び、研究員がPCに向き合っている――ここは、精密機器メーカーの島津製作所が神奈川県川崎市に開設した研究施設「Shimadzu Tokyo Innovation Plaza」だ。
施設の案内役を務める同社の西尾徹氏(分析計測事業部 Solution COE 殿町総務グループ シニアエキスパート)は「理想的なラボを目指し、実際に良い環境を構築できています。何も隠さず見せられるラボを目指して、全て見せています」と説明する。
島津製作所の創業は1875年(明治8年)にさかのぼる。京都の仏具商を家業にしていたが、明治維新後に仏具の注文が急減。産業の転換期を予見した創業者が、教育用の理化学機器を製造したのが始まりだ。その後は「蓄電池の国産化」「日本初の医療用X線装置」など数々の実績を残してきた。2002年には、同社の田中耕一氏が「ノーベル化学賞」を受賞したことで大きな注目を集めた。
2025年度通期の売上高は5607億円、営業利益は737億円で過去最高を記録。物質を分析・計測する機器の事業が、6期連続で過去最高の売上高を達成し、業績をけん引している。その計測機器のショーケースがShimadzu Tokyo Innovation Plazaであり、京都府に本社を置く同社は「関東における技術開発、顧客支援、社外連携の拠点」と位置付けている。
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島津製作所が作った「理想的なラボ」とはどのような場所なのか。ガラス張りにして全てを見せる狙いとは。同施設をのぞくと、島津製作所という企業の“強み”が見えてきた。
●「理想的なラボ」に潜入 「1台数千万円」の機器を“丸見え”にする狙い
島津製作所がShimadzu Tokyo Innovation Plazaを開設したのは2022年。同社が手掛ける計測機器を150〜160台集めている。同施設で働く従業員は約100人で、その約8割が、計測機器を使ってデータ収集やレポート作成に当たる研究員だ。施設を造った狙いは3つある。
1つ目は「先端分析手法の開発」だ。同社は、最先端の計測機器を開発してから、その活用方法を探る方式を採っている。「Aという用途に合わせて機器を開発する」という順番ではなく「この機器をこう使えば用途Aに対応できる、こう使えば用途Bに適用できる」と活用方法を検討するイメージだ。顧客の要望や社会課題に合わせて分析手法を編み出す上で、顧客がアクセスしやすい川崎市が好立地だったという。
2つ目は「顧客の技術サポート」だ。同社製品を購入する前の見学やデモンストレーションに役立てる。営業支援の一環として「機器の購入予算を獲得するためのデータ取り」「競合する計測機器メーカーと比較するためのテスト分析」なども実施している。
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3つ目は「社外連携」だ。Shimadzu Tokyo Innovation Plazaは、羽田空港の対岸にある川崎市の都市開発プロジェクト「殿町国際戦略拠点」(キングスカイフロント)の一角にある。国立医薬品食品衛生研究所や花王、日東紡績、東京科学大学などライフサイエンス(生命科学)分野の研究機関や企業など、約80の組織が集まっており、ここで共同研究や国内外の顧客との連携などに力を入れている。
「もともと関東のラボは神奈川県秦野市にあったのですが、アクセスが不便で、埼玉県のお客さまなどは『京都の本社に行った方が早い』という状況でした。旧ラボが古くなったため、キングスカイフロントに入居しました。羽田空港に近いので、北海道や九州の方は『便利になった』と話しています」(西尾氏)
●「理想的なラボ」を作り上げるための工夫とこだわり
同施設は4階建てで、4階には会議やイベントホールがある。3階は、オフィスとラボに分かれている。ラボ側は、環境分析を軸とする「Green Science Lab.」で、約35台の「ガスクロマトグラフ」(GC)を設置している。同装置は、化合物が混ざった気体や液体を気化させたものを分析し、化合物ごとに分離・測定できる。例えば、日本酒を製造する獺祭(山口県岩国市)が導入している。
約35台のガスクロマトグラフは、機器の組み合わせや構成がそれぞれ異なり、全く同じ仕様のものは置いていないという。西尾氏は「分析するサンプルを顧客から受け取った後、部品の交換などをせずに済むように、さまざまな装置を待機させています」と述べる。
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ガラス張りの室内に計測機器が並んでいる様子は、一見すると「自社製品のショーケース」のようだ。しかし、実際に使う研究室として「理想的なラボ」にするため、配線を隠したり動線を妨げない配置にしたりといった工夫が詰まっている。
「最大のポイントが『空調』です。ガスや蒸気を室外に排出する排気設備を稼働させると、ラボ内の気圧が下がって『ドアが開かない』『結露する』などのトラブルが生じます。排気設備メーカーは排気だけを考えていて、建物の建設会社は排気のことを考えていないため、丁寧に設計しないと大変なことになります。当社のラボは、排気分と同じ量の空気を送り込むことで、気圧の問題を解決しました」(西尾氏)
