
NTTドコモの通信品質改善が、ここ数年の課題になっている。コロナ禍が明けた2023年以降、トラフィックの急増やエリア変動への対策が追い付かず、「つながりにくい」という不満の声が急増した。ドコモはこの3年、人口が集中するエリアの対策強化や基地局のチューニングを行い、体感品質の向上に努めてきた。
では2026年9月時点で、ドコモの対策はどの程度進んでいるのか。同社常務執行役員 ネットワーク本部長の引馬章裕氏が、通信品質向上に向けた進展や今後の取り組みについて説明した。
●2026年度末に5G基地局を1万局増設する見込み SAも急ピッチで拡大
ドコモは2026年度第1四半期にて、2500局の基地局構築を完了させ、このうち5G基地局は1500局に上る。引馬氏は「2025年の下期(6カ月分)相当の基地局構築を3カ月で終えており、構築のスピードアップを図っている」と説明する。また、基地局の設備容量は、基地局数、セクター数(カバーする角度や方向)、帯域幅で決まるが、5G基地局の設備容量は、2025年度と比較して全国で2%増量した。
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なお、2026年度第1四半期の決算説明で、2026年度の計画に対して、基地局の建設スピードが目標を下回っていることが明かされた。その理由について引馬氏は「特定の部材を調達できなかった」ことを挙げる。現在、部材の供給問題は解消しており、「年度末に計画していた数は達成できる見込み」とのこと。2026年度末に5G基地局を1万局増設する予定としている。
ドコモは南関東(1都3県)や大阪、名古屋などの都市部にリソースを集中させることで、ユーザーの体感品質向上を図っている。
5G SA(スタンドアロン)エリアの拡大も進めており、「年度末まではある程度SAを使えるエリアが広がる」と引馬氏。5G SAの対応はKDDIやソフトバンクから後れを取っているが、その理由について同氏は「初期に導入した5G設備の中に、構造上SAに対応できない装置が含まれていたこと」を挙げる。「現在はそれら旧型装置の置き換えを急ピッチで進めている。2027年度中には『5Gエリア=SA対応エリア』となる状態を目指している」とした。
旧3Gサービス(FOMA)終了に伴う800MHz帯の4Gへの転用も進行中だ。2026年度第1四半期にほぼ転用は完了しており、800MHz帯の帯域幅を1.5倍に拡張したことで「混雑していた場所の約8割に対処できた」という。
●全国の重点ポイントで100Mbpsの速度を実現
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ドコモが重視する指標の1つが「体感品質」だ。SNSでの声やアプリの遅延時間、現地調査データなどを用い、体感品質を分析している。
そんな中でトラフィックは年約1.2倍のペースで増加を続けているが、主要都市部での増加量が特に大きい。ドコモは主要都市部の人が集まる場所として、全国253箇所を重点ポイントに設定し、品質改善を実施。引馬氏は「8月時点でほぼ全ての場所において、最も混雑する時間帯でも下り100Mbps以上を出せる状態になっている」と成果を語る。
鉄道沿線の品質改善にも力を入れており、山手線や大阪環状線などの主要路線で動画が快適に視聴できる割合が増しているという。主要59路線での調査では、快適に視聴できる割合が80%を超える路線が拡大しているという。その数は8月に29路線に広がり、2026年度末までに39路線を目標に掲げる。ただし「快適」の基準は「HD動画を3Mbps以上で視聴できること」としており、5Gの通信速度としては物足りない印象も残る。
ドコモが考える「快適な通信」とは、100Mbpsなどの高スループットだけを見るのではなく、3Mbpsなど一定の速度が常に出ているかという点も評価しているという。「移動中のモビリティ制御が正しく機能し、通信が継続できているかを重視している」(引馬氏)
個別の改善事例も紹介した。大阪駅御堂筋南口交差点では、周辺基地局の運用を改善することで、スループットが42Mbpsから191Mbpsに向上した。また、最新型のMMU(Massive MIMO Unit)を駅の近隣に設置したところ、新松戸駅では0.2Mbpsから317Mbpsに、尾久駅では0.7Mbpsから171Mbpsに改善。これら2駅は「ブラウジングもできないほどの速度だった」が、Massive MIMOによって解消できた。
