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「AIで効率化しても、給料は増えないし仕事が詰め込まれて忙しくなるだけ。上司には黙っておいて、浮いた時間でこっそりサボる」──とあるエンタメ系企業でPRやマーケティングに携わる20代男性のUさん(仮名)は、最近の働き方についてこう話す。
Uさんの職場では数年前に生成AIの利用が認められ、業務資料も一部入力可能に。要約や資料作成など、さまざまな業務をAIで効率化できるようになった。それ以前から生成AIに関心のあったUさんは、自身の業務を効率化するためのワークフローなどを社用のAIツールを活用して独自に構築。月10時間ほどの業務削減に成功したという。
ただ、Uさんはこの事実を同僚や上長には報告していない。「教えてもさらに仕事が増えるか、そうでなくてもノウハウ共有を求められるだけ。評価制度上、仮にやったとしても自分の昇格や昇給にはつながりそうもないので、頑張る意味が見いだせない」と話す。
とはいえ、仕事が済んでいるからといって早く退勤すると怪しまれるため、在宅勤務で働いていることを生かし、浮いた時間は恋愛マッチングアプリに充てている──つまりサボっているという。
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Uさんの勤め先には生成AIを活用した効率化やビジネスアイデアを募る取り組みもあるが、これにも非協力的だ。「受かったとしてもらえるのは何万円か。効率化できるなら隠れてするし、事業アイデアがあるなら自分でやったほうがもうかるのでは」(Uさん)
会社を辞めず、一方で向上心も見せず必要最低限の仕事だけをこなす働き方を「静かな退職」と呼ぶが、Uさんも自身の働き方を「20代にして、AIの力で静かな退職をしているようなもの」と表現する。
「『AIで浮いた時間をより本質的な業務に使える』というが、効率化すればするほど仕事が増え、それで給料も上がらないなら取り組むうまみはない。会社には、せめて評価制度の見直しを考えてほしい」(Uさん)
●調査で浮かび上がる“成果隠し”の実態
Uさんは極端な例かもしれないが、同じようにAI活用の成果を隠す会社員は少なくなさそうだ。IT企業の米Ivantiが2025年に複数の国で実施した調査によれば、調査対象者の52%が「AIの支援を明かすと、AIが軽減してくれると期待していた業務負担がさらに増える可能性がある」との懸念も示したという。実際にAIによる生産性向上を雇用主に隠す人は全体の32%おり、特に若い世代で顕著だった。
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生産性向上を隠す理由はさまざまだが、最も多いのは「秘密があることの優位性」を好むためだった。他にも「仕事がなくなる」「雇用主がAI活用ポリシーを定めていない」「業務が増える」(同率2位)といった懸念も挙がった。
Ivantiは調査結果について「誰がAIによる生産性向上の恩恵を受けるかという点において、雇用主と従業員の間で奇妙かつ憂慮すべき緊張関係が存在する」との見解を示している。Uさんの例も、AIによる“効率化の果実”を従業員が取るか、雇用主が取るかという見方ができるだろう。
●日本も同様? パーソル総研に聞いた
日本も例外ではないかもしれない。パーソル総合研究所の田村元樹研究員によれば、直接的なデータは出ていないものの、似た状況を匂わす調査結果が出ているという。
例えば同社が実施した「生成AIとはたらき方に関する実態調査」によれば、AIで削減できた時間の61.2%は再び業務に充てられている他、その多くが日常業務に使われており「効率化が本人の余裕として還元されにくい構造がある」(田村研究員)という。また、ヘビーユーザーほど残業時間が長い傾向も見えた。
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さらに「AI環境における人材とマネジメントに関する定量調査」では、AIの活用や、周囲への教育・サポートといった貢献が「正式な業務や評価に位置づけられていない」と感じる人が32.5%に上っていた。
以上の結果から、田村研究員は「『意図的に隠している』という行動は当社の調査からは直接見えていないが、上記のように共有しても報われる設計になっていない構造を踏まえれば、業務を効率化していること自体をあえて申告しない人が一定数いても不思議ではない。Uさんのコメントは、その構造をよく言い当てていると感じる」と話す。
●労使双方が“果実”を得られるAI活用
では、労使双方が“果実”を得られるようなAI活用の在り方は存在するのか。
田村研究員は「生成AIとはたらき方に関する実態調査では、AIの利用を統制する『組織タイプ』でも運用を個人任せにする『現場タイプ』でもなく、個人の成果を組織の資産に変える設計が要点ということが分かった」と説明。理想的な組織には「マネジメント」「組織づくり」「人事評価」という3点の変容が必要と唱える。
マネジメントについては「AIを使う環境では、部下の成果を引き出す上司の行動は、従来と変わる」と田村研究員。「仕事の入口と出口を管理する従来型に対し、AI環境では『仕事の枠と裁量を示す』『思考の深さを問う』『学びへ接続する』支援が成果に結びつく。上司は成果物の管理者から、人とAIの協働を整えるチューナーのような役割へ移る必要がある」という。
組織づくりについては「AI活用で組織的成果を出す組織には『変化の受け皿』『意思決定の秩序』『機動的なヨコ連携』の3要素が共通する。これらが高い組織は業務標準化・生産性・変革の成果が高い。低い組織は成果が出ないだけでなく、調整負荷が現場管理職に集中する。属人的な根回しに依存しない仕組み化が鍵」(田村研究員)
人事評価は「最も重要」という。田村研究員は同社の「人事部トレンド定量調査2026」を踏まえ「AI活用を『評価・処遇へ反映』している企業は12.0%にとどまる。まず人事が着手できるのは、工夫や試行、教育貢献を正式に評価対象へ組み込むこと、そして『AIを試した人が得をする』評価への転換」と分析する。
以上を踏まえ「AIの利用量ではなく、成果につながる質を評価する設計が、労使双方が果実を得る前提になるのではないか」と田村研究員。昨今急速に広がるAI活用だが、その効果を最大化するには、組織体制の見直しまでを見据えるべきなのかもしれない。
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メルカリ「限定公開」機能が物議(写真:ITmedia NEWS)49

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