●インドに年2000台出荷 最注力の「液体クロマトグラフ」とは
2階にある「Healthcare Science Lab.」には、約50台の「液体クロマトグラフ」(LC)を設置している。LCは、医薬品などの化合物を、液体の状態で分離・分析する装置だ。島津製作所が「重点事業」に掲げる領域で、売り上げの柱になっている。
LCはインドへの販売が好調だ。西尾氏によると、売れ筋の機種は月間約180台、年間約2000台を出荷しているという。「インドには、ジェネリック医薬品の製薬メーカーが多数あります。日本のジェネリック医薬品会社を全て束ねた規模の会社が20〜30社存在します。インドの製薬会社の販売先は主に北米です。医薬品の規制を担う米FDA(食品医薬品局)の厳しい監査を通るため、LCなどの装置で品質を管理しなければなりません」(西尾氏)
以下の写真にある、円筒形の機器は質量分析計で、別のLCに接続している。通常のLCは、分析の対象が判明しているときに使用する。質量分析計を組み合わせることで、未知物質の正体を特定できるという。
「(2024年に起きた“健康食品サプリメント”を巡る健康被害の事件で)原因となった成分の分析にこの装置が使われました。国の研究所に同じ装置があり、毎晩徹夜して分析したと聞いています」(西尾氏)
●共同研究で解決したかった島津製作所の課題
Shimadzu Tokyo Innovation Plazaの2階には、他社や大学などとの共同研究に使う小振りなラボが3部屋ある。共同研究の狙いについて、西尾氏は次のように説明する。
「分析装置をたくさん持っていますが、分析するサンプルがありません。お客さまはサンプルや課題をお持ちのため、共同研究をして新しい分析技法を開発しています」
島津製作所が場所や装置を提供し、顧客と共に課題解決に挑む。出来上がった成果は両者で共有する。顧客に近いShimadzu Tokyo Innovation Plazaだからこそ、顧客課題を入り口にして新たな分析手法を開発できる。
●近くを走る「貨物列車」が計測に影響? 「磁気シールドルーム」で対策
1階にある「Material Science Lab.」には、物質や材料が持つ物理的・科学的な特性を測定する物性計測関連の装置を集めている。物質を引っ張って強度を調べる「材料試験機」や、X線を使って物体を壊さずに内部を調べる「非破壊検査装置」などが並んでいる。
ドラム型洗濯機を巨大化させたような見た目の装置は「電子線マイクロアナライザ」だ。試料に電子線を照射し、反射したX線を分析することで元素の組成などを分析できる。西尾氏によると自動車産業の導入が多く、ある大手自動車メーカーグループ内で50〜60台が稼働しているという。例えば、車の部品が折れた場合に、破損箇所に付着した元素の分布から原因を探るようなケースがある。
同じく1階には、電子線マイクロアナライザなど幾つかの装置を集めた「磁気シールドルーム」がある。外部からの磁気ノイズを遮断する特殊な部屋で、その目的について西尾氏は「約200メートル離れた場所を、貨物列車が通過します。長い車両――鉄の塊が水平移動すると磁界が発生し、装置から照射する電子線に影響を与えます。装置を設置した後にそのことが分かり、磁気シールドルームを作りました」と説明する。
測定時間が短い場合は、列車の影響を受けないため通常のラボで問題ない。装置の設定によっては3〜5時間掛けて測定・分析する場合があり、影響を低減するため磁気シールドルームを使う。
●半導体製造装置メーカー向け製品で「世界シェア1位」
Shimadzu Tokyo Innovation Plazaの1階には、島津製作所の歴史や事業についてまとめた展示スペースがある。展示の中で目立っていたのが、タービンの模型だ。「ターボ分子ポンプ」という装置で、タービンを高速回転させて真空を作り出す。
「半導体製造装置メーカーに納入しています。国内外の主要なメーカーに納めており、産業用ターボ分子ポンプ市場で世界シェア1位です。需要が殺到していると聞いています」(西尾氏)
島津製作所の山本靖則社長は6月、中期経営計画(2026〜2028年度)の説明会で「成長市場として注力するのが半導体分野です。当社はこれまで、ターボ分子ポンプをはじめとする真空技術で半導体分野のお客さまを支えてきました。今後は、ここに計測技術を加え、Analytical Intelligenceの(※システムやソフトウェアが熟練技師と同じように操作する)考え方のもとで、トータルソリューションを提供します」と語った。
島津製作所は、Shimadzu Tokyo Innovation Plazaを拠点とした顧客との共創によって計測機器事業を伸長させると同時に、培った技術や研究成果を他の事業に展開する方針だ。創業150年を迎えた同社は、さらなる成長をつかめるか。
(アイティメディア:荒岡瑛一郎)
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