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●AI普及を見据えて上りのトラフィックも対策
引馬氏は、2026年度に入って上りのトラフィックが1.2倍に増加していることにも触れる。大型イベント時には動画のアップロードやSNSへの投稿などにより、上り通信の需要も高まっている。
さらに、今後の生成AIやAIエージェントの普及に伴い、モバイル通信における上りトラフィックが爆発的に増加する可能性も示唆する。エリクソンのレポートによると、AI利用が拡大した場合、5年間で上りトラフィックが3倍以上に膨れ上がる予測もある。「モバイルの上りトラフィック増加量もしっかり見ておかないと、将来的に対応できなくなる」と引馬氏は懸念を示した。
新技術として、最新の「Tri-Band Massive MIMO」を大阪の音楽イベントに投入し、下り2.8Gbps、上り93Mbpsの通信速度を実現した。さらに、AIを活用してネットワークパラメーターを動的に最適化する「MantaRay SON」技術を、複数基地局をまとめたクラスタ単位で適用する取り組みも8月に開始した。混雑している基地局にリソースを自動配分することでも通信品質の向上に努めている。
●外部パートナーの連携や新技術の採用も推進
品質改善やサービス拡張に向けた他社連携も加速している。
三菱地所と大手町・丸の内・有楽町エリアにおける次世代スマートシティー構築で合意し、景観に配慮したミリ波のアンテナ設置などを推進する。三井不動産らが設立したシェアリング事業会社に出資し、建物内の通信環境改善を進める。
ドコモ2026年6月に、電波オークションで26GHzのミリ波(400MHz幅)を落札して割り当てが決まった。既存の28GHz帯(400MHz幅)と合わせてミリ波の帯域を強化し、スタジアムや都市中心部へ適用していく。
衛星通信サービスの「docomo Starlink Direct」については、8月14日にStarlinkと「Starlink Mobile V2」契約を締結し、2028年度中に音声通話やブラウジング機能などを提供する。9月1日にはアメリカ、カナダ、フィリピンを対象とした国際ローミングを開始し、順次提供エリアを拡大する。
●単一の指標だけでは判断しない Opensignalの品質1位にはこだわらず
着実に通信品質の改善を進めているドコモだが、SNSではいまだに「ドコモが遅い」という声が絶えない。同社はどのような指標を持って「改善した」と判断しているのか。引馬氏は「単一の指標だけで判断するのは危険だと考えている。そのため、コールセンターへの申告、SNSの投稿、ユーザーの体感データやトラフィックデータを組み合わせて判断している」と答える。
SNSでは具体的な場所が特定できる投稿をピックアップして分析している一方で、声を上げないユーザーもいるため、体感データなどで潜在的に品質が低いエリアを特定し、現地調査を行って対策を急いでいるという。
通信品質の悪化が目立ち始めた初期の段階(2023年頃)と比べると、「品質が改善していることはデータ上でも確認できている」と引馬氏。ただし、SNSの声やユーザーからの申告は増減を繰り返すため、対策の実施とユーザーへの認知向上の両面で「つながらない」という声を減らしていく方針だ。
認知向上に向けた取り組みについては「地下鉄の駅や名古屋駅など、明確に改善した場所ではプロモーションを実施している」と引馬氏。この他、改善したエリアをよく利用する人に対してアンケート調査を行ったり、4G端末を利用しているユーザーに5G端末への買い替えを提案するマーケティングを行ったりしている。5G端末にすることで、より改善を体感してもらう狙いがある。
通信品質のよさを図る客観的な指標として、調査機関の英Opensignalが実施している「一貫した品質」がある。ドコモの前田義晃社長はかねて、Opensignalの一貫した品質で1位を目指すと公言していたが、その壁は高く、2026年の1月〜3月の調査ではドコモは最下位となってしまった。
引馬氏は「Opensignalの指標は当然意識しているが、お客さまの体感品質を引き上げることを最優先課題としている」と述べ、特定の調査スコアで1位を取ることにこだわらない姿勢を示した。「お客さまの体感品質が向上する結果として、各種スコアも自然とついてくると考えている」(同氏)
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